Luxlunae
夏日和
序章
ネクストミッション
「入るぞ」
その一言と共にドアが開き、一人の女が入ってきた。
女は部屋に入るなり、ドアを荒々しく蹴り閉め、音を響かす。
部屋の真ん中には長方形の机が一台。脈打つ木目に潤う褐色の肌が、その古めかしい雰囲気と重々しさを辺りに漂わせていた。
その両脇には挟むようにして、肘掛け付きのソファーが向かい合っていた。
部屋の奥には、それらを見渡せるように、両袖付きの立派な椅子と机が置かれ、そこに一人の男が腰を下ろしていた。
男は机に立てた右手に頬を乗せ、細めた目で入って来た女をじっと睨みつけていた。
その視線に、女は気にする様子などいっさい見せず、長く伸びた灰色の髪をなびかせながら、ソファーまで歩いた。
「ふぅ……」
右側のソファーに着くや否や、深いため息を吐きながら腰を下ろす。それと同時、
「おいおい、まだ入っていいとは言ってないだろ?」
どっしりと座り込む女に向かって、男が呆れたような声を出した。
「そうだったか?」
そう一言。男の言葉を軽く受け流した女は、ソファーの上に両腕を広げ、天井を仰いだ。
足を組み、ふてぶてしく居るその姿に、男は頭を押さえ、ため息を吐いた。
「それよりも、何か用事があるんだろ? なければさっさと戻ってシャワーでも浴びたいんだが?」
「そう急くな、すぐに話は終わる」
急かす女を止まらせ、男は机に乗せていた右手の人差し指を、数回天板へと叩きつけた。
「――っと、そういえば、今回の依頼はどうだった?」
「あー、最悪だった。内容は簡単で良かったが、なんせ場所が遠すぎる。おかげで余計に疲れた」
「そうか、それは――大変だったな」
「……だろ?」
そう言って女は左腕を軽く広げ、ため息混じりの表情を男に見せつけた。
「それじゃー、次の依頼もすぐに終わらせてくれるな?」
「ん? ちょっと待て、話が……」
突然、女の目の前に何か飛び込んできた。視線が真ん中の机に移る。
机の上には、ホッチキスで一つにまとめられたレポート用紙が数枚置かれていた。一枚一枚どの紙にも味気の無い文字がビッシリと敷き詰められている。
「なんだこれは?」
女が怪訝そうな表情でそれを手にとり、一枚ずつ目を通し始めた。
「だから、次の依頼だ。今回は場所も近いから、そう疲れなくて済むはずだ」
「確かに近いな……。この近辺だ」
「そうだ。依頼内容は調査とその原因の排除。詳しい事はその資料に書いてある。目を通しておけ」
「……、――なるほど」
女は資料を途中まで読み終えると、それを机に放り投げた。
「それで、なぜ私がこの依頼を? これぐらいの事なら、私がしなくとも……」
「アイツが現れる可能性があるからだ」
「……」
その言葉に、女が黙る。
「アイツとなれば、お前以外に誰がいるんだ?」
男の問いに女は顔を下げ、何かを考え始めた――数分後。
「……確かに私以外にいないな。――了解した」
女がソファーから立ち上がり、ドアに向かい歩き始める。
その返事を予測していたのか、男は表情一つ変える事なく、去り行く女の背に向かって声をかけた。
「よし、それじゃ明日から……」
「――――」
突然、女が言葉を遮った。
その予想外の出来事に、呆気に取られた男は言葉を失った。
女はその表情に微笑みながら同じ言葉を呟き、部屋を後にした。
『だから、断ると言ったんだよ』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます