第109話 大事なモノは離さない

 洛陽にて。

 董卓の命により放たれた業火は洛陽全土を火の海にして、七日七夜経ってもなお燃え続けた。

 諸侯たちは各々消火活動に当たり、住む家を失った民たちのために仮設住宅を建てたりした。

 そんな彼らの元に一報が届いた。


「なにっ!? 曹操軍が壊滅しただと!!」


「はい。滎陽の地で奇襲にあい、曹操軍は壊滅的な大敗北。曹操は残党を引き連れ、河内かだいへ落ちて行きました。」


「そうか。・・・ふっ。だから私は止めたのだ。追撃するべきではないと。自業自得だ。」


 報を聞いた袁紹は鼻で曹操を笑い、本陣の会議幕舎に集まっていた諸侯一同にこう忠告した。


「董卓が洛陽を捨てたのは李儒の奴の入れ知恵であろう。その李儒が追撃の事を視野に入れてないはずがなかろうて。それを、一万余名の兵で追撃するなどアホのすること。・・・皆も曹操の様なアホな行動はせんことだ。ハハハハハ。」



 曹操を小馬鹿にすることを主とした会議が終わり、諸侯一同は各々の陣営へと帰って行ったが、孫堅だけは去らずに会議幕舎の外に出て天を見上げていた


(・・・星が乱れている。良くないことがまだ起こりそうだ。)


 天文に通じている孫堅は星座の流れを見て、ため息を吐いた。


 しばらく天を見上げた孫堅は、連れて来た従者数名とともに自陣へと帰って行った。

 その道中にて・・・


「・・・うん?・・・孫堅様、あれは何でしょうか?」


「どうした、どうした?何がどうした?」


「ほら、アレですよ。御殿の南にある井戸から光が発せられています。」


「どれどれ・・・確かに光を発しておるな・・・宝石でも落ちているのか?・・・調べてみよう。」


 孫堅は部下が指さした井戸の中を調べることにした。


 部下の1人が井戸の中に垂らしたロープを伝って井戸の中に入り込み、中の様子を探った。


「あわわ!死体だ!死体がありまぁす!!」


 井戸の中には高貴な人の姿をした女性の死体があり、腐乱して悪臭を放っていた。


「死体だけか?他には何かないのか?光の原因は何だ?」


「死体以外は・・・って光はこの人が両手で握っている小袋から発しています!」


「そうか。その遺体をロープで結んでくれ。引っ張り上げてみよう。」


「了解であります!!」


 井戸の中に入った部下は遺体をロープで結ぶと、井戸の外にいる仲間に合図を送り、井戸の外で待ち構えていた仲間が、女性の遺体を外へと引っ張り上げた。


「オーエス、オーエス!オーイエス、オーイエス!!」


 息の合った孫堅の部下たちのチームプレイにより、無事に遺体を引っ張り上げることに成功した。


 引っ張り上げた女性の遺体は、死んでも離すものかと言わんばかりに小袋を両手でしっかりと握りしめていた。


「う~む。死者殿には悪いが、ちょいと失礼させてもらう。」


 孫堅はそう言って死者に一礼をして、死者が握っていた小袋をはずし取った。

 袋の中身を確認すると、見事な意匠が施された朱いはこが入っていた。

 その朱い匣には可愛らしい黄金の錠がついていた。

 しかし、鍵が見当たらない。


「鍵が見当たらんな・・・仕方ない・・・フンッ!!」


 孫堅は錠を歯で噛んで、それを捻じ切るという原始人プレーで対応した。

 ガリガリガリッという音とともに錠は捻じ切られ、蓋が開けられた。


「何かな、何かな~♪中身は何かな~♪・・・って、ま、まさか!これはまさか!」


 箱の中身を見た孫堅は驚きの声を上げた。


 高貴な人の姿をした女性の死体。

 その死体が大事そうに握りしめていた小袋。

 小袋の中には朱い匣が入っていた。

 朱い匣の中に入っていたモノ、それは・・・


 ・・・続く。

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