第二章

第8話 ヨーチューブデビュー

「な、なんだこりゃ!」


 友人の火雷利久からいりくと共に、俺は目の前のPCの画面の中の光景に言葉を失っていた。

 ことのきっかけは、今から2か月前、ブラックアースリニューアルのお知らせを受け取った時までさかのぼる。




リニューアルのお知らせ


平素へいそ弊社へいしゃ「The blackearth online」をご利用いただき誠にありがとうございます。


サービス開始より、長年大勢のプレイヤーに皆様に支えられて参りましたブラックアースですが、今回、月額料金制から基本無料へと形態を変更させて頂きます。

別途利用規約にてご説明いたしますが、有料時に使用できたサービスは、基本無料となりましても、引き続きご利用が可能です。


また、キャラクターデザイン等も、現在の流れに合わせ、若干の仕様変更をさせて頂きます。仕様変更の一部として、これまで、キャラクターの見た目が装備で変わっていましたが、それに加え「ファッション装備」を採用いたします。


これにより、他の方と装備は同じでも、ファッション装備を使用する事で、これまで以上に自分だけのキャラクター作りを行う事が可能となります。


・・・以下略。




 センジンさんが海外へ行くからと、みんなでお別れハントをやったのが2か月くらい前だった。

 そしてその後すぐ、ブラックアースの運営から上記のような発表が行われた。

 ようするに「リニューアル」のお知らせだ。


 ブラックアースは、度々グラフィックボードの進化によるアップデートは行ってたんだけど、最近始まったオンゲーのサービスと比べると、やや古臭い印象はあったんだよね。


 今回一番変わったのは、有料から無料になった事だろう。

 けど、この無料化に当たっては、かなりユーザーの間で不安の声が出ていた。

 普通無料化なら喜ぶとこじゃねーの?って俺も思ってたんだけど、有料で強い武器を売り出したりしたらどうするんだ?って言われて「はっ」となったね。


 ブラックアースは、要塞戦という対人戦も仕様としてあるので、有料で強い武器が売り出されたりしたら、札束の殴り合いのような状況になってしまう。

 しかもこれまでの頑張りが、全部水の泡になる可能性もあるわけで。


 ただ、その心配は単なる杞憂に終わったんだ。


 有料で販売されるのは、ファッション装備という、完全に見た目だけの装備がメインになるとの事だった。

 ファッション装備ってのは、普通は漆黒しっこくの鎧を装備していると、画面のキャラも漆黒の鎧を着ている状態で表示されるんだ。

 けど、例えば「ゴスロリ」のファッション装備を付けていれば、例え装備が漆黒の鎧だったとしても、自分や他のプレイヤーには「ゴスロリファッション」のプレイヤーキャラが表示されるわけだ。


 まあ、どっかのファッションブランドや他メーカーとのタイアップ装備なんかは、完全に「ガチャ」になるらしいが、それは基本無料な以上仕方ないだろう。

 そもそもゲーム性には影響しないしね。


 金の無い、俺ら学生にはあまり縁のないガチャだが、そういう事にお金を使ってくれる人がいるからこそ、無料でゲームが出来るのは、正直ありがたい話だと思っている。


 あと、公式に「ファンキット」が配布され出したのも大きな話題になった。


 ブラックアースは、いわゆるゲーム中に撮影する「スクリーンショット」機能と言うのがある。

 これは、ゲームのイベントなんかでみんなが集まった記念などに、この機能を使ってその時の様子を画像として保存できるシステムだ。

 これまでは、この機能を使って撮影した画像を自分のブログなんかで使っている人が多かったんだけど、運営から正式に「これ使って良いよ」って、ブラックアースのロゴ入り画像や、カッコイイキャラクター達が描かれた画像が配布されたんだ。

 ロゴ入り画像は、主にブログのタイトルや動画配信サイトのマイページに使用されたりしている。


 さて、長々とリニューアルの説明をしてきたが、これには理由がある。

 なんと、俺の友人で、ゲーム内でも同じギルドに所属するライデンこと火雷利久が、


「俺はゲーム実況者になる!」


 と、宣言し、動画配信サイト「ヨーチューブ」に登録。

 そしてマイページを作って、さっき言ったファンキットを利用して、ブログやツイッターを始めてしまったんだ。


 そして、ブラックアースのプレイ動画を動画配信サイトに投稿した。

 その時一緒に狩りしていた俺達に何にも言わずに・・・。

 利久が言うには「後で教えてびっくりさせようと思った」らしい。


 いや、俺は良い。俺は良いんだが、姉貴や燈色はカンカンに怒って、一刻もはやく削除しろと利久にがんがん詰め寄っていた。

 リアルでな。


 実を言うと、俺には少し前に教えてくれたんだ。

 なので、姉貴たちにも許可取った方がいいんじゃねーか?と助言した。

 そしたらすげえ怒られてやんのw


 ブラックアースは撮影OKなので、問題ないと言えば無いんだけど、普通撮影して良いか聞くよな。

 しかもリアル知り合いなのに。


 まあでも、意外とあっさり抵抗する事なく削除する事に利久は同意した。

 と言うのも、自分が思ってたより全く再生回数が伸びなかったらしい。


 あいつの中では、この動画がスマッシュヒットを飛ばして話題になり、利久の動画のチャンネル登録者数もうなぎのぼりで、人気ゲーム実況者の仲間入り!

