第4話
「別に私が幸せになるとか、そういうのじゃなくていいんです」
「どういう事?」
「人が幸せになる所でいいんです」
「ふーん」
なんだか、余計にややこしい気もするが。
「まあそんな感じです」
「丸投げかよ。成し遂げようという努力はお前がするべきだろ」
「協力します」
「何で俺のサポート側に回るんだよ。お前の未練だろうが」
「えへっ」
「顔が白すぎて可愛くねえから」
「じゃあファンデ買って下さい」
「幽霊がファンデとか言うな」
やけにコミュニケーション能力の高いこの幽霊が、一体何故未練なんてものを残してこの世に留まってるのか、全くもって不思議になる。きっと生前友達も多かっただろうし、周りには好かれていただろう。
「幽霊がこんなに明るいものだなんて、想像もしなかったよ」
「皆が皆そうじゃないですよ。性質の悪い奴だっていますから」
「それって、いわゆる悪霊とか?」
「そうです。あいつらは恐怖を手段ではなく目的としますから」
「怖がらせるのがメインってか」
「あるいはそれ以上。あいつらは思念が強いから、直接的に人を殺めたりも出来ちゃいますから。目的がそうだから成仏もしませんしね。快楽殺戮に近いです」
「こえーな。やっぱ幽霊はこえーわ。さっさと成仏してくれよ」
「じゃあ頑張ってくださいね」
「だからお前が頑張れよ」
どう頑張っていいのか分からないんだが。結局解決方法が何も浮かばずまま日々は過ぎて行った。
*
「お疲れさまでーす」
残業もほどほどに、今日出来る作業はここまでだなと見切りをつけ、会社を出てビルのエレベーターを待っていると、横から不意に声をかけられた。
「あ、ああ、お疲れさまです」
瞬間、俺の心が浮つく。平静を装った声に揺らぎがなかったか心配になる。
「みなと君、最近遅いね」
「はい、なかなか忙しくて。ユウキ先輩も相変わらずの残業ですね」
「今日はまだマシよ。昨日も10時回ってたし。さすがに今日はもういいかなって」
「俺もそんな感じです」
「お互いお疲れ様ね」
ユウキ先輩はふっと目を細めて笑った。俺はその笑顔をあーやっぱり素敵だなんて思いながら見つめる。
ユウキ先輩は俺が務める会社の3つ上の先輩だ。課は一緒だがチーム違いなので毎日関わるわけではないが、仕事の出来るユウキ先輩を頼る後輩として世話になっている。
ショートカットの薄い顔立ちで、少々つり気味の目元ですっきりとした輪郭は美人のカテゴリで、一見きつめの性格にも見えるが、話してみると親身で的確なアドバイスをくれる優しい先輩だ。
「じゃあ、お疲れ様」
ひらひらと優雅に手を振り去って行く先輩。幸せだと思った時間は一瞬で終わってしまった。
俺が今26。三つ上の先輩は29。彼氏はいないという確かな情報はあるが、いまだその情報を俺は有効活用出来てはいない。その枠におさまりたいと思いながら一切その思いを行動に移した事はない。仕事が恋人とばかりにバリバリ働く彼女にそんな枠はそもそもないかもしれない。
彼女に女性的な魅力を感じる者はもちろん少なくないだろう。だが、彼女とお近づきになろうとした者がうまくいった話を聞いた事はない。
――どうせ実る事なんてないだろうけどさ。
そう思いながら、俺はユウキ先輩への片思いを止められずに続けている。
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