第62話 意外な人からの連絡

「やあ真司君、一体どうしたの?」


 俺はゲームからログアウトし、そろそろ団長が帰宅したかな~という時間を見計らってから電話をしてみた。


桐原きりはらさんこんばんは。えっと実は桐菜きりなさんの事で・・・」


 そう切り出してから、千隼ちはやさんの事で何か分かった事はないのかを聞いてみた。


「うーん、桐菜ちゃんとは相変わらず連絡取れてないんだけどね・・・」


「そうですか」


 まあ、姉貴経由で仕事している事だけは確認できてるからいいけど、団長も連絡取れてないのか・・・。しかし、その後団長は意外な人物の名前を出してきた。


「実は、桐菜ちゃんじゃなくてヒカリさんから連絡が来てさ」


「えっ!」


 一体何の連絡だろう?ヒカリさんとの最後のやり取りを思い起こすと、あまり良い想像が出来なかったのだが、しかし団長から聞いたヒカリさんの話は意外なものだった。


 団長によれば、あるひ突然ヒカリさんからお話したいと連絡があったそうだ。それでこちらが場所を指定して、そこで話をすることに。団長が指定した喫茶店に行くと、そこにはヒカリさんらしき女性と40代半ば程の男女が座っていたという。


 ヒカリさんの写真をもらっていた団長がヒカリさんに声をかけると、ヒカリさんの両脇に座っていた男女、実はヒカリさんのご両親で、二人が深々と頭を下げてきて「この度は娘がとんでもない事をしでかしてしまって・・・」と謝罪してきたんだと。そしてヒカリさん自身も謝罪してきたそうだ


 以前のギルド会議での態度とあまりにも違うので、一体どうしたのかを尋ねると、ヒカリさんが事情を説明。


 ギルド会議後ログアウトした彼女は、最初は興奮していた為に「なんで私があんな目に!」と考えていたらしいが、少し経って冷静になると学生である俺達を巻き込んだりして「とんでもない事をしてしまった・・・」となってしまったらしい。


 それで自分だけで抱えきれなくなり、親にすべてを話したところ、むちゃくちゃ物凄く怒られたそうだ。未成年巻き込んで情報開示請求も辞さないとか言われたら、そりゃあ親も慌てるわな。


 で、娘がパニック状態になっており、どうしたらわからない状況にあるのを見て、自分達が直接責任者である桐原さんに謝罪を・・・という事になったらしい。


 で、その話の中で、巻き込んでしまった学生の二人、俺と利久りくにもできれば謝罪したいとの要望ももらったんだと。なんなら、殴られた事への慰謝料いしゃりょう等もこちらで用意すると言われたみたいだ。


 俺としては別に怪我したわけじゃないし、利久も理香に怒られてしょんぼり反省中だ。しかも慰謝料なんか発生したら、親も巻き込むことになって今より大事になってしまう。まあ、結果的によくある男同士の喧嘩みたいな事に学校では認識されてるし、俺もこれ以上めるのは嫌だ。


 そういうわけで、俺は団長に慰謝料の件については丁重にお断りした。


「そっかー、まあ真司君がそう言うならあちら側にはそう伝えとく。念の為に聞くけど、病院とかにはかかってない?」


「ありませんよ」


「わかった。あーでも、直接の謝罪はしたいみたいだよ?どうする?」


 直接の謝罪かあ。正直面倒だって思う反面、ヒカリさんがどんな人物か見てみたいという好奇心がある事も否めないんだよなあ。


 何故あそこまで桐菜さんに固執していたのか、何故ブラックアースにヘイトが向いたのか、そしてどういう心境の変化があったのか。


 普通だったら他人のプライバシーと言うか、心の内にずかずか入り込む余地なんてないんだろうけど、少なくとも彼女に振り回された俺と利久には、多少はその権利はあるだろう。


「わかりました。直接の謝罪、受け入れます」


 色々考えた結果、俺は桐原さんにそう答えた。


「オッケー。じゃあ、謝罪の場は僕の方で用意させてもらうよ。真司君の方は日時の要望はある?」


「いえ、学校の時間以外だったら特には」


「わかった。じゃあ決まったら連絡するね。利久君には真司君から伝える?」


「いやあ、あいつあんまり俺と接触しようとしないんで・・・」


「あーそりゃそうか。ちょっと気まずい感じかな」


「そうですね」


「わかった。じゃあ利久君とは日取りも別でセッティングするよ」


「すみません、お手数おかけします」


 そうして俺達とヒカリさんとの間で謝罪の場が設けられる事となった。


 こうしてこの問題のヒカリさんサイド側との問題は解決に進みそうなんだが、この話を里奈りなに黙ってるのはまずいよなあ。黙っててもあいつの先輩経由でバレそうだし・・・。


 そういうわけで、俺はヒカリさんと謝罪を受けるために面会するって事を里奈に話すことに。


「私も行く!」


「ダメだ」


「なんでよ!?」


 案の定、俺の話を聞いた里奈は自分も行く!と言い出した。


「今回は直接の被害を受けた俺と利久への謝罪がメインの話なんだ。お前全然関係ないだろ」


「何言ってんのよ!私だって色々言われたんですけど!」


「いや、お前も散々煽ってただろ・・・」


 こいつ、あの時のギルドチャットでのやり取りもう忘れたのか。向こうもひどかったが、里奈も相当だったぞ。まあ、それも仕方ないとは思うけどね。あの時のヒカリさんの態度には俺も腹がたったからな。とはいえ姉貴を連れて行くのは反対だ。


「それは向こうが先に煽ったからでしょ!」


「そうだな。だから姉貴が悪いとは思ってねーよ」


「だったら・・・」


「向こうとバトルするなら連れて行くよ。でも今回は向こうの謝罪を俺が受けるって話なんだよ。それに団長が一緒だから心配する事はないよ」


 それでも里奈は何か言いたそうだったが、今回は俺への謝罪メインと言う事で、なんとか引いてくれた。


「その代わり事の詳細はきっちり話しなさいよね!」


「わかってるよ」


こうして俺は、ヒカリさんからの謝罪を受ける事が決定した。

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