僕のIT革命

@mourinho

第1話

ホームへの階段を一気に駆け上がり喧騒の中に飛び込んだ僕の両耳に、出がけにダウンロードしたニュースがしっかりと流れている。周りの騒音を無理矢理押さえ込むような大音量のアナウンスが始まっても携帯音楽プレーヤーをひと撫でするだけでボリュームが上がる。僕の胸のポケットにあるのは10年以上前に手に入れた携帯音楽プレーヤーだ。いまだに現役!それでも僕の“IT革命”は今もなお進行中だ。


つい最近同じソフトでニュースをダウンロードできるスマホを購入したばかり。イヤホンを付ければすぐにでも最新のニュースが聞ける。だがそれは今日も尻のポケットに収まったまま。それもこれも世界に類を見ない東京の通勤ラッシュのおかげだ。必死にスマホにかじりついている人も中に入るが、何しろ泣く子も黙る混雑度で名高い埼京線だ。何とか流れに乗って車内に入り込んだはいいが、両手は完全に自由を失いスマホを取り出すこともできない。何とかポケットから引っ張り出したとしても相手はタッチパネル。とても便利なタッチパネルだが、最大の欠点はブラインドタッチができないことだ。アナログ的な携帯音楽プレーヤーなら目をつぶっていても指一本で選曲からオンオフ音量調整までできてしまう。満員電車という特殊な環境で未だに現役を維持できる最高の性能だ。


もちろん新スマホの性能は素晴らしい。携帯音楽プレーヤーはダウンロードのためにいちいちパソコンにコードでつながなければならないが、新スマホはワイファイでいつの間にかダウンロードが終わってる。まことに便利だ。当初これでいよいよ携帯音楽プレーヤーとお別れかとばかりに新スマホで通勤デビュー。駅で慌てないように新スマホに事前にイヤホンジャックを差し込みポケット入れ自転車にまたがった。その瞬間、呼び出し音が鳴った。そうだ、これは電話器だったんだ。全くその時の慌てようったらなかった。イヤホンを耳にしていれば通話が可能だが、自転車に乗るからにはイヤホンは外していたい。ポケットから新スマホとそれに巻き付いているイヤホンを取り出し、まずコードをほどきイヤホンジャックを抜き、やっと電話に出た。まるでミッドウェー海戦の旧日本海軍みたいな状況であった。イヤホンをしたまま通話可能だとしてもいつかかってくるかわからない電話のために四六時中イヤホンを付けてるわけにもいくまい。それ以来ニュースは携帯音楽プレーヤーにお任せだ。


ところで、我が家ではテレビはほとんど家族にチャンネル権を奪われている。家に帰ってもテレビは家族に占領されバラエティにドラマにと大賑わい。僕の好きなスポーツ中継や歴史物など誰も興味を示そうとしてくれない。見たい番組を録画しておいて家族が寝静まった夜中にでも起きて見るしかないが、毎日できることじゃない。そこで活躍したのが旧スマホだ。録画番組をスマホに転送するためにわざわざレコーダーと同じメーカーのスマホを選び、せっせとスマホに転送した。これで僕の行くところがすべてテレビルームとなった。新スマホは携帯音楽プレーヤーと同じメーカー製でポッドキャストを共有するには都合いいが、テレビ番組の転送機能は無い。そこで、旧スマホを未だに手放せない。

こんなわけで、僕のIT革命の結果、毎日3台のIT機器を抱えて外出しているのが現状だ。


さて、最近そこに新兵器を手に入れた。ブルートゥースとかいう魔法を使ってコードレスで使えるイヤホンだ。しかもスポーツ用だから耳にしっかり固定されちっとやそっとでは外れない。コードと言えば左右のイヤホンをつなぐだけの短いものだから絡むこともなく、装着が至極簡単だ。満員電車の中では面倒なイヤホンジャックの抜き差しなんて必要ない。これで僕の革命も一歩前進した。ところがある日新聞が電磁波の人体への影響を特集しているではないか。耳につけて話をするスマホでも問題なのに、ブルートゥースイヤホンの使用時間は音楽にドラマに映画にと、通話に比べれば圧倒的に長い。電磁波の影響も大きいのではないだろうか。電磁波でがんになったなんて実際には聞いたことがない。しかし、過去のアスべストやフロンのように、登場した時は素晴らしい物質とさんざん利用されたあげく、現在その害が半端ではないことがわかって来た。人類は歴史的に進歩と引き換えに大きな犠牲をこれまでも払ってきている。いわば壮大な実験を常に続けているわけだ。今では少数意見の電磁波の害も近い将来にはだから言ったじゃないかという問題となる可能性は大いにある。そう思いながら便利さに負けてブルートゥースイヤホンを使い続けているが、その記事を見てから長いコード付きイヤホンブルートゥースを控え始めた。


 かと思えば、スマホのメーカーに関係なく録画した番組を転送できるアプリを発見した。一部有料があるということで、そのあたりのコストパフォーマンスを調べなければならない。そして旧スマホに匹敵する能力を発揮できるのだろうか。


僕のIT革命はまだ始まったばかり。単に機器の性能だけでなく、生活環境にどう適合していけるかも大きなポイントだ。これからも実践を重ねながら遅々として僕のIT革命は前進するであろう。

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