ハーレムと書いて地獄と読む
@sharon826
第1話 どうしてこうなった!
その日は,朝からあまりすっきりとしない天気だった.
1時間目の国語が終わっても,2時間目の理科が終わっても,天気は変わらないし雲の切れ間から何か神々しいものが出てくるなんてことはなかった.3時間目の現代社会が終わるころには少しだけ雨が降ってきて,4時間目の体育が終わる頃にはすっかり土砂降りとなっていた.各自持参した弁当を食べながら「雨やばーい」だの「帰り親呼ぼー」だの喋っている女子生徒の声が聞こえていた.しかし5時間目の数学の頃から雨は小康状態となり,6時間目の英語が終わる頃には雨もすっかり止んで虹がかかっていた.二時に虹が見えるなんて…と思ったが思うだけにした.
教室の掃除をしながら今日はイ●ンの本屋に寄り道にして帰ろうとか思っていると担任の石田先生がやってきて
「入る部活は決まったか?今日の部会で朝配った紙出せよ」
と聞いてきた.そうだった部会あるんだ.寄れないじゃん.
「一応決まってます」
上辺だけ愛想よくそう答えた.まあ一応も何も入る部活は決まっているけど.
「何部だ?」
「パソコン…ですね」
パソコン部.昨年夏,1日体験入学でお世話になった部活だ.まあ,正直それ以外やりたくないってのもあったけど,俺はそこに入部しようと決めていた.
「運動部じゃなくていいのか?スポーツで汗を流すことは最高に気持ちいいぞ」
「あー……生憎ですけど,自分,病気抱えてるので運動できないんです」
俺は自分の抱えている病気について詳しく説明した.本当はあまり人には知られたくないものだけれど,担任なら知っておいてもらったほうがいいってことで.
「そっか……,なんかすまんな」
「いえ,慣れたことなので問題ありません」
石田先生はどこか肩を落としたように教卓に向かっていった.
掃除も終わって,俺はパソコン部の活動場所となっているパソコン室へ向かった.そこには俺と同じ学年カラーの靴を履いた女子生徒が何人かいた.…あれ男子生徒って俺だけ?
「えー,皆さん,パソコン部の入部希望者ってことでいいわね?」
いつからいたかわからない皺が目立つが肌年齢は若そうな感じのする女性が言った.光の当たり具合ってのもあるかもしれないけど.顧問なのかな?
「パソコン部の部会は3階の図書室で行いますので移動してくださーい」
ぞろぞろと軒並み立ち上がり移動し始めたので俺も着いていくことにした.
図書室は思っていたほど広くなくて,俺の出身中学と同等かそれより幾分狭いかに見えた.
「ではこれより部会を始めまーす.じゃ部長.あとは頼んだわよ」
先ほどの女性……おそらく顧問であろう人にバトンタッチされるように前に出たのは体格のよろしいお方だった.
その人が言うには,この部はパソコン部と称しながらいろいろな文化的な活動(例えば紙漉き,うちわ作り,文化祭に向けたいろいろな作品制作)を行うこと,基本的に活動は自由で出席しないことによるペナルティはないこと,パソコン室が主な活動場所だが先程のような活動を行うときは別の場所になること,などがあった.ちなみにさっきの女性は紛れもなく顧問でした.
「説明ありがとう.じゃあ最後に入部届だけ出してね.一応部活動としては17時まで活動時間としてパソコン室は開けてあるから,何か調べものしたい人とかがいたら使っていいわよ.まあ帰ってもいいけどね」
早速入部届を書くことにした.紙はすぐ見つかったのだが……黒いボールペンがない.おかしいな…昨日はあったのに.筆箱の中にはもちろんないし,鞄のなかも,教室の机のなかも,探したけれど見つからない.
「ウチの書き終わったら,貸そうか?」
隣に座るどことなく日焼けしていたという感じのある女子生徒が声をかけてきた.
「んー……いいや,これで書く」
「えっ?それで?」
俺が出したのは昨日百均で買ったばかりの先端に渦巻き模様の飴がついたペンだ.一応これでも黒いボールペンである.バランスが悪いのは愛嬌だ.
「それ,書けるの?」
「一応黒いボールペンだし…ほら」
「ほんとだ…」
さっきまで笑っていた隣に座る女子生徒もこれには軽く引いたような笑みを浮かべていた.
「終わったぁー!」
威勢よく後ろに座る女子生徒が叫んでいた.耳がキーンと鳴り不意に耳を塞ぐ.その拍子にボールペンが落ちた.
「はい,ぼーるぺ…なにこれめっちゃかわいいんだけど!!!!」
さっきの女子生徒は持ち前のハイテンションでボールペンを拾ったことにリアクションをしていた.そしてその声に同じ学年カラーの女子生徒が群がる.
「えっ何これペン?」
「ペロペロキャンディのボールペンとかかわいいのう.これ誰の?」
俺は恥ずかしくなって静かに手を挙げた.
「えっ」
みんな凍り付いた.
そして少し謎の間を置いたのち
「そうだ!今日からお前ペロキャンな.ペロペロキャンディのボールペン野郎略してペロキャン.いいな?」
「えっ,ちょっ」
唐突なことに動揺を隠せないでいると
「いいねぇ!よろしくな,ペロキャン!」
「ふーん…そんな趣味なんだ…ふーん…ペロキャン…ふーん…」
「うわー,ないわー.ペロキャンとかマジないわー」
散々な言われように齢15にして俺は不登校になりたいと心から願った.呆気に取られて何も言えなかったけど.
「まあ,これは返すよ.ってなわけでこれからよろしくな,ペロキャン」
「は,はあ……」
とりあえず本名で無いにしろ名前を覚えられてよかった……のか?いやよくない.でもまあいい…どうせすぐ忘れるだろう…….
俺は肩を落としたまま入部届を提出しパソコン室へ向かった.
これがずっと言われ続けることになるとは,この時は思いもしなかった.
ハーレムと書いて地獄と読む @sharon826
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