天からの贈り物
麗永遠
第1話 日常
左右の耳の後ろからあふれ出てくる汗を紺色のタオルハンカチで拭きながら、地下鉄のホームをゆっくりと歩く今日も蒸し暑い。地下鉄ホーム内の古びた冷房装置は懸命に働いているが、冷風というより送風装置で涼しくはない、電車がホームに入ってくるタイミングには鉄の錆びたような匂いと共に温風がやってくる。長年ラッシュアワーの分散に貢献しようと、会社の制度に関係なく自称サマータイム制度を導入しているのだが、朝5時台の電車を待つ人たちも最近は増えている。
真っ黒に日焼けした身長190センチぐらいに見える背の高い青年、坊主頭に白い半袖の開襟シャツ、一目で野球部とわかる肩にかけた大きなエナメルバック、名門校の名が大きく刺繍されている、私の記憶では今年の夏の甲子園は出場を逃していたから今日は練習であろう、雨でも休まず室内トレーニングかな?頑張って!
地下鉄内ホームのベンチにはうすいピンク色のポロシャツ姿で首元に白いタオルを巻いて座り、手元のエコバックから取り出した水筒を傾けておいしそうに喉を潤すシニア女性、これからオフィス清掃か介護ヘルパーの仕事に出勤でしょうか、ご苦労様です。
左手の指に掛けたスーツの上着を肩に、右手には機内持ち込み可能サイズのキャリーケースをガラガラと引いた若手サラリーマン、どこかへ出張するのか急ぎ足で颯爽と私を追い越していく、国内線だと羽田か…私もたまには飛行機乗ってすすきのや中洲に出張したいものだ…中途半端な管理職より営業担当時代のほうがよかったな~接待同行…。
ホーム中ほどの冷房装置の横には、新卒1年目?くらいに見える女性が紺のスーツの上着を左手にかかえ、傍らには黒の大きな営業かばんを置いて扇子を懸命に振りながら汗が落ち着くのを待っている様子、生命保険会社の営業さんかな?初々しいが少しお疲れのように見える寝不足かな。
ホームの奥側からは両耳にイヤホン、スマホ片手に寅●さん製であろうニッカポッカ姿、横から伸びた腕は筋肉隆々で太く、しかも地下鉄のホーム内でサングラスをかけ、眉間に皺をよせた強面の短髪金髪青年がまさに肩で風を切りながら歩いてくる…当然私がホームのはじへ少し避けて通り過ぎる…夜の街では絶対にぶつかってはいけない💦。
実にいろいろな人が朝の地下鉄ホームには集まってくる。ここからそれぞれが各自の役割と生活のために日々活躍する場へ向かっていくいつもの風景である。
さて人間観察は程々に、●の内方面へ向かうの地下鉄4両目に乗り込む。電車内に入るとホームと比べれば天国と感じる涼風がいつものように首元を爽やかに流れる。弱冷房の車両だがホームとの温度差、他の車両よりも若干混雑していないおかげで今日も快適なポジションに入れた、真夏こそ弱冷房車がおすすめである。見るからに熱そうな雰囲気で汗を懸命に拭いているおじさんたちに囲まれるより、狭いながらも自分の陣地を確保できる弱冷房車両のほうが快適と気付く人が増えないことを願いつつ(弱冷房車両を暑がりな方は精神的に選びにくいだろうが…)、カバンから経済新聞をとり出して縦長に折った1面の見出しから目を通す。
最近はお天気新聞かと思ってしまうほど1面記事は天候の話題ばかりである。異常な天候の影響なのだろう野菜など食品の高騰はしばらく続いている、東南アジアのバナナ、国内ではジャガイモや玉ねぎ、トウモロコシなど専門的にはよくわからないがいろいろな作物の病気が流行っているようだ。
確かに土日に地元のスーパーで見る野菜たちは例年の値段よりも高いような気がしていた、昨日の夜も嫁がグチグチ私に話していたことを思い出す。このままでは私の懐も時間の問題で病気に感染しそうだ。この長い梅雨が明けて野菜の値段も落ち着いてほしいと願うばかりだが、しばらくは外食を控え、消費期限が近づいている非常食のパスタや缶詰などを活用して小遣い削減は逃げ切りたい。
それにしても梅雨がこんなに長い期間続くものなのだろうか、5月のゴールデンウィーク明けに例年よりも1ヶ月ほど早く関東地方は梅雨入りし、今年は早めに夏が来るのかと思いきや2か月半もの間梅雨のままである。梅雨と言っても間に、35度を超す猛暑日が数日あったのであの時が梅雨明け?だったのではと感じることも幾度となくあったのだが、まだ梅雨と呼ばれる状態のようである。特に広島や岡山の中国方面は長雨の影響で、地盤沈下や土砂崩れなどの大きな自然災害が発生している。この雨はまだ続く予報で、さらなる災害が発生しないか非常に心配である。その影響ではないと思うが、最近強くなったプロ野球●島カープの成績も雨とともに打線が湿りっぱなしで今年はめずらしく下位に低迷中である。雨で試合中止が相次いで調整も大変なのだろう…。
地球温暖化、その影響なのか日本の四季はなくなり亜熱帯化しているとタレント気象予報士の誰かが言っていたな~と頭の中をめぐる。私の意識がさらに違う方面へ脱線してしまいそうなので、現実に戻らねばと縦折にしている新聞をめくる。政治・経済面に進んでも災害対策やら天候の見通しに関連したものがほとんどである。自然の驚異は人々の最大関心事なのだろうか、それとも私たちへの警鐘を新聞社あげて打ち出さないといけない政府のお達しでもあるのだろうか。兎に角どの面も天候関連記事が並んでいて異様である。
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