 という算段だったらしいが、5日粘って再生数が10だった。

 しかも、6回は利久自身w

 あいつ、自分の動画が気になって、何度も動画ページへアクセスしたらしい。設定ページから確認すればいいのに。


 なのでさっき、傷心の利久と共に姉貴たちの目の前で、つーか俺のPCでログインして利久のページの動画を削除にきたわけだが、ここで見た光景に、


「な、なんだこりゃ!?」


 と、冒頭のセリフに繋がるわけだ。


 3日前には再生数10だった動画が、今では何と5000を超えている。

 しかも利久のページを登録している人も300人近くなっていた。


「あんたさっき再生数10とか言ってなかったっけ?」


 この状況に姉貴も驚いて、自分が怒っていたことなど忘れてるようだ。

 そりゃそうだろう。


「い、いや、確かにこの前までは再生数10とかだったんだけど・・・」


「俺も見たからそれは間違いない」


 なんでいきなり再生数が伸びてるんだ?本気でわからんのだけど・・・。

 動画の内容はありきたりで、姉貴や団長たちと一緒に狩りに行ってるだけだ。

 特別なモンスターを倒したとか、そういうわけではない。


「ね、コメント欄見たらわかるんじゃない?」


「あ!それもそうね!利久、早くコメント欄を表示させなさい!」


 燈色の指摘に姉貴も同意し、利久がそれに従いコメント欄を表示させた。


「こ、これは・・・」


 そこには、3日前には無かった、動画を見た人たちの感想が書かれていた。


ゲスト:エリナさんとライデンさんのやりとりが面白かったですw


ゲスト:ヒーラーの人凄い!回復余裕じゃん!


ゲスト:MPに相当余裕ありそうな感じするな。装備よかったら教えて欲しい


ゲスト:エリナたんのどSっぷりに萌え


ゲスト:エリナさん、僕も叱ってください><


ゲスト:団長って名前なのかwww


 利久の動画ページであるにも関わらず、大半が姉貴へのコメントであふれていた。

 これはまじですげえわ。


「エリナさん凄い・・・」


「え?え?何これ?」


「俺のページなのに・・・」


 素直に姉貴に感心している燈色と、困惑する姉貴。そして不機嫌になっていく利久。


 あと、やけに3分15秒を連呼してるやつがいるので再生してみたら・・・。


エリナ「ライデン!あんたなんで人の言う事聞かないのよ!前に出すぎるなって言ってるでしょ?馬鹿なの?」


 などと、いつもの姉貴の辛辣なセリフが収録されていた。

 ほかの場面は、利久が止めをさすような映像で編集されているんだが、どうも自分が怒らてる場面をカットするのを忘れていたらしい。


 なので、要は姉貴の回復スキルと利久に対するドSっぷりが、動画の人気の原動力となっているみたいだ。


 え?俺?


ゲスト:ダークマスターって、どんだけダークをマスターするんだよwww


 このセリフを下の方で見つけてしまって気分が滅入っています。

 なんで名前変更の仕様は来なかったんだ・・・。


「ま、まあ、私達に言わなかったのは問題だけど、今回は許してあげるわ!」


「・・・は?」


「だーかーら!別に削除しなくてもいいわよ!って言ってるの!」


 しばらくすると、姉貴から一方的に許す宣言が発令された。

 そして利久は、なんとも納得いかない表情で「おかしいなあ」等とつぶやいていた。


 あれだ。姉貴の奴、勝手に動画にされてマジ切れしてたけど、コメント欄ですげえ褒められたんで、削除するのが惜しくなったんだろう。

 現金な奴め。


 利久も利久で、再生数の伸びない自分のチャンネルなんてどうでも良いって感じだったが、理由はどうあれ、それなりの再生数が稼げた事実からは目を背けることが出来なかったらしい。

 姉貴が原因で再生数が伸びている事には納得がいかないものの、再生数が伸びている事は、素直に嬉しいようだ。

 

とりあえず、姉貴からの許可ももらった火雷利久の、人気ゲーム実況者への道が始まった。


 これから利久のチャンネルがどうなっていくのか、俺にも全く想像がつかねえ。

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