第36話 未来を開く光となって
みかの放つ光の魔力が、シャリュウの放つ青い炎に食われていく。
宇宙の未来を閉ざそうと、混沌の魔力がみかへ向かって攻めかかっていく。
くじけそうになる。だが、みかはあきらめない。ここで自分が負けたら宇宙のみんなが滅ぼされてしまうのだ。
だから、みかは精一杯に頑張る。倒すべき敵へと向かって全開で力を振り絞る。
少女の想いに答えて、杖が放つ光が強くなる。
だが、混沌の炎は抑えこめない。みかの目の前の敵を倒し宇宙を守りたい願いより、シャリュウの宇宙を閉ざしたい意思の方が強いとでもいうように。
「みかさん、もうあきらめたらどうですか? こんな宇宙を続けてどうなるというのですか? こんなつまらない宇宙なんて消して、新しい宇宙を創造した方がよほど有意義であるとは思いませんか?」
「思わないよ!!」
「残念ですわ。わたくしはやっとその答えに行き着いたというのに。長い……無駄に長い回り道をしてしまいましたわ!!」
「そんなことはないよ! この宇宙で暮らしてるみんなのためにも! わたしは負けない!」
「そんな赤の他人のために頑張って何になるというんです? 彼らが何かいいことでもしてくれましたか?」
「わたしは……わたしはずっと宇宙に行きたかった! 星空を見上げながらずっと思ってきたんだ!」
「そこで待っていることがたいして愉快なことでもなくてもですか? 宇宙などどこへ行っても変わらない! あなたの夢見ていることなどこの宇宙のどこにもありはしないのです!」
「そんな……そんなことは……」
みかの光がしぼんでいく。シャリュウの声にはみかに対するあわれみすら感じられた。
「もういいでしょう。こんな宇宙など消してしまいましょう。そして、新しい宇宙を始めるのです。みかさん、もう一度考え直してください。あなたが望むのならばともに新しい宇宙を始めるパートナーにしてあげてもよろしいんですのよ」
「そんなこと……わたしは望んでいない! お前を倒してわたしはみんなとこの宇宙を守るんだ!」
みかは精一杯の強がりの声を上げる。全力を振り絞って混沌の炎に立ち向かう。
シャリュウは不機嫌に顔を歪ませる。
「気に入りませんわね。わたくしの誘いが聞けないなんて! やはりこの宇宙は滅びるべきですわ!」
炎が勢いを増す。みかの光を一息に押し潰そうとのしかかってくる。
みかは必死に踏みとどまろうとするが、体が押されていく。後ろへ倒れそうになる。
「もう……駄目だ……!」
その時だった。
「みかちゃん! あきらめないで!」
みかがあきらめかけた時、そんな彼女を支えてくれるものがいた。
振り返る。そこにあったのはみかが生まれた時から見知っている親友の顔。けいこだった。
「みかちゃん、よく頑張ったよ! 偉いよ! でも、もう一息だから! ここからはわたしも一緒に頑張るから! 一人にさせてごめん!」
みかは信じられない思いで目を見張った。
「どうして来たの! ここは危ないよ! 全部わたしに任せて!」
「任せられないよ! だって、みかちゃんを一人にさせておくと危なっかしいんだもん!」
それは彼女が何度も言っていた言葉。みかを一人にはさせていられない友達の気持ち。彼女はずっとみかを支えてきてくれた。だからこそ思いが通じ合う。みかは覚悟を決めた。
「けいこちゃん……ありがとう! 一緒にシャリュウ大師を倒そう!」
「うん! こんなこと早く済ませて学校行こうね!」
「よーし、やるぞー!」
ずっと支えてくれた友がいるから心強い。みかは杖に力をこめなおす。けいこもその手をそえる。
「わたしに出来ることは……みかちゃんを支えること! 今までだってずっとそうして来たんだから!」
けいこの意思も、みかの意思に同調する。二人の気持ちが膨らんだ。
シャリュウはわけが分からなかった。
「ザコが一匹増えたところでそれが何だと言うのです?」
「ザコなんかじゃないよ! けいこちゃんはわたしの一番の友達なんだ!」
光が輝きを増す。シャリュウは自分の炎がわずかに押されるのを感じた。
「おかしいですわ。奴に魔力など無かったはずなのに……この戦いについて来れるはずなどないというのに……!」
だが、現実としてみかの光は輝きは増している。それは認めるしかないことだった。
「なんだというのです? いったいあなたの力はなんだというのです!?」
それは魔力をただの才能でしか測れないシャリュウには理解できない現象だった。
「それは願いだよ、お母さん」
光と炎がせめぎあう場所を前にして、照らされた空間にゆうなが降りたった。
「ゆうなちゃんも来てくれたんだ!」
みかは顔を輝かせる。だが、ゆうなはみかを一捌しただけで、シャリュウの方へと向かっていった。
そんな彼女を見て、シャリュウは心からの嬉しそうな声を弾ませて言った。
「いいところに来ましたわね! あなたもセラベイクやデアモートのようにわたくしの力となりなさい! 一気に勝負を決めてしまうのです!」
それはゆうなが始めて母に必要とされた瞬間だった。
だからこそ、みかとけいこには彼女の気持ちが痛いほど理解できてしまった。そして、ゆうなが母から向けられた始めての心からの願いを断るはずもないことも分かってしまった。
