第38話 天使と悪魔と銭狂い⑧
「ぬっ、誰だ!」
咄嗟に右手の爪で弾くと、ヘルオームは光の矢が放たれた方向を睨みつける。
「全く、あなたという人は。本当に怖い者知らずですね」
「リサオラ!?」
そこにはぱっくりと割れた空間と、右手に緑色に輝く光剣を携えたリサオラがいた。背中に大きな白い翼を生やしているその姿はまさに天使だ。
「ヘルオーム。何十年も天使から逃れていた指名手配悪魔とまさかこんな所で会うとは思ってもいませんでしたよ。次元の狭間に隠れていたのですね、どうりで気配が感じられないはずです」
「それはお互い様だ。『
鷹揚な仕草で両手を広げ、ヘルオームは続ける。
「天使よ、今の私は機嫌が良くてな。『
「リサオラ」
「安心してください、奴の取引になど応じる気はありません」
「あいつの賞金はいくらだ?」
「……他に聞くことはないんですか?」
「ないっ!」
きっぱりと断言するタダクニに、リサオラは心底呆れ果てた顔を浮かべる。
「……喜んでください。何とナントの三億円です」
「ってことは、奴をぶちのめせばめでたく借金完済ってことか!」
「ええ、そうです。ですが――」
「よっしゃーっ!!」
リサオラが言い終わらぬうちに、タダクニはヘルオームに向かって突進していた。
「悪霊だろうが悪魔だろうが、このゴーストスイーパー有馬が奈落の底に叩き落としてくれるわ! 俺の輝く未来のためにお亡くなりになりやがれええええ!!」
「ぐっ、むうう!」
先程より数倍の威力と速さがある一撃に、さすがのヘルオームも片手だけでは防ぎきれず一瞬怯んだ。その隙を逃すまいと、タダクニは二の手、三の手を繰り出す。
「人間風情が! 調子に乗るなッ!」
両手を使ってタダクニの連撃を防ぎながら、ヘルオームは大きく息を吸い込んだ。
それを認識した瞬間、タダクニの背筋にぞわり、とした悪寒が走った。
あれはヤバい。本能がそう警告したのと同時に、タダクニは大きく後ろに飛び退った。
次の瞬間、ヘルオームの口から燃え盛る火炎が噴き出し、タダクニの前髪を数本焦がす。
「そんなんありかよっ!」
タダクニは一旦間合いを切って呼吸と体勢を整えようとするが、ヘルオームの追撃の方が速かった。
「殺すわけにはいかんが手足の一、二本は切り落としてくれるわ!」
「させないっ!」
ヘルオームの爪が振り下ろされる直前、横からリサオラが飛び込んでグライシンガーで受け止める。グライシンガーの光刃が徐々に爪に食い込んでいくのを見ると、ヘルオームは舌打ちして後方に大きく飛んだ。
「ならばこれはどうだ!」
言うなり、ヘルオームは指先から何本もの光線を発射した。
「くっ!」
リサオラはわずかに顔を歪めながらも、グライシンガーで次々と光線を弾き飛ばす。しかし、ヘルオームの攻撃速度は全く衰えず、逆にリサオラは防ぐのに精一杯で反撃に転じる余裕はなかった。
「しまった!」
次第に捌き切れなくなり、ほんの一瞬の遅れでリサオラの手からグライシンガーが弾かれ、空中を舞ったグライシンガーは光線の一撃を浴びて粉々に砕け散った。
「どうした? 天使の力はその程度か?」
「あんの野郎! おいリサオラ、何か打つ手はないのか?」
「安心してください、突破口はあります。タダクニ、掌を出してください」
リサオラに言われるまま、タダクニは左の掌を広げると、そこへ光と共に蓋のない金属製の小箱が出現した。
「なんだこりゃ?」
「それは女神ラタフィカの加護を受けた聖なる箱です。タダクニ、その箱に手を入れてください!」
「はあ? いいけどなんでだよ?」
「その箱に手を入れれば強力な武器をランダムで授かることができます。……一回につき三〇〇万の代価が増えますが」
「課金じゃねえか!」
「で、ですが今なら期間限定一一連ガチャでSレア武器の確率が二倍の超絶アップ中(〇・〇〇二パーセント)なんですよ! さらに超低確率ですが運が良ければどんな悪魔でも一撃で屠れる神器も授かれます!」
「ふざけんな! ん?」
箱の底から何やら声が聞こえてくる。
『さあ、タダクニ……ガチャを回すのです』
「誰がやるかッ!」
ありったけの力を込めて、タダクニは小箱を地面に叩きつけた。
「ガチャ……ガチャ……がっちゃ……」
壊れたCDプレーヤーのように課金の催促を繰り返す小箱をタダクニはとどめとばかりにさらに何度も踏み潰す。
「なんてことを! せっかくの逆転のチャンスだったのに!」
「やかましい! 逆転する前に破産するわ! もっとマシな手はねえのか!」
「……仕方ありませんね……ならば」
リサオラはため息とともに両の掌から二丁の黄金銃を召喚する。
両手にそれぞれ黄金銃を構えると同時に、どこからともなく白い鳩の群れが現れ、そのままどこぞへと羽ばたいていった。
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