シーン5:魔女ふたり
時は少しさかのぼる。
隼人にチャロを任せ、コントロールルームへ走る志津香。
道中には獣もおらず、UGNエージェントもいない。
最速で駆け込んできた志津香は、船の異常を直すべく、パネルに向き合った。
GM:では志津香。〈運転:船舶〉か〈知識:プログラム〉あたりで判定だ。
志津香:ま、また一般判定……!(笑)
GM:そりゃ、ハッキング対策だからねえ(笑)。
志津香:せ、《セキュリティカット》でいかがですの!?
GM:お、それはOKだ。ついでにダイスボーナス+2個あげよう。
志津香:それならどうにか。マイナーアクションでジェネシフトもして、ダイスの個数を増やしますわ……。
GM:念入りだな。
志津香:わたくし、ほんっっっとうに自分のダイス目を信用していませんので。
GM:お、おう(笑)。
志津香:では! 振りますわ!
GM:どうぞ。目標値は9だ。
志津香:(ダイスを振って)ほらああああ、だから言ったではありませんの~~~~~!
GM:……さ、最大値が5か。7個も振って。
志津香:た、タイタスを使いますわ。何にロイスを取ろうかしら。ええと、ええと、こ、コンピューター?(笑)
GM:どんなロイスだ(笑)。
志津香:混乱しているのですわ! ……あらためて「UGNタカ派」にロイスを取り、タイタスにして使います。(ダイスを振って)達成値+9。16になって成功ですわ。
GM:さっきその出目がでてればねえ。
志津香:過去は振り返らない主義ですの……! 船の異常、止まりました?
GM:止まったよ。ハッキングも食い止めた。
志津香:一体どこから……。いや、気にするのは後でもよいですわね。早く隼人さんのところに戻るのが先決……。
GM:と、そこで。船の通信が強制的にオンになる。
志津香:!?
はじめに流れてきたのはひどい雑音。
次に聞こえてきたのは、女の声だった。
「初めまして、ナイトフォール。たしか“コメットウィッチ”でしたか」
志津香:何者ですの?
GM:「FHの“マスターマインド”、と言えばわかるでしょうか」
志津香:……!
その名前は、最要注意人物に指定されていたことを志津香は覚えている。
“マスターマインド”天船巴。
目的のためならば、あらゆる倫理道徳のすべてを無視する女。
虐殺、人体実験、禁止兵器の開発、幾多の裏切り。
罪状にはことかかない。今のコードネームを受け継いでから、その危険度は加速していると聞いている。
(そして初代“マスターマインド”を倒したのは隼人さん。奇妙な因縁ですわね。さすがに偶然だとは思いますが)
内心の動揺を押し殺し、志津香は答える。
志津香:FH最悪の魔女がなんの用ですの?
GM:「ああ、ご存じのようでなによりです星の魔女。もっとも魔女と呼ばれるほどあなたには闇があるわけではなさそうですが」
志津香:わたくしのことはどうでもよいでしょう。用件をおっしゃいなさい。
GM:「そうですね。では単刀直入に。わたくしたちの元から持っていったアレを返してください。所有権はこちらにありますので」
志津香:チャロさんのことですの? そうはいきません。あの方は人間です。所有権など、誰にもありませんわ。
GM:「人間? あれが? ふ、ふふふふふ」
志津香:……なんですの、その言い方は。
GM:「思ったよりも調査が進んでいないのだな、とおかしくなってしまって。いいですか“コメットウィッチ”。あれは人間などではないですよ」
志津香:なんですって?
あくまでも上品に。だがしかしたっぷりと悪意を練り込んで。
天船巴は朗らかに言う。
「アレは我々が作ったモノです。だから所有権は我々にある」
拳を強く握った志津香を見ているように、巴はおかしそうに笑っていた。
「そもそも、アレはまだ自分のことをチャロと名乗っているのですか? ふふふ、本物のチャロ・モライスはもう一年も前に死んでいるというのに」
志津香:なんですって……!
GM:「本物のチャロには、たしかに遺産適合の素質がありました。だからあのスラムから我々が捕ってきたのです」
志津香:捕ってきた、などと……!
GM:「認識の差は置いておきます。……しかし、チャロの適合率はあくまで“可能性がある”という程度。適合実験を行うにはほど遠い数字でした。だから、増やしたのです」
志津香:複製体、ですのね。
GM:「そういうことです。一体では失敗しても、百体なら、千体なら、適合するかもしれないでしょう? そうして増やして増やして増やして。その中の一体がアレなのです」
志津香:あなた方は……
「あなた方は、人の命をなんだと思っていますの……!」
志津香の怒りは、だが通信の向こうまでは届かない。
「で、す、か、ら」
返ってきたのは、わざとらしいため息。
「アレは人ではありません。ただの素材です。数千体いるチャロクローンのひとつ。もっとも、オリジナルは突然に暴れ出したので処理してしまいましたが」
少し待遇が悪すぎましたかね、と言ってのける天船巴に、志津香はどうしようもないいらだちを覚える。
「だから返せ、とおっしゃるのですね?」
「ええ。研究の結果、遺産に適合したのがアレなのです。だから返していただきますわ」
話は平行線だ。
ならば、と志津香は拳を握る。
志津香:お断りです。出自がどうであろうと、複製体であろうと、彼女は人間です。
GM:「その船の方は、アレの兵器運用を考えていたようですが?」
志津香:我々はそうは考えません。
GM:「そうですか。もう少し柔軟な考えができるかと思いましたが。……では仕方がありません。こちらも強硬手段に出るとしましょう」
それを最後に通信は切れた。
おそらく、今すぐにでも突入部隊を送り込んでくるつもりだろう。
素早く行動しなければ。
だが、その時――。
「なっ!?」
志津香の目に飛び込んできたのはチャロたちのいる封鎖区域。
チャロが遺産を使い、隼人を拘束しているのだ。
しかも隼人は自分からその身を差し出しているようにも見える。
志津香:《ディメンジョンゲート》! 封鎖区画に戻ります!
「何が起きていますの……!」
焦りを覚えつつ、志津香はゲートに飛び込んだ。
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