エキシビジョンマッチ 鮫島流VSバーサーカージュリア 

 多満川高校伝統催事企画実行委員会、会長。鮫島流さめじまながれ。この超人格闘大会を取り仕切る委員会のボス。銀縁のメガネが知的な印象を与える長身のその男はネクタイを緩め指先でジュリアを手招きする。


「第2試合も控えているんだ。早めに終わらせよう」


 あのセルフィーをいとも簡単に倒したジュリアに対し笑みすら浮かべる余裕がある。一方ジュリアは既に正気を失っており、猫背と呼ぶにはおぞましい程に腰を曲げ、肩を上下に揺らし呼吸をしている。


「葉加瀬守ル。オマエ倒ス」


 鈴の音のような可愛らしい声は面影もなく、獣が呻くように呟く。

 ジュリアはおもむろに右手を挙げる。先ほどの戦いで撃ちっ放しになっていた前腕が飛んできて、上腕と結合した。


 睨みつけるジュリアと微笑みすら浮かべている鮫島。

 お互い自分の間合いを図っているようだ。


「会長はあんな化け物相手にして大丈夫なのかな?」


 横の真衣に聞いてみる。真衣は視線は二人に注いだまま返事をした。


「わからないわ。でも、あの委員会を仕切っているくらいだから、自信はあるようね」


 ジュリアが先に動いた。予備動作無しでの跳躍。クルクルと前方宙返りをしながら踵を鮫島へと振り落とす。

 鮫島はふわりと後方へステップするだけの簡単な動作で避ける。


 着地と同時に四つん這いになるジュリア。地面に爪を立て鮫島を睨む様子はさながら肉食獣のようだ。


「グォアアア!!!!」


 引っ掻く様に両手を交互に繰り出し鮫島に迫るジュリア。だが、この攻撃もひらりと身を翻し回避する会長。


『ジュリアの連続攻撃! しかし鮫島会長すんでのところで避けております!』


「キャシャァア!!」


 雄叫びと共に開かれた口腔に光の粒子が集まる。次の瞬間、ジュリアの口から空気を切り裂いて青白い光線が放たれた。


『ビームだぁ!!』


 実況が叫ぶ。会場からもどよめきが起こる。

 しかし、鮫島は読んでいたのか大きく地を蹴り飛んでいた。光線を飛び越しジュリアの後方へ着地する。


「なぁ、みんな全然普通に見てるけど、なんであんなに高くジャンプできるんだ?」


「うるさいわね! どーでもいいでしょ! そんなこと!」


 凡人らしい疑問を口にしただけなのに真衣にバッサリと切り捨てられてしまった。


「葉加瀬、すまないね。彼女はあまりにも獰猛だ。強制終了を待つのでは私の身が持たないよ」


 鮫島は苦笑いを浮かべて葉加瀬に言った。


「まってくれ! 鮫島!あと、少しなんだ!」


 葉加瀬が手元のキーボードを叩きながら叫ぶ。


「私は超人じゃないんでね、まだ死にたくはないんだ」


 さして焦った顔もせずに鮫島はそう言うと、ジュリア目掛けて駆け出した。


「グォアアア!!!!」


 迎撃に転じたジュリアの指先からレーザーが放たれる。先ほどセルフィーを倒したあのレーザーだ。


「同じ技はあまり使わないほうがいい」


 鮫島はまるで荒れ狂う稲妻の如き軌道で駆ける。レーザーは彼の通過した場所ばかりを通過した。


「もらったッ」


 ジュリアの懐に潜り込んだ鮫島。驚くジュリアの顎先へ鮫島の拳がめり込む。


 全てがスローモーションに感じられた。鮫島の拳はまるで自分こそ勝者だと言わんばかりに天へ突き上げられた。

 ジュリアは宙に舞い、受身も取れずに地に落ちる。

 砂塵が舞う。


 ジュリアは動かなくなった。


「いたたた、機械を殴ると手が痛いよ」


 澄まし顔で拳を解き、ひらひらと降る鮫島。

 決着だ。たった一撃で鮫島はジュリアを倒したのだ。


『鮫島会長!アッパーカット一閃!!ジュリア選手を沈黙させました!!』


「す、凄い強いじゃん。会長」


 あっけに取られて思わず口から感嘆の声が漏れる。


「喧嘩売らないでよかったわ」


 胸をなでおろす真衣。会場からは割れんばかりの声援。

 微笑みながらそれに手を挙げ答える鮫島。


 観客席の俺に気づいた会長は俺の目をじっと見て、その後ウインクした。なんでウインクなんだよ。おー、気持ち悪い。


『いやぁ解説の柳原さん。あまりに一瞬の出来事でしたので、お話を伺う前に決着がついてしまいました!』


『いえ、おかまいなく。鮫島会長が負ける事はないと私も思っていたので』


 ぽんぽんと手を払い、会長はマイクを拾い上げた。


「さぁ、余興は終わりです! 10分後、第2試合を行います!!」




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