在る国、在った駅のホームで。


「ああ、それでも行くんだね」

「うん。決めたから」

「……別にあんたじゃなくても良いんじゃない?」

「んー。でも約束しちゃったし」

「約束?」

「うん。やり遂げるって」

「……約束した相手が居ないんじゃ、成り立たないんじゃない?」

「そうは行かないよ。多分、みんな待ちくたびれてる」

「そっか」

「ねえ、帽子の向きはおかしくない?」

「うん。とっても似合ってるよ」

「コンパスも持ったし、お弁当も持った。忘れ物は無いかな」

「あるよ」

「え、何忘れてる?」

「約束」

「約束?」

「うん。私との約束を忘れてる」

「……困ったな」

「絶対、戻ってきてね」

「嘘、つかないって決めたんだけどな」

「……酷いね」

「僕なりの優しさ、なんです。精一杯の」

「そんなの要らないよ」

「じゃあさ。あっち着いたら、手紙だすよ」

「遺書とか送ってきたらぶっ飛ばすからね」

「おっかないなぁ」

「変な話だよね。明日起きたら貴方が居ないなんて」

「毎朝起こしに来る必要もなくなるよ」

「生きがいだったのに」

「般若みたいな形相だったけど」

「からかうな」

「いつも通りが、良いな。それだけ持っていきたい」

「バカ」

「うん」

「大バカだ。あんたは」

「うん」

「ハチの巣突いた時も、木から落ちた時も、池で溺れた時も。助けるのはあたしの方だったのに」

「いっぱい助けられたよね」

「あんたはあたしが居なくちゃ駄目なのに」

「それは、ちょっと悔しいかなあ」

「だから、行かないでよ」

「昨日はあんだけ背中叩いてくれたのに」

「皆の前でこんな事言える訳無いでしょ」

「さいですか」

「……ばか」

「泣かないでよ。初めて見たよ、そんな顔」

「初めて泣いたもん」

「……今度はさ、僕が助けるんだ」

「いいよ、そんなの」

「助けさせて。お願い」

「嫌だ」

「じゃないと、胸を張って、キス出来ないじゃないか」

「バカ。大バカ。宇宙的バカ」

「それでも、いいよ」

「行かないでよぉ」

「……ごめんね」


「……笑ってキスしたかった」

「いつか、出来るよ」

「それ、約束にしていい?」

「……考えとく」

「いつまでも待つから、さ」

「……了解」

「ゆーびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます」

「ゆびきった」


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