戦国ブシドー霊衣(クロス)

霞羅(しあら)

プロローグ 現世と幽世の狭間で

 ここは…どこ?

 アタシは…信…長、織田…信長


 人間達の住む世界・現世うつしよ。そして、霊的存在達が揺蕩う世界・幽世かくりよ。その狭間で一人の少女、いや武将の魂とも言える存在がただ、流されるかのように漂っていた。

 彼女は今、自分の置かれている状況がわからないでいた。

 それもそのはずだ、本来ならば人間も、霊も行き着くことのない、狭間の世界に行き着いてしまったのだから。


 そんな彼女の前に強く、激しく、それでいて暖かい一条の光が降り注いだ。

 彼女は、何かに導かれるかのように、その光に手を伸ばした、或いは無我夢中だったのかもしれない。

 その光の中心に、彼女の指が触れたときけたたましい音が響いた。

『チェインバーオン!エントリーオブノ・ブ・ナ・ガ!』

 その音が止むと同時に、彼女は暖かい光に全身を包まれた。

 その光が収束すると、彼女はようやくかつての威容を取り戻し、全ての記憶も思い出した。


「私は第六天魔王…織田信長、早く現世に向かってアイツの暴走を止めないと…!」

 信長は先ほどの光のなかから造り出されたブレスレット__『戦国霊衣変換器』センゴククロスチェインバーを抱え、現世に向かって全力で駆けた。

 その信長を追うかのように幽世から無数の異形が迫ってきた。


 異形の者達の追撃を振り切り、信長は現世へと逃げ延びることに成功した。

「これは…」

 現世は信長の生きていた時代とは違い、文明開化を発端とする、産業や工業技術などの発展で様変わりしていた。

「これが、今の日ノ本だというの…?」

 そんな様変わりした日ノ本__現代日本の様子に油断したのだとすると、些か間抜けな所があるが、彼女は『戦国霊衣変換器』__通称・SCCを手から離してしまったのだ。

「あっ!」

 と、気付いた頃には地上までSCCは落ちており、下にいた幽霊少女がキャッチしてしまっていた。

「参ったわね……先回りして待ち伏せしようかしら?」

 とは言え、この辺りの地理に詳しい訳もなく信長は頭を抱える事になったのだが、幽霊少女の傍らに居た、少年を見ると驚いた後したり顔になった。

「あの子…へー、なるほどねぇ」

 そして、この信長と少年…『うつけ』の出会いが日本の未来を揺るがす事にまだ、誰も気付いて居なかった。

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