ゆうなはうなずき、みかとけいこの方へと向き直る。それは久しぶりに友達三人が向かい合った光景だった。
「みかちゃん、ごめんね……」
「ゆうなちゃん……」
心と心が通じ合う。みかは声を限りに叫んでいた。
「ゆうなちゃん! わたし達は友達だよ! どんなことがあっても、友達だからね!」
ゆうなは泣いていた。みかとけいこも泣いていたかもしれない。
そして、ゆうなは最後の言葉を静かに口にした。
「魔法の力は願いの力。でも、みかちゃん。願いが違うんだよ。お母さんは本気で宇宙を消したいと願ってる。でも、みかちゃんの本当の願いはわたしのお母さんを倒すことなんかじゃないでしょ?」
「あ……」
そして、みかは気づいた。みかには幼い頃から願ってきた大きな想いがあったことに。その中で、目の前の敵を倒すなんて願いにどれほどの時間と意味があったのだろうか。
「ありがとう、ゆうなちゃん。そうだね、つまらないよね。こんな願いじゃ……」
「みかちゃん、あなたの本当の願いを、夢をわたし達に見せて」
そして、ゆうなの姿は消えた。
青い炎となって、シャリュウの手に宿る。
「いい感じですわ。これで決めますわよ。ダブルカオスインフェルノ!!」
新たなる炎が放たれ、二つの炎がみかとけいこを襲う。
だが、みかはそれをもう恐れない。
目の前にいる敵を倒すためではなく。ただ全力で自分の夢を願う。
「見せてあげるよ。これがわたし達の真実の輝き」
今こそ、みかは光の真実にたどり着いた。心のおもむくままに杖を振るう。
「ミカマジカルフラッシュ!!」
みかの願いを乗せたその光はカオスとは交わらない。ただ純粋に一瞬にして空間を光で埋め尽くしていく。
「な! なんですのこれは!」
そのあまりの純粋なまばゆさに、シャリュウはたまらず目を閉じた。
混沌の炎が軌道を乱し、光の中で渦を巻いて散っていった。
「安心して。この光はあなたの敵じゃない」
「な……なにを……」
光に満たされた空間の中で、凛と気高く響くみかの声。
言われるまでもない。シャリュウは注意深く目を開く。
だが、そこで繰り広げられる光景を見て、シャリュウは思わぬ動揺を隠せなかった。
そこでは光と星空に満たされた空間の中で、みかが宇宙のみんなと手を取り合い、肩を組んで笑い合っていた。
「な、なんの冗談なんですの、これは!」
「これがわたしの夢なんだよ」
「ば……馬鹿にして!」
みかの夢を吹き飛ばそうと、シャリュウの右手にカードが広げられる。
「本当にそう思ってるの?」
「え……」
「わたし達はこんなに幸せなんだよ」
「しあ……わせ? 幸せですって? そんな物がなんだと言うんですの……うっ!」
その時、胸に思わぬ痛みを感じ、シャリュウは胸を手で押さえ、地に膝をついて苦しんだ。
「こ、これは……これは、みかさん、あなたは一体何を……」
「あんたにも人の心があるんだね」
「このわたくしが……」
みかの想いはただ純粋だった。そして、未来への夢に彩られていた。
一点の曇りもない願いだからこそ、世界に失望し、未来をも閉ざそうとした者にも通じるものがあった。
それはシャリュウにも遠い過去に忘れ去ってしまっていた感情を思い出させるものだった。枯れた心にも涙を流させるほどに。
「このわたくしが……感動を……」
誰にでもあった。未来に夢を抱いていた頃の懐かしい記憶。
「これが……夢……?」
それは未来へと生きるための原動力となるもの。この世界で暮らすために必要なもの、喜び。
みかの純粋な想いは、確かにシャリュウに届いていた。
「手を取り合おう、心から。その大切な気持ちがあればわたし達は友達になれる。この宇宙だって楽しくなるんだ!」
そのあまりに純粋な心からの呼びかけに、シャリュウは手を伸ばしかける。だが、その手を自らの手で止めた。
そして、迷いを振り払うように頭を振り、立ち上がった。
「わたくしは……そうは思いませんわ……」
それはいつもの余裕ぶった声ではない。心の底から相手を憎む声だった。
シャリュウは顔を上げて感情をあらわにして叫んだ。
「わたくしは忘れはしない!! この長い時で味わった空虚な日々を!! わたくしは何も間違ってなどいない!!」
「わたしも忘れないよ!! この世界であったこと!! わたしはわたしの夢を叶えるために、滅びではなく、前へ進むことを選ぶんだ!!」
二人はしばらく感情をぶつけあうように睨みあっていたが、やがてシャリュウはふと表情を緩ませて引き下がった。
「希望があると思うんですか? この宇宙に」
それは彼女らしくない酷く寂しげな言葉だった。
みかは力一杯に答える。
「あるよ!! わたしはそう思ってる!!」
みかの力強い言葉に、シャリュウはしばらく考えるように目を伏せ、そして言った。
「わたくし達が出会うにはまだ時が早かったのかもしれませんわね。みかさんにもいずれ分かりますわ。この宇宙というものが」
「シャリュウ……?」
「また会いましょう」
シャリュウは最後に気弱で優しげな微笑みを残して、光の中へと姿を消していった。
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