表初恋さくら通り.6
どうも棈木氏は逢摩堂の主人を良く思っていないのは確かなようだった。
なんでも先代、先々代と金の力でかなり強気な商いをしてきたらしい。
「この通りにしたって……元々はお稲荷さんの裏参道としてそこそこ賑わっておったのに。強引にあっちにアーケードを作りよって……」
「あの事故のことは忘れられん」
と、もごもごと口を挟んだのは、もう年もいくつかわからないような老婆だった。
「あれは先々代と先代じゃ、ばあさん。山を切り崩したのは。今の主人はその末裔」
ああ、なるほど。いくつかのぶつ切れの記憶やらうろ覚えの史実やらが頭のなかで結びついていく。山を切り崩し、土地開発を企てた事業家というのは、かの逢摩堂の主人のご先祖であったか。
困ったように顔を見合わせた私たちに気が付くと、棈木氏は慌てたようだった。
「これはこれはつまらん昔話をしてしもうた。すまんすまん。ただ私らは本当にあんた方には感謝しとる。あれからずっと、もうかれこれ五〇年以上になるんじゃ。私らはずっとここで、ひっそりと時の流れを待っとったんじゃから」
「明日、店が開くそうじゃの。お祝いに行かねばの」
そうだそうだ、盛大に祝わんとな――と周りの声も同調した。
「まあ久しぶりに逢摩に会うのはいささか業腹だが、あんたたちへの恩義は別もんじゃ。きっちり返さんといかんな」
その時どこかで「会長ーーーーー!」と声があがった。
「会長、ちょっとこっち来て! 指図してもらわんと」
「おうおう、今行く」
その言葉で私たちも立ち上がり、多くの人に見送られ、元祖初恋さくら通りを後にした。
月は相変わらず冴え冴えと空にあったが、通りを抜けて街の中心に近くなると、背の高いビルやきらびやかなネオンと車のライトが私たちの目を差し、満天の星と月の輝きは存在を消した。
すっかり忘れていたが夜の街はクリスマス商戦一色だった。ピカピカしたツリーのデコレーションやら酔っ払った団体が大声で歌うクリスマスソングやらで、私は久し振りに人酔いをしていたのだった。
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