ディバインフォース

伊勢志摩

第1話 暗闘


鋭い弧を描いた新月が、雲を切り裂くように浮かんでいる。

闇に浮かび上がる植え込みに幟、無限につらなる鳥居、そして社。

 鳥居のつらなりを駆け抜ける修験者。

狐の像がぼうっと闇に浮かぶ、不気味な雰囲気の稲荷神社である。


暗闇に光条が交差し、火花とともに金属音を響かせた。

「ぎやっ!」

石灯籠に修験者が肩から激突した。

足首に十字手裏剣が刺さっていた。

 それを確認する修験者の顔は、鬼の面でおおわれていた。

仮面をはねあげるようにホップして、十字手裏剣がなんと、石の灯籠に刺さった。

「ひっ!」

面がぱっくり割れ、男はすくみあがった。

「黒幕の正体をおしえてもらおうか」


16、7才ほどの少年が灯明のもとに歩み出た。主人公、内刃俊介である。

黒づくめの忍び装束をつけている。右手には角手という暗器が握られていた。拳にあたる部分に四本の角がはえた、金属製の環だ。

その顔面には、奇妙な歌舞伎役者のような

隈取りかほどこされ、髪の毛は逆立っている。


「だれから呪殺をうけおった」

男の前に人形が投げ出された。その胸には『宮田』と書かれた木簡がついていた。

男の様子が一変した。白目をむき、糸で引かれたように立ち上がる。

石灯籠に刺さっている手裏剣が、肩にくいこんで抜けた。

 何者かの邪悪な気配が取り憑いていた。


「なんだこの波動は」

「ぐ、ぐ、ぐぎょおおーっ!」

男は肩に手裏剣を生やしたまま、狂ったように叫んで跳躍した。

「しまった」


森閑たる鎮守の森から一転して、光の渦巻く高層ビル群が出現する。

稲荷神社もまた高層ビルのひとつ、その屋上にあったのだ。


大都会の夜景に身を躍らせた男は喧騒の中に墜落していった。

「ちぇっ、また老師に怒られるのかよ」

手すりから身を乗り出して下をのぞきこむ

俊介の顔は、普通の少年にもどっていった。

「むっ」

異様な視線に気がつく。

同じぐらいの高さのホテルの窓、二人の男女が俊介を見つめている。

女は横顔を見せて男にまとわりついている。

男は長髪だったが、その顔は逆光でさだかではない。

 眼光だけが異様な輝きをはなっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る