「13話 『死体の山と誘拐』」
サバキは瓦礫に埋もれた。
まだ意識があるようで呻いたが、完全に覚醒する前に逃げ出した。
必要以上に相手をする必要はない。
今は一刻でも早くミライを追いかけなければ。
「……はっ! はっ! はっ!」
息切れし、心臓が飛び出そうなほど走り続けている。
さっきから、雨が降ったり止んだりしている。
そのせいで全身が濡れてしまった。
傘の一つでもどこかで買いたいが、足を止めることはできない。
そんな時間の余裕はない。
ミライを助け出すまでは。
そう、思っていたのに足が止まる。
「…………えっ」
ミライを見つけたからではない。
憲兵団の人たちが血まみれで倒れているからだ。
「なんだ、これ……」
サバキが引き連れていた憲兵の、多分、全員が倒れている。
そして、ここのいる人間はきっと誰一人として生きていない。
全滅だ。
一目見ただけで分かってしまうのは、憲兵団の人達が――穴だらけになっているからだ。
「死んでる……。憲兵団の人たちが……」
地面にも大きな穴が開いている。
まるで大砲で撃たれたかのようだ。
この殺され方。
カンツを殺した加害者と同一人物か? そう頭の中で疑念を膨らませていると、
ガサゴソッ、と死体が動く。
「うっ!」
身構える。
何故なら動いた男の全身には穴が開いている。
死んでいるはずなのに、動き出している。
死体が動きだす、例えばゾンビを操る『スペシャリテ』か?
――いや、違った。
「あ、ああああっ。グ、グレイスさん……」
「サクリ――」
死体の下からサクリが這い出てきた。
もしかして、唯一の生き残りか。
大粒の涙を流している。
「グレイスさあああああああああんんんんんんんんんっ!!」
「ど、どうしたんですか?」
絶叫しながら、足をつかんでくる。
恐らく、死体の下にずっと潜んで、殺人鬼の目を逃れたのだろう。
冷たくなっていく仲間をその肌に感じながら、いつまた帰ってくるか分からない犯人に怯えていた。
尋常じゃない恐怖だったに違いない。
「わ、わたし、わたしぃいい。何も、何もできなかった……」
「お、落ち着いてください、サクリさん。いったい何が……」
「さ、攫われたんです」
「……攫われた?」
ま、まさか。
この場にいない人物に心当たりがある。
「ミライさんが、男の人に攫われちゃったんですっ!!」
攫われた? 男の人に?
「なっ!」
「……私……私、なんとかしようと……だけど、みんなが……憲兵団のみんなが私の目の前で次々と……うっ、えぐっ……ころ……されてぇっ!!」
慰めてあげたいが、攫われたミライの命が心配だ。
「サクリさん、犯人の顔は?」
「えっ……顔は……」
「大事なことなんです!」
「し、知りません……私は、見たことありません……。だけど、おかしいんです……」
「おかしい?」
そ、それが、と口ごもると、
「ミライさんが、抵抗を全くしなかったんです」
震えながらそう答える。
「抵抗を……? まったく……?」
サクリの口ぶりから、相手はたったの一人。
そして性別は男。
それぐらいの情報しか手に入らない。
ミライはどうして抵抗しなかったのか。
それだけそいつが恐ろしかったのだろうか。
「ええ……。それに、何か二人は喋っていて、しかもその話し方が……親密だったんです。まるで二人は――昔からの知り合いみたいでした……」
「知り合い……?」
一体誰だ。
仮に知り合いだったとしても、目の前で人が大量に殺されたのだ。
抵抗を全くしなかった?
いくらなんでもおかしい。
サクリの主観が正しければ、殺人を犯した人間だろうが、それでも信用に値する男だったということになる。
そんな奴がいるのか?
「二人はどこに?」
考えてわからないことは、いくら考えても仕方がない。
行動あるのみだ。
「あっちに……あの角をずっと右に曲がっていくのだけ見ました……」
「あっちの方角にあるもの……まさか――」
あの先は確か――
「カンツと対峙した、墓の道か」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます