🐶ペットショップ💖ダイアリーズ😺 Ⅰ(ワン)
乃上 よしお ( 野上 芳夫 )
第1話 出発 (たびだち)
ちょっと大きめの、神奈川県の、とある家で僕は生まれた。
沢山の仲間たちに囲まれて、やたらとうるさい記憶しかないのだが。
兄弟は5人。だが僕の記憶では、あともう一人いたように思う。
今はいない彼は、体が弱く、母に群がる兄弟たちを押しのけて乳を吸うだけのガッツもなく、腹をすかして倒れているときに、ブリーダーのミヨ子ちゃんにつかまれて何処かに行ってしまった。
それが最初の別離だった、
それ以来、彼を見ることはなかった。
だから、兄弟の人数をきかれたら、5人ということにしている。
人は、僕たちをイヌと呼んでいる。
人間とは違う姿をしているので、モノ珍しさから、可愛いいと言って彼らは近寄ってくるのだ。
私たちは人間の古き良き友であり、その歴史は長い。
もともとは狩りをして生きていたのだが、人間のそばにいればもっと容易に食事にありつけることがわかり、私たちは何万年もの昔から、人間のそばで生活するようになったのだ。
僕の場合、身体の大きさに比べて眼が大きいので、そこが人間にはイイらしい。
大きな耳もチャームポイントだ。
じつはコレは実用的なもので、狩りの時に地面を耳でこすりながら歩くのだ。
今は邪魔になるので、耳の毛はやや短く刈り込まれている。
我々は中型犬として分類され、小型犬のトイプードルがもてはやされる今の日本では、やや大きめの存在とされている。
だから、可愛いことは間違いないのだが、プードルに比べるとイマイチ認知度が低いのが残念だ。
キャバリアはかつて英国のチャールズ二世の寵愛を受けてナイト(騎士)の称号を与えられている。
これだけでも、僕たちは特別な存在と言えると思うのだが......
今はそんなことは御構い無しに、沢山の雑多な仲間たちの中で揉まれている。
人生がどうなるかなんて、考えているヒマはない。
食べることに必死だ。兄弟たちを押しのけて、お母さんにくらいついていく。
だが幾日かしてから、僕たちはお母さんから引き離された。
ここから僕の孤独な人生が始まった。
その時以来、僕は犬よりも人間とかかわる時間のほうが多くなり、いつしか自分も人間のひとりであるかのように錯覚してしまうようになったのだ。
——そうだ。
僕は人間なんだ。
みんなと同じようにソファに座ってリラックスしたり、美味しいものを食べる権利があるのだ。
ただ、ちょっと小さくて、姿がユニークなだけだ。
しばらくすると、お母さんの代わりに、ミヨ子ちゃんがミルクをくれるようになった。
遠くから彼女の足音がすると、すぐにわかる。
いつしか彼女は、機嫌のいい時には僕のことを、チビちゃんと呼ぶようになっていた。
「おチビちゃんお腹すいたかな?」
といいながら、優しく僕を抱き上げて自分のおっきな胸に押し付けながら、ミルクをくれる。
僕が彼女の母性愛を、さらに目覚めさせているのかもしれなかった。
——安心しな。イイ女にしてあげるよ。
毎日を過ごしていく中で、僕はこのままの人生が、ずっと続いていくのかと思っていた。
だがある日、突然、僕だけが車にのせられて、ミヨちゃんと出かけることになった。
いままで感じたことが無かったような振動を身体に刻み込みながら、何時間も僕は車の中で揺られていた。
いったい、僕はどこに行くのだろうか?
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