第108話 流星の誓い

 彼方より曹操たちに向かい10騎ほどの兵士が駆けてくる。

 彼らを率いているのは『夏侯惇』、『夏侯淵』の両将であった。


 彼らは敵を蹴散らし、颯爽と曹操の元へたどり着くと、素早く2人を馬に載せ、その場を後にした。

 その電撃的な行動に徐栄兵たちは全く対応出来ず、矢を雪崩のように放ったが、彼らを捉えることができなかった。


 曹操たちは青林せいりんへと逃げ込み、一息ついた。

 そこには曹操の家臣である『曹仁』、『楽進』、『李典りてん』たちもいた。


「殿ーーーー!ご無事でしたか!殿ぉぉぉぉお!!」


「あーよかった、よかった。あーはいはい。よかった、よかった。・・・本当によかったですぅ。」


「思ったより元気そうですね。安心しました。・・・心配かけないで下さいよ。本当に。」


 3人は曹操の姿を見ると「おーいおいおい!おーいおいおい!」と感極まり泣き始めた。

 彼らだけではない。生き残った500余名の兵たちが皆涙を流した。



「・・・死ぬわけにはいかんな。」


 曹操は目の前で狂喜し、泣いている部下たちを見て、自分の死の重さを感じ取った。


 曹操はこの日、何度も生と死を考えた。


『部下のために生きる』


『名誉ある死を遂げる』


 その二つの想いを抱きながら逃げ回った今日において、曹操はある決意を固めた。



「仮にも将たる者、死を軽んじるべきではない。もしあの時自害していたら・・・この部下たちをどれほど悲しませたであろう。」


「・・・教えられた・・・教えられたぞ、董卓。」


「負け惜しみではない・・・戦に負けて初めて得るものがあることを私は知った。」


 そう言って曹操は天を見上げた。

 満点の夜空に星々が輝く。

 そして、一つの流れ星が夜空を切り裂くように一筋の光線を描いた。

 それを見た、彼の頬にも一筋の雫の跡が描かれた。


「かつて預言者は私にこう言った。『君は乱世の奸雄だ』と・・・。私はその評に満足している。」


 呟きの後、彼は右手で握り拳を作り、天に向かって高々と掲げ、誓いを立てた。


「よろしい、天よ、この私に百難を与えよ。奸雄たらずとも、必ず天下一の英雄になってみせよう。」


 この日、曹操は流れる流星へ誓いを立てた。


 そして、これが曹孟徳、初めての大敗であった。

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