作品の完成度を高める方法

第1話 完成度とは

　これは初心者（しょしんしゃ）向（む）けの完成度（かんせいど）を高（たか）めるための方法論（ほうほうろん）です。守破離（しゅはり）で言（い）うところの守（しゅ）に該当（がいとう）します。

　守破離（しゅはり）とは「最初（さいしょ）は教（おし）えを守り、教（おし）えられたこと以上（いじょう）のことをできるようになり、最終的（さいしゅうてき）に教（おし）えから離（はな）れていく」ことです。

　作品（さくひん）を書（か）けるけれど内容（ないよう）が滅茶苦茶（めちゃくちゃ）な人（ひと）のための話（はなし）です。

　さて、題名（だいめい）にある作品（さくひん）の完成度（かんせいど）とは何（なん）でしょうか？

　作品（さくひん）を書（か）いたとき、多（おお）くの人（ひと）は完成度（かんせいど）を高（たか）める前（まえ）に完成（かんせい）したことにしてしまいます。

　初心者（しょしんしゃ）にとって完成度（かんせいど）を高（たか）める作業（さぎょう）というのは非常（ひじょう）に分（わ）かりづらく、しない人（ひと）が多（おお）いように思（おも）います。

　むしろ完成度（かんせいど）を高（たか）めるための作業（さぎょう）を行（おこな）わないからこその初心者（しょしんしゃ）であり素人（しろうと）でもあります。

　多（おお）くの場合（ばあい）、教（おし）えてくれる人（ひと）がいなければ気（き）づけません。

　教（おし）えてもらうのが嫌（きら）いな人（ひと）、教（おし）えてもらう機会（きかい）に恵（めぐ）まれなかった人（ひと）、理由（りゆう）は違（ちが）えど結果（けっか）としては同（おな）じです。

　小説（しょうせつ）で大切（たいせつ）なのは物語（ものがたり）の骨格（こっかく）そのものです。その組立（くみたて）は大抵（たいてい）の場合（ばあい）は感覚的（かんかくてき）なものであり芸術的（げいじゅつてき）なものです。

　ですが、その内容（ないよう）を伝（つた）えるためには技術的（ぎじゅつてき）な要素（ようそ）も必要（ひつよう）です。

　技術的（ぎじゅつてき）なレベルが低（ひく）いままでは作品（さくひん）の完成度（かんせいど）が必要（ひつよう）なレベルに達（たっ）しません。ですが安心（あんしん）してください。芸術的（げいじゅつてき）な部分（ぶぶん）は仕組（しく）みを伝（つた）えられない部分（ぶぶん）ですが、技術的（ぎじゅつてき）な部分（ぶぶん）は仕組（しく）みを伝（つた）えることのできるものなのです。

　話（はなし）は逸（そ）れますが、わたしは小説（しょうせつ）が好（す）きです。

　小説（しょうせつ）は基本的（きほんてき）に文章（ぶんしょう）のみで伝（つた）えるメディアであるため非常（ひじょう）に偏（かたよ）った情報伝達方法（じょうほうでんたつほうほう）ですがそこが好（す）きです。

　子供（こども）の頃（ころ）は本（ほん）の内容（ないよう）が本質（ほんしつ）であって、紙媒体（かみばいたい）である本（ほん）そのものは器（うつわ）であり大切（たいせつ）にする対象（たいしょう）ではありませんでした。

　しかし多数（たすう）の作品（さくひん）に触（ふ）れるうち、物語（ものがたり）の伝（つた）え方（かた）そのものに理論的（りろんてき）な部分（ぶぶん）があり芸術的（げいじゅつてき）な部分（ぶぶん）との融合（ゆうごう）がなされている必要（ひつよう）があるのではないかと思（おも）うようになりました。また、作品（さくひん）を読（よ）んだり書（か）いたりしているうちに完成度（かんせいど）について考（かんが）える機会（きかい）が多（おお）くなりました。

　完成度（かんせいど）とは過不足（かふそく）がどの程度（ていど）あるかで大（おお）まかに知（し）ることができます。

　過不足（かふそく）は作品要素（さくひんようそ）のバランスとは別物（べつもの）です。

　作品内（さくひんない）の要素（ようそ）が全体（ぜんたい）に対（たい）してどの程度（ていど）の比率（ひりつ）を占（し）めているかがバランスです。

　過不足（かふそく）は、作品（さくひん）として不要（ふよう）な内容（ないよう）が書（か）かれていたり、作品（さくひん）として必要（ひつよう）な内容（ないよう）が不足（ふそく）していることを言（い）います。

　少（すこ）しくらいは許（ゆる）されますが過不足（かふそく）がひどいと許（ゆる）されません。感覚的（かんかくてき）な世界（せかい）ですが初心者（しょしんしゃ）にとって一考（いっこう）する価値（かち）はあります。

　具体例（ぐたいれい）をあげます。

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　例（れい）１　不足（ふそく）がある

　あの人（ひと）宇宙飛行士（うちゅうひこうし）。

　飛（と）んでって帰（かえ）ってこなかった。

　涙（なみだ）がきらり頬（ほほ）を伝（つた）った。

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　例（れい）１の内容（ないよう）は短（みじか）すぎて意味（いみ）が分（わ）かりませんが、実際（じっさい）にＷＥＢに投稿（とうこう）されているような作品（さくひん）を思（おも）い出（だ）しながら概要（がいよう）だけを抜（ぬ）き出（だ）した文章（ぶんしょう）です。

