第7話 迫り来る八咫烏の爪
放課後、まずは一度家に帰りどっちに人間の状態で着いて来てもらうかの話し合いになった。
「私が亮輔についていくわ、もし相手が本当に雑賀衆の人間なら私も因縁があるし」
そう、確かに信長さんは雑賀衆に何度も煮え湯を飲まされている、戦いに行くわけでは無いにしろ信長さんにも思うところが有るんだろう。
「むぅ……」
それについては長政さんも理解しているようで、言い返せない様子だった。
「なぁ……どっちにしろ霊体で着いてくるんだからこの辺にしとこうぜ」
「そう……ですね、わかりました」
「うんうん、やっぱり長政さんは物分かりの良い人だな、そう言うところ嫌いじゃないぜ?」
「亮輔はまたお説教が必要みたいね、帰ってきたら覚悟してなさい」
「それについては私もかな」
何故か信長さんが怒っている、何故だろう?
香菜も何故そんなに蔑むような目を向けてくるんだ!?
それに、何故か長政さんも真っ赤になって頭から煙が出そうな勢いだ、訳がわからないよ。
とまあ、こんな感じで一悶着有りつつも真砂の家に向かう準備が整った。
鬼が出るか蛇が出るかわからないが、男は度胸だ……一つ覚悟を決めて向かうとしよう。
***
駅前に行くと、良く待ち合わせに使われるロク公像という、シベリアンハスキーの銅像の前に真砂が待って……いや、ナンパされてる。
まあ、見た目可愛いし仕方無いけど、転校初日にナンパされてるってなかなか無いぞ?
まあ、仕方無い助けてやるか。
「悪い、待たせたか?」
「あっ……」
「チッ、ツレがいんのかよ」
「無いわー、マジ無いわー。もう行こうぜ」
悪態を吐きながら立ち去って行く、ナンパ野郎達を横目に俺は改めて真砂に向き直った。
どうやら真砂も学校から帰り、着替えて来たらしく、服装がダメージジーンズにフリンジが袖と裾についた白いブラウス姿だった。
「意外に可愛い私服なんだな」
「え、あー、うんたまたまこんなのしか無くて……」
「いや、いいんじゃないか?似合ってるし……って痛い痛い、ムッチャ痛いんだけど!?」
何故、服装を褒めただけで信長さんにこんなに蹴られなければならないのか、甚だ疑問である。
「えっと、その人が歴史に興味があるって言う?」
「あぁ、そうだよ名前は……」
ヤバい、そのまま織田信長って言ったら完全に詰みなの忘れてた……。
偽名とか考えたことねえよ、つか普通に過ごしてたら偽名なんざ考える必要も無いしそれが普通だし……あぁどうするよ!?
「私は浅野那奈よ、よろしく」
「そう……浅野さんね、よろしく」
とかなんとか考えてる間に信長さんが自己紹介(偽名)を終えていた。
いけしゃあしゃあと偽名を名乗る辺り流石は戦国武将、肝が座ってることこの上ない。
「じゃあ、行きましょうか」
「ああ、案内宜しくな」
そういって俺達は、真砂の家に向かって歩き始めた。
因みに、長政さんと香菜には空気に徹して貰っている、突然虚空に話し掛けて疑われるのは癪だからな。
言ってしまえば敵の陣地に踏み込むようなもんだし、警戒だけはしっかりしないとな。
◆◆◆
あぁ、油断しちゃって可愛いなぁ……。
油断しきったこの顔が恐怖に染まるのが楽しみだよ……、でも久秀に横取りされないように念には念を入れないと……。
そうだ、あれを使えば大丈夫、流石に久秀でもボク達の……雑賀衆の技術の一つにかかれば手を出せないかぁ。
じっくり、ゆっくり楽しませて貰うことにするよ……浮津亮輔クン……♡
そう、雑賀孫市はいわゆる嗜虐思考の持ち主であり、自分の快楽の為ならどんな手段も厭わない策士でもある。
狡猾に、緻密に練り上げられた包囲網はどんな人間をも陥落させる、そんな自負を持っている。
そして、彼女はそれ以外にまだ数多くの闇を抱えている。
そんな底知れない闇が迫っていることを亮輔達は、まだ知る由もない……。
***
「ついたわ、ここが私の家」
「おぉ、THE日本家屋だな……」
「この辺にまだこんな家有ったのね……」
真砂の案内で着いた、真砂の家は京都の街並みを切り抜いてきたかのような日本家屋だった。
瓦屋根に、漆喰の壁、現代らしさを感じるのは玄関や縁側などのガラスとエアコンの室外機位だった。
「もうこれだけで歴史を感じるな……」
「なんか武田信玄の信玄屋敷を見ているかのようね……」
なんかうっかり信長さんが、ボロ出しかけてるけど、歴史番組で観たってことにしておくか……。
「じゃあ、上がって暑いしお茶でも持ってくるから」
「あぁ、悪いな」
そういって台所の方に向かう真砂を見送り、俺は信長さんの方に向き直った。
「いや、いきなりボロ出しすぎでしょ!?」
「悪かったわね、つい懐かしくなって思わず……」
「悪いんだけど長政さん達色々探ってきてくれるか?」
「何で私スルーなのよ!」
「大体予想通りだったから」
「それでも反応くらいはしなさいよ、耳なし芳一じゃあるまいし」
と、なんやかんやいってる間に長政さん達はこの家の探索に出掛けてくれたようだ、これでちょっとでもなんか掴めると良いんだが。
「にしても立派な梁だなぁ、凄い良い味出してる」
俺は天井を見上げながら、そう呟いた。
梁は日本家屋の屋内の顔でもある、梁がしっかりしているかどうかだけで耐震強度なんかも変わってくる。そんな感じの本を前チラッと、読んだことがある。
「どうしたの?天井なんか見つめて」
そこにちょうど真砂がお茶の入ったコップを3つ乗せたおぼんをもってやってきた。
「いや、良い梁だなぁって思って」
「ふーん、そう言うの興味あるの?」
「いや、そういう本をチラッと読んだくらいだな」
そう言いつつ俺は、真砂の持ってきたお茶を飲んだ、少し苦いなそういうお茶なのかな?
「このお茶旨い……な…」
おかしい、しっかり寝たはずなのに急に睡魔が……、まさか睡眠薬……!?
「のぶ……な…が…さん…」
うっかり、本名を出してしまったがそんなことはこの際どうでもいい、これは完全に罠だ!
「お…前は……誰…な……んだ」
「へぇ、凄いねぇ、即効性の睡眠薬なんだけど、まだ意識があるなんて」
どうやら答えるつもりはないらしい、先程までの清楚な美少女はどこにいったのか、ニタニタととても邪悪な笑みを浮かべている。
徐々に意識が遠のいて行く、俺の意識が途切れる前に見た最後の光景は、心配そうに漂う長政さんと香菜、そして同じように眠らされている信長さんの姿だった。
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