第1話 いつもの風景・・・?

千隼ちはや「ライデン君、今の場面ではモンスターの死角に回り込んで攻撃するのが良かったかも」


ライデン「あ、そっかー!」


ダーク「まあ、意識してやっていれば、そのうち体が覚えてくれるよ」


ライデン「おう!」


 今日も俺達はいつものメンバーで狩場へと来ていた。

 千隼さん、ライデン、俺の3人で。


 え?姉貴と燈色ひいろ?それいつものメンバーじゃなくね、って?

 いやいつものメンバーだぞ。

 少なくともこの1週間は・・・。


千隼「ねえ、ダーク君」


ダーク「なんでしょう?」


千隼「エリナちゃんは、まだログインしたくない感じ?」


ダーク「あーうん、そうですねえ。たぶん師匠は、自分でもどうしたいのかわかって無いと思います」


千隼「そっかー」


 ここで俺が言ってる「師匠」ってのは、俺の姉貴である里奈りな(ゲーム名エリナ)の事ね。

 ギルドメンバーには一部を除いて、俺とエリナが姉弟ってのは内緒にしてるからね。

 だから便宜上、俺は姉貴を師匠って呼んでるんだ。


千隼「センジンさんも、ずっとログインしてないしね・・・」


ダーク「そうですね・・・」


千隼「燈色ちゃんは?」


ダーク「あいつは師匠がログインしないもんだから、なんかイマイチやる気が出ないみたい」


千隼「あー、仲良いからねあの二人」


 まあ、実を言えば、燈色は毎晩無料の通話アプリ「スカイポ」で、姉貴の愚痴を聞く役目を担ってくれている。まあ俺も一緒になんだけど。

 

「毎日スカイポしなくても大丈夫だよ」


 とは言ったんだが、


「いえ、里奈さんもあれはショックだったと思うから」


 と言って、毎晩里奈の愚痴を聞いてくれている。


千隼「それにしても困った事になったわねえ」


ダーク「本当に・・・」


ライデン「いやあ、あの時の事は今考えても冷や汗が出てくるぜ」


ダーク「お前でもか!?」


ライデン「どういう意味だよ!」


ダーク「冗談だよ冗談」


 とは言え、姉貴がログインしなくなった出来事、それはもうその場が重苦しい・・・というより、皆がどう対応していいかわからない空気になったらしい。

 らしいというのは、俺がその場に居合わせていなかったからだ。


 「自由同盟オフ会@センジンを囲む会」に・・・。


 実はオフ会当日、俺は風邪をひいてしまった。

 熱は37度程と、それほどでも無かったんだけど、親から外出禁止令を言い渡されてしまった。

 正確に言うと、出かけたいと言えない空気にさせられてしまった。


「行ってもいいけど、あんたの友達に風邪とかうつっちゃってもお母さん知らないからね」


 こんな事を言われて平気で出かける事が出来るほど、俺の心臓は強くねー。

 あと、里奈からも馬鹿にされてしまった。


「よりによってこんなタイミングで風邪とかwwwあんた馬鹿じゃないの?www」


 かあああああああっ!

 チャットだったら、絶対草をはやしまくってるような言い方がマジでむかつくぜ!


 ・・・・・・。


 まあとにかく、俺はその日のオフ会に参加できなかったので、これは後で全部千隼さんや燈色から聞いた話となる。

 あとついでに利久からも。


 オフ会当日、やはり前回のオフ会と同じく「カラオケハウス」での会となった。

 で、姉貴を始め、ほとんど全員が揃っていたんだけど、肝心の主役であるセンジンさんがちょっと遅れるという事で、各々歌を歌ったり、気の合うやつ同士話し込んだりしてたんだと。

