第16話 彼氏の話 突撃ラブホレポ2
そして、私のドキドキ☆ラブホ初体験の日がやってきた。
待ち合わせ場所は南海難波駅前。時は深夜の二時である。
田舎者な私は、自分が深夜の難波にいるという事実に非常に興奮していた。 と、同時に深夜の難波に戦々恐々としていた。
待ち合わせ場所に早くつきすぎてしまった私は、長時間駅前でぼーっとしていたのだが、いやはや、深夜の難波は怖い。なんか知らんけどとても怖い。
ふと前を見ると、ねずっちに似たおじさんが同じ場所をぐるぐると歩き回っている。なんやあれ、と思って見ていると、奴はへらへら笑いながらこちらに近づいてきた。
ねづっち「暇?(酒臭い)」
わし「人待ってるんで」
そう答えると、ねずっちに似たおじさんは一瞬で真顔になり、夜の闇に消えて行った。その豹変ぶりがなんかもう怖い。
すると、今度は自転車に乗ったおじいさんがやってきた。このおじいさんも、何故かさっきからずっと同じ場所を行ったり来たりしている。
じいさん「いくとこないんかー!」
わし「人待ってるんで」
するとじいさんも黙って夜の闇に消えて行った。
またぼーっとしていると、先ほどのねづっちが何故かまたやってきた。
ねづっち「暇?」
わし「人待ってるんで」
ねづっち「彼氏?」
わし「はい」
ねづっち「でもこないかもよ?」
わし「きますよ」
ねづっち「こなかったらデートしよ?」
わし「嫌です」
ねづっち「タイプじゃない?」
わし「そうですね」
ねづっち「でも来ないかもしれないよ?」
わし「きますよ」
ねづっち「来なかったらデートしよ?」
わし「嫌です」
ねづっち「タイプじゃない?」
わし「そうですね」
ねづっち「でも来ないかもしれないよ?」
わし「きますよ」
ねづっち「来なかったらデートしよ?」
わし「嫌です」
ねづっち「タイプじゃない?」
わし「そうですね」
ねづっち「でも来ないかも」
この会話を一億回くらいしたら帰って行った。難波怖い。
またしばらく突っ立っていると、今度は先ほどの自転車じいさんが戻ってきた。 じいさんはおもむろに財布から千円札を取り出すと、
じいさん「これで飯くってこい!」
と言った。いいじいさんである。
しかし私は家出少女でもなんでもないので、丁重に断った。
じいさんはまた無言で夜の闇に消えて行った。
いいかげん難波が嫌になってきたその時、今度はねづっちとはまた別のおじさんが話しかけてきた。
当たり前だが初対面である。なのに、まるで竹馬の友であるかのようにフランクに話しかけてくる。誰やねん。
フランク「何してるんですか?」
わし「人待ちよるんです」
フランク「彼氏?」
わし「はい」
フランク「どこ出身?」
わし「愛媛です」
フランク「へえー。僕も行った事ありますよ! 今治の方に、オレンジフェリーで」
わし「へえー!」
オレンジフェリーは、四国と大阪をつなぐ、愛媛県民御用達のフェリーだ。まさか深夜の難波でオレンジフェリーの話ができるなんて。たったそれだけの理由で、私はこの見ず知らずのおじさんに心を開きかけていた。いや、それだけじゃない、このおじさんは、口調も嫌らしくないしなんとなく信用しても良い気がする……。
彼氏「おまたせー」
信用もなにも見ず知らずの人間に対して私は何を考えていたのか。
そこで、タイミングよく彼氏が到着した。フランクなおっさんは「あ、彼氏さん来ましたね」と言って居心地悪そうに去って行った。
わし「大阪怖い! 愛媛帰る!」
彼氏「帰れ」
わし「今度にします」
私の彼氏は、私と同じ大学の四回生だ。俳優で言えば、向井理似ているらしい。私は別にそこまで似ているとは思わないが、確かにメガネを取ってヒゲをそって遠目から見たら少しは似ているかもしれない。小汚い向井理といったところか。
個人的には三上博史の方が似ていると思う。あと胸毛がすごく濃い。(非常に嫌である)
胸毛「どのホテルにするかは決めたん?」
わし「まだ。まず空いてるとこ探すのが大変やろなぁ」
その日は土曜日(日付が変わっていたので厳密には日曜)だった為、どのラブホも非常に混んでいた。
でもまぁ、ラブホは腐るほどあるのでそのうち見つかるだろう、と歩き回ることにした。
難波には非常にたくさんのラブホがある。事前に「カップルズ」というサイトで調べたのだが、一部屋5千円を切るところもあれば、4万を超える部屋まである。世間は広い。しかし、貧乏大学生である我々の選択の幅は非常に狭い。
かといって、あまり安すぎる部屋は
バイト先の店長「しょうもないからやめとけ」
と言われていたので、高すぎず安過ぎずな部屋を探すことにした
つづく
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