　例（れい）１の内容（ないよう）に対（たい）して”書（か）かれている要素（ようそ）を増（ふ）やさずに加筆（かひつ）”してみましょう。どれだけ加筆（かひつ）しても登場（とうじょう）している要素（ようそ）が少（すく）なすぎて苦（くる）しいと思（おも）います。読者（どくしゃ）は作者（さくしゃ）の提示（ていじ）した内容（ないよう）を受（う）け取（と）りますが、受（う）け取（と）る内容（ないよう）が少（すく）なすぎると理解不能（りかいふのう）になって本（ほん）を閉（と）じます。

　問題点（もんだいてん）の整理（せいり）をしましょう。答（こた）えはシンプルです。

　読者（どくしゃ）に提示（ていじ）されている要素（ようそ）が不足（ふそく）しているのです。

　次（つぎ）に、過不足（かふそく）の過（か）を例（れい）としてあげます。

　例（れい）１と比較（ひかく）するため内容（ないよう）は例（れい）１と同（おな）じとします。

　内容（ないよう）が支離滅裂（しりめつれつ）なのでじっくり読（よ）むと頭（あたま）が痛（いた）くなりますから流（なが）し読（よ）みで結構（けっこう）です。

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　例（れい）２　過剰（かじょう）である（今回（こんかい）は表現（ひょうげん）が滑（すべ）っていることも含（ふく）む）

　私（わたし）のここ数年（すうねん）でたった一人（ひとり）の恋人（こいびと）は素敵（すてき）でいつも渋（しぶ）い顔（かお）をしているけどコーヒーが好（す）きだ。ついでに宇宙飛行士（うちゅうひこうし）で。

　コロンビア産（さん）のコーヒー豆（まめ）が好（す）きだった私（わたし）のここ数年（すうねん）でたった一人（ひとり）の恋人（こいびと）は宇宙飛行士（うちゅうひこうし）としての任務（にんむ）でスペースシャトルに乗（の）って大気圏（たいきけん）の向（む）こうの宇宙空間（うちゅうくうかん）に飛（と）んでいって帰（かえ）ってこなかった。焙煎中（ばいせんちゅう）のコーヒー豆（まめ）は飛（と）んでいかないけど私（わたし）のここ数年（すうねん）でたった一人（ひとり）の恋人（こいびと）はそうでないらしい。

　丸（まる）っこいけど三角形（さんかっけい）みたいな蠅（はえ）がうるさく飛（と）んでいる。叩（たた）き潰（つぶ）そうと思（おも）ったがやめた。丸（まる）っこいけど三角形（さんかっけい）みたいな蠅（はえ）の見（み）た目（め）はコーヒー豆（まめ）みたいで。でも私（わたし）はコーヒー飲（の）まないしコーヒー豆（まめ）に興味（きょうみ）はないけど。ていうかコーヒー豆（まめ）に興味（きょうみ）があるってどんな感（かん）じ？

　コーヒーを飲（の）む。ごくごく飲（の）む。一気飲（いっきの）みする。最近（さいきん）は合（ごう）コンで疲（つか）れているから飲（の）み干（ほ）せない。

　私（わたし）のここ数年（すうねん）でたった一人（ひとり）の恋人（こいびと）のことを考（かんが）えながら私（わたし）のここ数年（すうねん）でたった一人（ひとり）の恋人（こいびと）を失（うしな）ったことに対（たい）する涙（なみだ）が鼻筋（はなすじ）のほうには落（お）ちずに頬（ほほ）のほうを流（なが）れていった。

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　ツッコミどころが満載（まんさい）です。読（よ）みたくない！と思（おも）う人（ひと）も多（おお）いかと思（おも）われます。

　主（おも）な原因（げんいん）はいくつかありますが、全体（ぜんたい）として言（い）えるのはどうでもいいことを書（か）きすぎていること、表現（ひょうげん）を工夫（くふう）しようとして失敗（しっぱい）し滑（すべ）った表現（ひょうげん）を大量生産（たいりょうせいさん）しているところです。

　例（れい）１と例（れい）２に共通（きょうつう）するのは読者（どくしゃ）が「なんだこれ」と思（おも）うことです。

　また表現（ひょうげん）にセンスがない、表現（ひょうげん）が上滑（うわすべ）りしているというのは作者（さくしゃ）にとって重要（じゅうよう）な事実（じじつ）を伝（つた）えています。

　表現（ひょうげん）が相手（あいて）に伝（つた）わっていない、すなわち「表現（ひょうげん）が相手（あいて）に伝（つた）わるかが検討（けんとう）されていない」のです。

　ストーリーが作者（さくしゃ）の頭（あたま）の中（なか）で完成（かんせい）していても、その完成（かんせい）した内容（ないよう）を誤解（ごかい）のないように伝（つた）えることができなければ小説（しょうせつ）としての完成度（かんせいど）が低（ひく）いと言（い）えるでしょう。