Life Door

烏乃実沙

第1話

「はい、そこの君!ちゃんと働いて!」

工事現場に大きな声が木霊する。

「す、すみません!」

情けない声で謝るのは俺、北村潤だ。


小中高大学と一貫教育を受けそこそこ恵まれた環境で生活してきた。

そんな俺は今、工事現場でアルバイトをしながら実家で肩身の狭い生活をしている。


「死にたい」

そう小さく呟いた。

いつからだろうこの言葉が僕の口癖になっていた。


「なんか言ったか!」

バイトリーダーのうるさい声がまた聞こえてきた。

「しかたないなあ。働くか」

休憩を取っていた俺は立ち上がり歩き出した。

今日帰って何しよう、なんてくだらないことを考えていた。

次の瞬間—



ゴオオオオオオン

その大きな音と体全体に響く衝撃と共に僕は意識を失った。




——————————


「うっ」

息苦しさと全身の痛みで目が覚めた僕の目に最初に映ったのは真っ白い天井—



否、それは天井ではなく真っ白い何かだった。

周りを見渡しても真っ白。

「どこなんだここは」

そう言いながら全身の痛みを我慢しながら起き上がると、周りには俺の他に眠っている4人の男女。

そして、真っ白い空間に異様な雰囲気を醸してそびえ立つ大きな黒い門だった。


「な、なんなんだここは。なんで俺はこんなところに」


そう思い、何があったのか思い出そうとすると、周りの者たちも目を覚まし出した。


自分の他にいたのは、若い女と初老の男性、そしてまだ10歳前後であろう少年だ。


俺が何があったのか聞こうと皆に尋ねようとすると初老の男性が、

「お前、わしに何をした!体中痛むし、お前、なにかしておるんだろ!」

とすごい剣幕で尋ねてくる。

他の3人はと見ると皆不安そうに、それでいて疑いの目を俺に向けてくる。


まあ、最初に起きていたのは俺なんだし当然か、と半分諦めたように

「俺も目が覚めたらここに居たんだよ。何があったかなんて俺が聞きたいくらいだ」

と答えると初老の男性がまた語気を強くし、

「お前よくも抜けしゃあしゃあとそんな嘘を...」

と、またつかみ掛かってきそうになったが、若い女がそれを止め

「待ってよ!今この人に暴力を振るっても何も始まらないわ。まずは、お互いのことを話しましょう」

と言う。

それに納得したのか初老の男性は息を整えながら「わしは高城十蔵じゃ」と名乗った

「じゃあ次は私ね。私の名前は宮本梨咲よ」

と名乗り

「あなたの名前は?」と続けて俺に聞いてきた。

「北村潤」と名前だけボソリと名乗りムスッとした表情のまま黙った。

そうする間に、10歳前後であろう少年が「僕は米田啓介だよ」と名乗り、ひとまず自己紹介は終わり、宮本梨咲と名乗った女が何か話そうとした時、突然周りが暗くなった。


俺を含む4人は皆大なり小なり怯えた反応で、悲鳴をあげたり、「おっ」と驚きを口に出したりした。

しばらくの静寂の後、また突然この雰囲気にそぐわないふざけたメロディと共にスポットライトに照らされたピエロが現れた。

静寂の中、そのピエロのものであろう甲高い声が響いた。

「さて、皆さん仲良くなったようで何よりです」

は?と心の中で思ってしまった。何を言っているのだこいつは、と。

こんな状況でいきなり出てきたのがこんな奴かと、拍子抜けしたと共に苛立ちを覚えた。

そして、「ふざけるな!」と叫ぼうとした時気付いた。体が動かない。まわりの4人も同じようで苦しそうにもがいている。

「ああ、そんなに暴れないで。僕は君たちに危害を加える気は無いんだよ?それどころか助けようとしている優しいピエロさんなんだから」

そう言うと、皆一様にピエロの話を聞く姿勢に入った。

「うんうん。協力ありがとう。じゃあ、本題に入ろうか」

本題に入る、その言葉に僕はより、集中を高めた。

注目を集める当の本人のピエロはまたおどけたような仕草をしてこう続けた。


「あなたたちにはこれからいくつかの質問に答えてもらいます。その質問は簡単ですが、その本質はとても難しいものです。制限時間はこの空間が真っ白になるまで。大体1週間くらいかなー」


何を言っているんだ。と心の中で呟く。そんなことをして俺に、そしてなによりこのピエロに何のメリットがあるんだ。

そう思っているとその心を読んだかのようにピエロは言う。


「君たちは、ぼくがなんでこんなことをするのかわからないって感じだろうね」

ピエロは「ふふふ」と笑いながらこう続ける。


「君たちはね、実はもう死んでるんだよ」


「?????」

頭の中に?マークが並び目眩がした。

俺が、俺たちがもう死んでるって?

その疑問が浮かぶ僕をより混乱させるようにピエロは淡々と、そして楽しげに言葉を連ねる。


「この先の選択で君たちのうち1人だけが現世にもどれるんだ」


「これでルール説明は終わりだよ。あとは君たち次第。がんばってねー」


そういいピエロは霧状になって消えていき、そのピエロと同じように僕の視界も霧がかったようにどんどん暗くなった。




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