第32話 エピローグ

「次!範囲攻撃来るから、範囲外に一時退避して!」


 里奈の指示が、深淵しんえんの森のダンジョン地下3階に響き渡った。今日は、俺と燈色ひいろ千隼ちはやさん、そして姉貴であるエリナの4人で、深淵ダンジョンのボス攻略に来ていた。


 千隼さんは本職のヒーラーではなく、以前作った武術家で参加。じゃないと、ボスとまともに斬り合うのが俺だけになってしまうからね。


 今回のメンバーは、みんなスカイポIDを知ってる人たちばかりなので、通話しながらボス狩りをしている。やっぱ音声での指示を聞きながらのプレイは楽だな。


 それにしても、こうやって皆で集まってボス狩りするなんて、結構久しぶりな感じがする。最近は要塞戦がメインになっていて、レベル上げをメインに遊んでたからなあ。


 つい先日も、ブラックアウトとの大規模な要塞戦を行ってきたんだ。あれは、お兄ちゃん大好き!と合同で攻めたんだ。結局負けてしまったけど、面白かったよ。


 で、そんな話をある日のギルドチャットで、久々にログインしてきたセンジンさんに話してたんだ。


「僕が居なかった間に、色んな事があったんだねえ」


グラマンがギルドを作った事、自由同盟とBMAで同盟を組んだこと、グラマンが実は女の子で桜マスターと名前を変えた事など、色々エリナがセンジンさんに話していた。


 センジンさんは、その場に居れなかった事がすごく残念そうにしてたな。 考えてみれば、ここ最近色んな事が起きまくりだった。充実していたかどうかはわからんけど、密度の濃い日々だったとは思う。


 そういえば、結局千隼さんがシャイニングマスターを使ったのは、ブラックアウトとの要塞戦だけだった。あの後、色んな人から問い合わせのメッセージが届いたらしく、もう面倒臭いと言って、あれっきりキャラを起動させていない。


 シャイニングマスターが復活した事で、めちゃくちゃ喜んでた黒乃さんは、それを聞いてそりゃあがっかりしていた。エバーラングも、レベル100目前で、面倒くさいと放置できる千隼さんにびっくりしていたな。


 でも俺は、普段レベルにはあまり執着していない千隼さんの事だから、あまり驚きは無かった。もったいないな~とは思ったけどね。


 ただ利香だけは、シャイニングマスターレベル100達成&復帰に向けて、全く諦めて無いようだ。けど、千隼さんの性格からして、僧侶が本当に気に入ってるようなので、復活はしばらく無いと思う。


 利香で思い出したが、利香の兄貴の利久が、この前のブラックアウト戦を間近で見て色々と思う事があったらしく、最近は真面目にレベル上げに勤しんでいる。ビッグマウスは相変わらずだが。


 最近のお兄ちゃんマジでカッコいいんです!と、目をきらきらさせながら語る利香に、若干引きながら、そういえば最近レベルもガンガン上がってきていて、このままだと俺が追い抜かれてしまうんじゃないかと、少し不安になったりもした。


センジン「はあ、聞けば聞くほど、その場に居れなかったことが残念で仕方ない出来事ばかりだよ」


千隼「仕方ないよ~。大学の講師の仕事が忙しかったんでしょ?」


センジン「講師って言うか助教だけどね。お世話になってる教授の人使いが荒くてさあ、参っちゃうよ」


エリナ「あーわかりますそれ!私も反りが合わない講師が居て、いつもイライラしますもん!」


 なんか、姉貴とセンジンさんで、大学あるあるトークが始まってしまった。でも、考えてみればセンジンさん、自由同盟での大きなイベントには、あまり参加出来て無いんだよね。それはちょっとかわいそうな気はする。


団長「よし決めた!」


 俺がそんな事を考えながら、単騎でレベル上げをやっていると、団長が突然そんな事を言い出した。


ダーク「なんですか突然」


団長「いやさあ、センジンさん、ずっと自由同盟のメインイベントに参加出来なかったじゃない?」


センジン「そうですね・・。すみません・・・」


団長「いやいやいや、怒ってるわけじゃないよ?」


エリナ「じゃあ何?」


団長「センジンさんを囲む会と言う名のオフ会を開催したいと思う!」


センジン「え?なんですそれ?」


団長「だってセンジンさん、うちのギルドでも、かなりの古参メンバーなのに、仕事忙しくてあまりイベントに参加できないでしょ?」


センジン「すみません・・・」


団長「いやいや、怒ってるんじゃないってばwいつもは皆の都合に合わせてるけど、今回はセンジンさんの都合に合わせようと思ったんだよ」


センジン「え?それは悪いですよ!」


エリナ「えー!いいじゃないですか!」


千隼「そうだよ~。それにみんな理由はともかく、集まって騒ぎたいだけだしねw」


センジン「そっかあ。ん~、じゃあお願いしようかな・・・」


団長「よし決まりね!じゃあ今度都合の良い日を教えてよ。それで予定組むから」


 そういうわけで、トントン拍子に自由同盟の2回目のオフィシャルオフ会の開催が決定した。そういや、一回目のオフ会は、センジンさん仕事の都合で来れなかったんだよなあ。あの時は、明海さんがいきなり俺の名前をばらしたりして散々だったんだよ。なんか色々思い出して来たぜ・・・。