 もちろん利久の奴は、性懲りもなく桐菜きりな(千隼)さんにアタックして里奈から鉄拳を食らってたようだ。

 無理やり桐菜さんから引き離されて、里奈の横に座らされたらしい。

 もちろん利久は理不尽だと抗議したらしいが、


「私の横で何が不満なのよ?」


 と言われて、黙るしか無かったとか。

 ホントあいつも懲りないよね。

 妹の利香りかが参加していなくてホント良かったと思うわ。

 兄貴のそんな情けない所見ちゃったら、最近ゆるやかではあるけど上がってたお兄ちゃんの株が、ストップ安になる所だったぜ。


 利香の奴は、ゲーム内での自キャラを兄貴にばらしてないので、オフ会に参加する事で、その事がばれる可能性を考慮して、参加を取りやめた。

 まだしばらくは、利久に自分のキャラを言うつもりは無いらしい。


「こんばんは!ちょっと遅れちゃった!」


 そんなこんなで、 いつものメンバーで楽しく過ごしていた時、ついにセンジンさんが到着。


「おお、センジンさん待ってたよ!」


 団長が早速迎えに行く。


「すみません、ちょっと書類の整理が終わらなくて・・・」


「だいじょぶだいじょぶ。えーこほん。じゃあみんな紹介するね。さあ、センジンさん自己紹介どうぞー」


「えー、紹介するって言っておいて、僕が自分でするんですか?」


「細かい事を気にしない気にしない。でははりきってどーぞー」


「ええ、なんか理不尽だなあwまあいいけど」


 そう言ってから、皆の方に向き直って改めて挨拶をするセンジンさん。


「ええ、まあもう皆もわかってると思いますけど、センジンこと谷崎千尋たにさきちひろです。千尋はちひろと読みますが、そこからセンジンという名前をつけまぐっ!・・・」


「つけまぐ?」


 急にんだセンジンさんに団長が鋭く突っ込むが、センジンさんからの反応は無し。

 と言うか、一点を見つめて固まっていたらしい。

 皆がセンジンさんの視線の先に目をやると、そこには俺の姉である黒部里奈がいた。

 

 目を見開いて、口をあんぐりと開けて、人差し指をセンジンさんに向けている里奈が。


「谷崎先生なんでここに・・・って!センジンさん!?」


「く、黒部君こそ、なんでここに君が・・・?」


 そんなやりとりをして、再び固まってしまう二人。


「えっと、二人はもしかして知り合いなのかな?あのねセンジンさん、里奈ちゃんはね、エリナちゃんなんだよ」


「・・・・え!?」


 そして里奈と同じように目を見開いて、再び固まってしまうセンジンさん。


「えっと、里奈ちゃん?千尋さん?」


 固まったまま動かなくなった二人を見て、団長が二人に声を掛ける。


「え?あ、はい。センジンさんは私の大学の谷崎先生・・・みたいです・・・」


 団長の「知り合いなの?」という問いに対して里奈がなんとか答える。


「あ、そうなんだー・・・あ・・・」


 そして団長は、ここでとあるゲーム内での会話を思い出したらしい。

 それはちょっと前の自由同盟でのギルドチャットでの会話だった。

 その日は自由同盟ギルドメンバーのIN率が非常に高く、センジンさんも珍しくログインしていた。


団長「センジンさんがINなんて珍しいね!」


センジン「すみません、中々ログインできなくて・・・」


団長「いやいや、それは個人の都合もあるし問題ないよ!」


エリナ「そうよセンジンさん。私も最近IN率が低くて・・・」


センジン「あれ?そうなんだ?」


エリナ「頭のかったーい先生が居て、なかなか作業が進まなくて・・・><」


センジン「あーわかるわかる。僕の場合は学生なんだけど、若いのに頭カチカチの子がいてねえ」


エリナ「うわー、大変そう」


センジン「もっと柔軟な思考回路を持ってくれよって毎回思っちゃうよ」


エリナ「わかります!なんで固定観念にあんなに囚われてるのか意味わかりませんよね!」


センジン「そうそう!」


団長「君ら仲いいなw」


 これがその会話の内容だ。

 つまりだ。姉貴の言う「頭の固い先生」とは「センジン」さんのことで、センジンさんの言う「頭カチカチの子」というのは姉貴の事だ。


 センジンさんはエリナへの不満を、姉貴はセンジンさんへの不満を、知らなかったとは言え、それぞれ本人に面と向かって言っていたわけだ。

 しかも姉貴とセンジンさんが一緒になった時は、こう言った愚痴大会は毎回だったわけで・・・。


 もちろん団長がその事に気付いたんだから、当の本人達もとっくに自分達がやっていた愚痴大会の真の意味に気付いた事だろう。


 その後、いたたまれなくなった二人は、まずはセンジンさん、そして里奈の順で帰ったらしい。

 さすがの団長も引き留める勇気はなく、「あ、うん。気を付けてね・・・」というのが精いっぱいだったとか。


 いやあ、他人事ながら考えただけで冷や汗が出てくるぜ・・・。

 まさかさ、里奈の奴が晩飯時とかに時々愚痴ってた先生が、まさかセンジンさんだとは思いもしないよな。


 どうすりゃいいんだこれ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る