第51話 怪物たちは動き出す

 袁紹は各地の英雄に何進の檄を飛ばした。

 何進の檄はすぐに各地に広まり、噂ではアマゾン奥深くの原住民の住む地にまで広まったという。


「うっそーマジでー!漢王朝乱れてるらしいよ!ありえなくなーい!」


「どうも本当らしいよ!これは天下を狙うチャンスじゃない!」


「そうねー!そうねー!こりゃ召集に応じるしかないっしょ!!」


 各地の英雄たちは檄の内容を知ると、皆キャッキャッ!と喜び、我先にと洛陽へと軍を進めたのであった。

 しかし、地方では英雄として知られる彼らの大半は真の英雄とは程遠い人物たちばかりであった。

 そして何より、彼らの中には触れてはいけない英雄。否。怪物たちが混じっていた。



 檄を受け取った英雄たちの中に2人の怪物がいた。


 1人は西涼せいりょうの『董卓仲穎とうたくちゅうえい』。

 広宗の地において劉備の助太刀をないがしろにしたことで彼を覚えている読者の方もおられるだろう。(第二十五、二十六話参照)


 董卓は黄巾賊討伐の司令官だったのだが、彼は戦果なく、またその指揮も褒められたものでは無かったため、本来なら罪に問われるところであった。

 しかし、彼は抜け目がなかった。

 董卓は十常侍たちに賄賂を贈ることで罪を免れ、西涼という西の果ての地で20万という兵力を持って虎視眈々と時期を伺っていたのだ。


 そしてもう1人は三国志最強。天下無双の豪傑。『飛将軍』と称された人物。

 『呂布奉先りょふほうせん』である。

 彼は、今は荊州けいしゅう丁原ていげんという人物の一家臣にしか過ぎぬ男であった。

 しかし、その腹の内に秘めたる野望は凄まじかった。

 彼は義父でもある丁原を小馬鹿にしていた。

 「自分はこのような小者に仕える男ではない。もっと天下に名を馳せる人物の元で力を発揮すべき男だ。」と常日頃、自分の置かれている立場に不満を持っていた。


 何進の檄により2人の怪物が天下にその名を轟かすべく動き出したのであった。




「何進将軍。董卓にも檄を飛ばしたのですか?」


 怪物である曹操もまた董卓の恐ろしさを感じ取っていたのか、何進に董卓のことを尋ねた。

 怪物どころか小者である何進は曹操の問いに笑顔で答えた。


「もちろんじゃ。奴は20万もの軍勢をもっておる英雄。呼ばぬのはおかしかろうて。」


 その言葉を聞いて曹操だけでなく、諸大臣一同が呆気にとられた。

 諸大臣たちは曹操ほど彼を恐れてはいなかったが、黄巾賊討伐時の董卓の悪評については耳にしており、董卓を洛陽に呼び寄せることには反対だったのだ。


「な、なんてことを。将軍は董卓の悪評を聞いたことがございませんでしたのかな?董卓はこの機に乗じて何か仕掛けてまいりますぞ。奴を洛陽に近づけさせるようにすぐに何か手を打つべきかと。」


 曹操は何進に董卓の悪評を述べ、策を講じるよう進言したが何進はそれを拒否した。


「お断りだ!私は天下の大将軍!董卓ごときの手綱を握れぬようで天下の危機を救えるか!」


 何進は曹操および諸大臣一同の進言を無視して、董卓を上洛させる意思を表明したのであった。

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