猟奇殺人鬼とストーカー

ハム

第1話 さいしょのじけん

目を開いたまま眠っているのかと思った。



最初は気軽に声をかけた。授業がもうすぐ始まるところだったし、遅刻したらペナルティが待っているから。返事がなかったからもう少し強めに声をかけ、やはり返事がなかったからさすがにおかしいと思って近寄った。


そしてそのからだが、肌の色が、冷たく凍っていたのをたしかめて言葉を失った。


かれはあの時死がどういうものかを直感的に理解した。自分の前で冷たくなっている仲間が二度と帰らないものであることを知った。


外傷はなかった。なぜ死んだのかわからず、どうしていいかもわからず、あわててほかの仲間を呼びに出て、そして戻ってきたときには、その死体はあとかたもなく消えていた。





次の日の点呼で人数は減っていなかった。

その不気味さ、不自然さを知っているのは彼だけで、その後多くの夜を恐怖のなかですごしたのもきっと、彼だけだ。


確かめなくては、と、心に決めた。


確かめなくては。

―――次に死ぬのは、自分かもしれないから。







死にたくない。

死にたくない。生きていたい。




なぜ? ――――――なぜ……?

なぜかれは、動かなくなっていたのだろう?













人が死ぬのが不思議だった。








頭がなくなったり、首が切られたり、胴体にでっかい穴が空いたり、そういうことで起き上がらなくなるのは納得できる。心臓が動かなくなれば人は死ぬ。理解できる。血が流れすぎたら人は死ぬ。理解できる。


でも、体の部品(パーツ)がすべて足りているのに動かなくなるのは、なぜ?


さっきまで立っていた人間が、動いて、笑って、言葉さえ明瞭に発していた人間が次の瞬間には動かなくなっているのは、なぜ?



幼い彼は背中をさぐって電池を探した。ネジを探した。エネルギーのありかを探した。そこを満たせば、止まったものもまた動くはずだと思った。








それが、彼が猟奇殺人鬼になった理由。


ちなみに、人が死ぬことの謎は、彼がおとなになった今でも解けていない。

物語は、彼がその悪辣な『研究活動』を続けている現場から始まる。

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