三角関係と共に召喚された俺は当然のごとく一人となり、奴隷を買った結果、大書庫の主人となるのであった

孤面の男

召喚されたら色々ありまして①

 その日も、何事もなく召喚の儀は失敗に終わるはずだった。世界に危機は迫っていない、とそう思える結果が出るはずだった。それなのに――


「召喚に……成功してしまった!?」


 魔方陣の中央に立っている男女三人と、端の方に座り込んでいる一人の男がいた。そしてそのまま、座り込んでいた男は立ち上がって――何も言わなかった。ただ、困ったような目で足下に広がる魔方陣を眺めていた。そしてその唇が微かに動いた。


魔方陣majic circle……か」


 その言葉の意味が分かってしまった。それは正しく召喚された証、言語共通。つまり――この世界には何かしらの危機が及んでいると言うことだ。


*****


 と、まぁ、上記の説明を受けて王の間に向かわされているんだが


「大丈夫だよ、お前は俺が護る」

「そうだよ、俺も護るって」

「あ、ありがと……」


 何で俺は三角関係と一緒に召喚されないといけねぇんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!? そう、内心で絶叫していると


本読もとよみくん」

「……ナンデスカ?」

「大丈夫? 緊張しているみたいだけど」


 それはお前が話しかけてきたからだ。そう思いながら俺は顔を逸らして


藍金あいがねさんは……落ち着いているみたいだな」

「驚きすぎて一周しただけだよ。本読くんは緊張しているみたいだけどね」

「それは……」


 緊張、なのか? なんだか少し、体が震えそうになるこの感覚は緊張なのか?


(いや……違う。俺はきっとこの状況を楽しんでいる!)


 虚偉がそんな微かな笑みを口に浮かべる。そしてそれに気付いた者はいなかった。

 それから間もなくして、王が謁見の間に現われた。その間に魔法使いっぽい女性に話を聞いたところ、どうやら俺たちが召喚されたのは良くないことらしい。


「……面を上げよ」

「はっ」


 ……おい待て、どうしてお前たちは頭を下げていないんだ!? どうして俺だけが頭を下げているんだ!? お前らに常識って物は無いのかよ!? そんな風に俺が動揺していると


「そちらの勇者は礼儀が出来ているようだ」

「……お褒めに預かり、光栄の至りです」

「名はなんと言う?」

本読虚偉もとよみうつろいと申します」

「モトヨ……なんだ?」

「虚偉と呼んでいただければ幸いです」


 王は口でウツロイ、と初めて聞くような言語を口にして(いや、実際に初めて聞くのだ)少しため息を吐いた。そして


「どこまで説明を受けている?」

「召喚されたことが、そちらにとってよろしくない程度ならば」


 王は嘆息して


「ウツロイ殿、勇者様方、場を移そう。しばし待たれよ」


*****


「本読くん……あ、ウツロイくんって呼んだ方が良いのかな?」

「どっちでも良い……それで、お前は……確か蹴鞠部の?」

「ああ、サッカー部の七本隆人しちもとりゅうとだ。よろしく」

「……こちらこそ」


リュートって楽器があったな、と思いながら差し出された手を軽く握る。すると肩に腕が回されて


「俺は武人、よろしく!」

「……こちらこそ」


 あんまりよろしくしたくないな、と思わせる馴れ馴れしさだった。それに戸惑いながら、距離を置こうとすると


「私は藍金真心、よろしくね」

「……よろしく」


 やっぱり、こんな親しくしてくる相手は苦手だ。そんな風に想いながら宛がわれた部屋で小さく息を吐く。何がどうなっているんだ……と。いや、薄々は分かっている。二択だ。


「夢か……異世界か」

「「「え?」」」

「……だが匂いも触感もおかしくない……確かめられる何かがあれば良いんだが……」


 それが無いから困っている、とでも言いたげな口調だがその顔は笑っていた。さすがは学年一笑顔が黒い男、と言われるだけのある笑顔だったが


(やっぱりカッコいいなぁ)


 真心はそんな風に思っていた。好きな相手を、そう思っていた。


*****


「陛下、この度はお招きいただき、心より感謝申し上げます」

「面を上げよ、ウツロイ殿。それに勇者様方」

「「「「はっ」」」」

「して私はウツロイ殿以外の三人の名を知らぬ。ここで自己紹介してもらいたいのだが……構わぬか?」


 そうして消化試合のように三人が自己紹介していると


「実はこの世界、勇者様方が召喚されたのは初めてでは無い」

「あの魔方陣……そういうことか」

「えっと……何がそういうことなの?」

「一度作られていた魔方陣を再び使用したって事だろうな……だが何故俺たちを召喚するに至ったのか、そして何故俺たちが召喚されたことを良いことと思っていないのか。そこのところ、ご説明願えますか?」

「ウツロイ殿の言う通りだ。この世界に勇者が召喚されたと言うことは……世界に危機が迫っていると言うことだ」

「「「っ!?」」」


 三人が動揺している。それを眺め、虚偉は少し考えていた。


(こいつら、日本に帰りたくはないのか?)


 自分のことを棚に上げて考えていた。そして――虚偉は決意した。


(とりあえず帰る理由がないからこっちに滞在するか)


「陛下」

「なんだ?」

「私たちはこれからどのような扱いを受けるのでしょうか?」

「うむ。まずは国賓としての待遇をさせていただく……そして戦うための力を付けていただく」

「――従軍、しろと?」

「軍はウツロイ殿たちが求めれば力を貸しますが……基本的には私たちの国を護るための存在なので」


 あぁ、そう。そんな感想しか持てなかった。


*****


「さて、晩飯も食べたからそろそろ話し合おうか」

「そうだな」

「そうね」

「……俺も?」

「「「ウツロイも(くん)」」」


 少し困っている表情の虚偉くんも良い、そんな風に真心が思いつつ、隆人と武人を見ると


「「……」」


 何故か二人に注目されていた。なんとなく気恥ずかしい、そう思っていると


「話し合うって言っても……俺はお前たちについて、何ら知ることは無いのだが」

「良いじゃん。どうせこれから協力していかないといけないみたいだし」

「……(面倒な)」

「それで何を話し合うの?」

「自己紹介……は堅苦しいよな。これからのことでも良いんじゃないか?」

「……だとすれば、一つだけ聞きたいことがある」

「「「なに?」」」

「日本に、帰りたくないのか? 受験が近いんだぞ」

「「「受験……」」」


 三人の表情が一気に暗くなった。それを眺め、虚偉は察したが


「お前ら、勉強できないのか」


 敢えて口に出してみた。すると三人が慌てて言い訳を始めた。それを眺めていると少し、気分が良かった。やっぱり性格が悪いな、と改めて自覚した。


「別に出来ないんじゃないの! 難しかったの!」

「それを出来ないって言うんだろうが」

「……虚偉くん、現実を突きつけないで」

「現実を見ろ」


*****


「話を戻そう。とりあえずはこれからのことについて話し合うか?」

「それが良いと思う……もう、現実を見せないで」


 成績が悪いのか、まご何とかは顔を伏せている。それを無視してため息を吐いて


「それでこれからなんて何も分からないだろう。今の情報量で俺たちに何が出来るというのだ」


*****


「それでは勇者様方、これより勇者様方のステータスを調べさせてもよろしいでしょうか?」

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