第4話

 しまった、そう思い慌てて女性の方を見る。しかし彼女は別段気にした様子を見せなかった。

「……なにも、言わないのか」

「状況が状況だし、自衛の手段を持っていたっておかしくないわ。私だって持っているんだし」

 あっけらかんとそう言う。それより、と続けて彼女は言う。

「どうして使わなかったの? 持ってても使わなくちゃ意味ないじゃない」

「いや、そんなこと思いもよらなかったんだよ……。逃げることしか頭になかった」

 逃げきれなかったけどね、と自嘲気味に言うが、彼女は笑わなかった。

「それも仕方ないわね。正直、私だって今の状況を全部受け入れられているわけではないわ。少しだけ最悪の事態を想定していて、少しだけ銃が使えるからなんとか生き残ってこれたけど」

 そう言って彼女は口を閉ざす。が、しばらくして再び口を開いた。

「私は佐藤。ここの警備員をしているわ」

 警備員が実銃を持っているのか、とは思ったが口にしなかった。それを言えば私なんて推定研究員だが銃を持っている。

「私は……わからないんだ。記憶がなくて」

 自分でも言っていて怪しいと思うが、ここで取り繕っても仕方ない。

「それは、お気の毒に。目が覚めていきなりこんな地獄じゃ、さぞ混乱したでしょうね」

「ああ、まったく」

 頭を抱える私を見て、彼女が思い出したように言う。

「そういえばその作業着って名前とかのタグが入ってるんじゃなかったっけ?」

「なに、そうなのか。しかしこれは近くにあったのを適当に着ただけだから、私のではないかもしれない」

 捨てる前に気づいていれば、自身の手がかりがなにかあったかもしれないのに。今更悔やんでも仕方がないが。

「あれ、でもそれじゃあ、あなたってその辺に裸で倒れてたってこと?」

「いや、まあ、そんな感じだ」

 我ながらあまりに怪しいが、記憶喪失だけど起きたら血だらけで証拠隠滅してから外に出ました、と本当のことを言っても怪しいのは変わりない。適当に誤魔化す他ないだろう。

「ふーん」

 この段になると、ここまで素直に話を聞いてくれた彼女も流石に訝しげな視線を向けてくるが、冷や汗を流しつつやり過ごす。

「まあいいわ。それじゃあ行きましょ」

 両手を叩きながら彼女はそう言う。

「行くって、どこに?」

 唐突に出てきた提案に戸惑う。

「セーフルームよ。いつまでもこんな危ないところには留まっていられないし、そこならある程度情報にもアクセスできるから、あなたの素性もわかるかもしれない」

 願ってもない展開に、私は一も二もなく賛成した。

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