第16話 さわやか草野球デスマッチ! 血戦編⑥


 五回表。マウンド上にはシュウジに代わってタダクニが立っていた。その上半身はごちゃごちゃとした黒い機械で覆われている。

「わーいるどしーんぐ♪ ゆーめいくあはーとしんぐ♪」

 タダクニは陽気に口ずさみながら大きく腕を振りかぶる。

「ゆーめいくあえーぶりしんぐ、ぐるーびー」

 凄まじいモーター音とともにタダクニの右腕が唸りを上げる。

「わーいるどしんぐ!!」

 ズバーーンっ!!

 初球はキャッチャーミットの遥か上、大暴投だった。しかし、タダクニの右腕から放たれた剛速球は、後ろの金属フェンスを易々と突き破った。

「すごい! 一七〇キロも出てる! しかも貫通属性を持ってます!」

 ヒカリはスピードガンを見て目を丸くする。

「あれくらい当然だよ。強力なスプリングとモーターにより凄まじい威力の剛速球を可能にし、変化球も自在に投げ分けられる。さらに内臓されたコンピュータによってバッティングもミリ単位でどんなボールにも合わせられる。サービスとして投球による衝撃の九二パーセントを吸収してくれる特製ミットもつけておいた。あれこそ、僕が二日間徹夜して作り上げた野球用マッスルスーツ、『ターミネーター』さ」

 休日にも関わらず、制服の上に白衣姿のマキナがヒカリの隣でてきぱきと説明を始め、

「試作品だから耐久性に難ありだけど、この試合くらいはもつはずだよ……多分」

最後の方は蚊の鳴くようなか細い声でぼそっと付け加えた。

「ふはははは! 見たか、この威力! これがあれば鬼に機関銃マシンガンだ!」

(じゃ、冗談じゃねえ! あんなの頭にでもくらったら首ごと吹っ飛んじまう!)

 恐怖で体が竦み上がった安藤麗は、もはやバットを振るより体を守ることしか頭になかった。

(もう、いちいち突っ込むのも面倒だ……)

 タダクニと入れ替わりでキャッチャーになったシュウジは、疲れきった表情で何度か特製ミットを叩いて座り直す。どうやらこの試合を通じて彼の生真面目さもどこかへ吹っ飛んでしまったらしい。

「驚くなかれ、まだこれはほんの肩慣らしだ。最高球速は三〇〇キロにまで達する!」

 ズバンっ!

「二〇〇キロ!」

 ズババンっ!

「きゃーっ! 三〇〇キロ!!」

 ヒカリは両手を上げてはしゃぎだした。

 結局、この回は安藤麗、仏茶、馬尻を三者連続三振でチェンジとなった。


 五回裏。トップバッターのヒロキはライトフライに倒れ、ガチホモの打球はセンターへの大飛球となったが俊足のボボによりセンターフライとなる。

「さあ来い、クソガキ! どんなボールだろうがてめえの面にぶち込んでやるからな!!」

 ギラギラと血走った双眸そうぼうでタダクニはマウンド上の外下々野を睨みつける。

(くっ……。俺が圧されてる!? 馬鹿なっ!?)

 外下々野はかつて味わったことのない戦慄わななきを感じていた。

「今度こそあの世に送ってやる! 必殺、ソウルクラッシャー!」

 外下々野の体を黒いオーラが覆い、右手から必殺の魔球が放たれる。

「来たなっ!」

 ボールは先程と同じ顔面直撃コース。薬の効果を信じているのか、タダクニは全く避けずにバットを振る。

「ぐぬぬぬぬぎぐおおおっ!!」

 凄まじい衝撃と電撃がタダクニの体を再度襲う。

「てててててええめええもももみちづれじゃーーーーッ!!」

 が、今度はタダクニはその場で踏みとどまり、最後までバットを振り抜いた。

「馬鹿なっ!?」

 外下々野がそう叫んだ時には、既に打球は外下々野の眼前まで迫っていた。

「ぐああああッ!!」

 タダクニを中継したからか威力はある程度減少したようだったが、それでも強烈なダメージが外下々野の顔面から体中を駆け巡る。

「……ざ……ざまあみろ……」

ピッチャーマウンドでうずくまる外下々野を見ながらタダクニはほくそ笑み、そのままバタリと地面に倒れ伏せた。

 この打席の結果はピッチャーライナーとなり、一対二のまま五回は終了した。


 六回の表が始まって早々、試合は荒れていた。

 ビュっ!

 ガンっ!

「ぶひっ!」

 バキャっ! ボンっ!

「んぎゃあああっ!」

 グラウンドに二人の悲鳴が響き渡る。

 一人は三〇〇キロの剛速球がヘルメットに直撃し、地面にのたうち回っている怒外道のトップバッター鬼築きちくかたわらにある粉々に砕け散ったヘルメットがその威力を物語っていた。

 もう一人は剛速球を投げた直後、必殺魔球を食らってどこか故障したのだろうか。いきなり『ターミネーター』が爆発し、それを直に浴びて吹っ飛んだカス中ピッチャーのタダクニ。

 ピッチャーとバッターが同時に悶え苦しむという非常に珍しい光景だった。

「おい、あれ壊れちまったぞ」

「やはり耐久性に難があったか。もう少し時間があれば良かったんだけどね……」

「うーむ、やはり機械に頼ってはいかんということか」

 もはやタダクニの身体を案ずる者は一人もおらず、シュウジも小さく肩を竦めながらマウンドにゆっくりと歩み寄った。

「どうするんだ、有馬? そのマシンが壊れた以上は、君にピッチャーは無理だろう」

「くそっ! こうなったら乱闘でも起こしてあっちの主力を何人か潰すぞ!」

「清々しいくらいに畜生な奴だな、君は」

「まずいですね……。坂本君はピッチャー経験はないし、他に投げれる人は……」

「ピッチャーならここにいる!」

 その時、沈痛な面持ちのヒカリに応えるようにグラウンドの入り口から声がした。振り向くと、そこには先程救急車で運ばれたはずの雲母の姿があった。その隣には山田の姿も見える。

雲母きらら君!? それに山田君も!」

「すまない、マネージャー。心配させたな」

 二人は大怪我を負ったとは思えないほどしっかりとした足取りで一塁ベンチへと一歩ずつ歩く。どうやらリサオラはタダクニの依頼通りにしっかりと仕事をしてくれたらしい。

「二人とも大丈夫なの!?」

「うんー。なんか病院に着いたら急に具合が良くなったみたいでー」

「ここからは俺達があいつらを抑えてみせる!」

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