第52話 何進の最期

「洛陽の都はすぐそこだな・・・皆の者!全軍停止せよ!この場で待機する!」


 董卓は洛陽から少し離れた西の地の澠池べんちで全軍を停止させた。


「董卓様。なぜ洛陽に入城しないのですか?」


「ふふふ。今入城するのは得策ではない。まずはここから洛陽の動きを観察させてもらう。」


 狡猾な董卓は洛陽に入城して何進の指示に従うことを良しとせず、城外から傍観することにしたのであった。


 この董卓の行動に何進は不満を持った。


「董卓は何故入城せんのだ?」


「それが兵たちを休ませ、生気を養った後に洛陽に入城するとのこと。」


「それはならん。すぐに入城するように使いを出せ。」


「はっ!!」


 何進の命を受け、使者が董卓の元へ向かったが「それは無理な相談ですなぁ~~。」などと上手くはぐらかされてしまい、董卓を入城させることは出来なかった。


 そんなどうでもいいことに時間を掛けている何進に対し、十常侍は宮内で何進軍への対策協議を行っていた。


「何進のマヌケが各地より英雄たちを集結したとの報告が入ったがいかがする?」


「その報が誠ならば我らはいとも簡単に滅ぼされてしまうぞ。」


「確かに。我ら数千の兵に対して奴らは何十万という大軍。防ぐ手立てはありますまい。」


「兵による対抗は不可能。となれば・・・。」


 最後の張譲の意味深な言葉を聞いて十常侍たちは頷いた。

 彼らの頷きを見て、皆が同じことを考えていることを確信した張譲は言葉を続けた。


「何進を暗殺するしかあるまい。」


「うむ。何進を亡き者にしてしまえば後はどうにでもなる。」


「ではそのためには、また何后様の力を借りなければならんな。」


十常侍たちは再三何后のもとを訪れた。



「妹の使いだと?」


「はい。何進将軍。何后様がお呼びです。すぐに宮中に来てほしいとのことです。」


 何后の使いはそう言って書状を何進に渡した。

 何進は受け取った書状を読むと使者に了承の返事をした。


「あいわかった。妹にすぐに宮中に向かうと伝えてくれ。」


「ははぁ。」


 そう言って使者は宮殿へと帰って行った。

 使者が帰るとすぐに何進は参内の準備を行った。

 その様子を見て諸大臣はこう思った。


(いや、どう考えても十常侍の罠だろ。こいつ本気でアホだな。)


 諸大臣たちは何進を見下していた。

 部下たちの進言を無視して向う見ずな行動ばかりする何進に諸大臣一同は嫌気がさしていたのだ。

 最早彼らの中に何進を戒める者などおらず、参内の準備をする何進に適当に言葉を掛けるだけで皆興味なさげにしていた。

 しかし、彼らはとある事には興味があった。と言うよりもそのために彼らは集まったのだから、それを実行するために彼らは軍を動かす準備を始めたのであった。


 諸大臣の動きなど露知らず、参内の準備を終えた何進は宮殿へと向かった。

 青鎖門せいさもんへ着くと、門番から注意を受けた。


「何進将軍。ここから先は兵馬は入れません。将軍と従者のみでお願いします。」


「そんなことはわかっておる。早く門を開けよ。」


「承知。」


 何進は門番の態度にイライラしながら門が開くのを待った。

 何進は門が開くとすぐに数名の従者を連れて宮内へ入った。


「妹よ~~!どこにおる~~!」


 などとまるで自分の屋敷の庭にいるかのように気兼ねすることなく嘉徳門かとくもんへの道を歩いていると、突然大きな笑い声が聞こえだした。


「うわはははは!動物殺しの肉屋売り風情が宮中を歩いておるぞ!これは粛清せんといかんなぁ~~!!」


「だ、誰だっ!!」


 何進が笑い声のした方を向くとそこには弓部隊を率いた張譲がいた。


 「き、貴様!」と何進は剣を抜き張譲に斬りかかろうとした。

 しかしその時、何進の従者たちが張譲がいる場所とは違う別の場所から飛んできた矢に刺さって絶命した。

 何進が周囲を見渡すと城壁の上に数えきれぬほどの弓兵がおり、何進に狙いを定めて構えていた。

 何進の顔は青ざめ


「たちけてぇーーー!!」


 と叫び、宮中から逃げようとしたが時既に遅し。

 門は固く閉じており彼に逃げる場所は無かった。

 それでも必死に逃げようとする何進に矢の雨が降り注いだ。


「うっひょーー!!」


 体に無数の矢が突き刺さり、ハリネズミのような体になって何進は絶命した。


 これが何進の最期であった。



 『大将軍 何進』

 ヘタレ、臆病、小心者、向う見ず、自分勝手で我儘。

 分不相応な人とはまさしく彼のような男のことを言うのだろう。

 彼は英雄たちに助けを求めたものの、英雄たちから無視されてその生涯を終えたのであった。

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