センジン「そういや前回のオフ会では、名前を伏せて参加だったんでしょ?」


団長「そうそう。自己紹介するまで、僕以外は誰が誰かわからないのw」


センジン「いいなあ、楽しそうだなあ」


アッキー「まあ、いきなり名前バレしちゃったダーク君もいるけどねw」


ダーク「あんたが言うなあああああああああああああああああっ!」


千隼「あれは笑っちゃったよねw」


燈色「あれは爆笑ものでした」


 ぐっ、燈色まで・・・。まあ今回は名前を伏せるようなこともしないだろうし、師匠が実は姉貴だったみたいな事もないわけで、楽しいオフ会になりそうだ。前回はとてもじゃないが「楽しい」とは言えなかったからなあ。今となっては懐かしいとか思えるけどね。


エリナ「ねえ、グラマンもオフ会に誘ってみたら?」


 姉貴が突然そんな事を言い出した。まあ、以前もグラマンがオフ会に来るって聞いたら、ぜひ会ってみたいと乗り気だったしな。


燈色「私もお会いしてみたいです」


 姉貴の意見に燈色も賛同する。こいつもグラマンには興味津々だったもんな。


団長「それはいいんだけど、桜ちゃんオフ会に来るかなあ。凄く人見知りなんだよね」


エリナ「そうなの?グラマンの感じからすると信じられないんだけど・・・」


団長「あれはロールプレイだからね。本人の性格はグラマンとは正反対だよー」


エリナ「それを聞いたら、ますます会ってみたくなったわ」


団長「あはは。じゃあ一応声を掛けておくよ。じゃあ桜ちゃん誘うなら、お兄ちゃんLOVEさんも誘おうか」


 あーいいかも。あいつよろこぶはず・・・・あっ!


ダーク「団長!お兄ちゃんLOVEさんには俺が聞いときますよ!」


団長「うん?あそう?じゃあお願いしようかな」


 危ねえ危ねえ。自由同盟のオフ会って事は利久の奴も参加するわけで、利久はお兄ちゃんLOVEが自分の妹だって事知らないんだよな。なんかまだ、兄貴には言いたくないっぽいし。


 まあ、そんな感じで「第二回 自由同盟オフ会」の開催が決定したわけだ。


 あ、利香には俺から一応声を掛けておいた。あいつからの返事は「ちょっと考えさせて><」だった。まあ、あれだけ兄からナンパされて、実は妹でしたーってカミングアウトするのは勇気がいるよな。


 オフ会開催が決まった時、ゲームにログインしていなかった兄の利久に聞いたら「行く行く絶対行く!」って超乗り気だった。また暴走しなければいいが・・・。


「ちょっとダーク!なにぼけっとしてんのよ!」


 ゲームしながら考え事してたら里奈から怒られた。


「すんません師匠。考え事してました」


「はあ、大した実力も無いのによく余裕あるわね・・・」


 かああああああ!まじで腹立つなこの女!だが事実なので、反論できないのが悔しい!


「里奈ちゃん、ゲーム内のとは言え彼氏なんだから、もうちょっと優しくしてあげなよ~」


 女神千隼さんから、ありがたいお言葉が姉貴に投げかけられる。そうだぞ!こいつはもうちょっと俺に優しくすべきだ!


「千隼さん、里奈さんはツンデレなので、今のが愛情表現なんだと思います」


「そうなの里奈ちゃん?」


「違うわよ!燈色あんた何言ってんのよ!」


 明らかに燈色はからかってるんだから、簡単に乗って来るなよ姉貴・・・。そして女3人でワイワイと話し始める。話題は次回のオフ会の事だ。やっぱりみんなも楽しみにしているらしい。


 来るかどうかはわからないけど、実明さん、利久、利香、それにセンジンさんという、前回参加出来なかった面子もそろったら、かなり賑やかな事になるんじゃないかな。


「ちょっとダーク、あんた何黙ってんのよ。これだからむっつりは・・・」


「ちょ!師匠!」


「先輩はむっつりでしたか・・・」


「真司君・・・。そうだったのね・・・」


「違うわ!今度のオフ会楽しみだな~とか考えてただけだ!」


「なら、あんたも会話に参加しなさいよ!」


「へいへい」


 自由同盟オフ会か。前回は色んな事がありすぎてあれだったけど、今となっては良い思い出となっている。今回のオフ会もそんな楽しいイベントになると良いなと思う。


「よーっし!じゃあ狩り再開しましょうか!」


「おー!」


 里奈の掛け声で、俺たち4人は再び深淵の森のダンジョン探索を再開した。

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