第三章 過去との決別
第20話 行き詰ってる?
最近の自由同盟のチャットは、いつもの賑やかなチャットとはかけ離れた、暗めの雰囲気になる事が多い。
理由は簡単で、ここの所、お兄ちゃん大好き!との要塞戦に連戦連敗だったからだ。
いやそもそも、出来たばかりの俺らの同盟が、中堅から抜け出ようとしている向こうのギルドにそう簡単に勝てるわけがないのはわかってるんだ。
けどさ、やっぱこう、目に見える形での成果は欲しいだろ?それがこうも結果が見えてこないと、そりゃあモチベーションも下がるわけよ。
「そんな簡単に勝てるわけないよ~。でも、ちゃんとみんな成長してるとは思うよ」
我がギルドの女神である
俺は姉貴達ほど落ち込んでは居ないけど、ご褒美的な物もたまには欲しいよなとは思う。
ちなみに、お兄ちゃんLOVEこと、火雷利香に俺たちの強さみたいなものを聞いてみたんだ。そしたらさ
「以前に比べたら、まとまりもよくなったし、火力も上がった気がします」
こう言ってたから、やっぱ成長はしてるんだと思う。とは言っても、やはり目に見える形での成果に勝るものは無いと思うんだよね。
なので、今日は千隼さんの中の人である
「そういうわけで、何かしら、目に見える形での成果が欲しいと思うんですよね」
「んー、でも、目に見える形での要塞戦の成果って言うと、限られた物しか無いと思うよ?」
俺の言葉に桐菜さんがそう返す。そうなんだよな。目に見える形での成果っつーと
「門を突破して要塞内に入り込んだ」
とか、
「要塞をゲットした」
とかになるんだと思う。
だけど実際問題、要塞を落とすのはもちろん、現状では門を突破するのさえ難しいだろうと思う。
お兄ちゃん大好き!、ようするに利香のギルドだけど、俺が思ってたより全然強い。何度か攻めれば一度くらいは落とせるだろうとか思ってたのは、正直甘かったと言わざるを得ない。
二人でうーんと唸っていると、桐菜さんの音声に、スカイポの着信メロディーが流れる。誰だよ、俺と桐菜さんの二人きりの会話を邪魔する奴はあああああ!
「実明ちゃんから連絡来たんだけど、こっちの通話に混ざってもいいよね?」
「どーぞどーぞ」
いや別にね?相手が利久でも俺はOKって言ったよ?ホントだよ?
「あの、私が参加してもよろしかったんでしょうか?」
しばらくすると、実明さんの声がヘッドセットから聞こえて来た。彼女の声を聴いたのは、団長宅で会話して以来だったかな。
「あ、お久しぶりです。全然構いませんよ!」
と言うか、ウェルカムですよ!
「あのね実明ちゃん、実は真司君と、要塞戦のモチベーションをどうやったら上げれるかな~って話してたの」
桐菜さんは、一生懸命戦っているが結果が伴ってない為、自由同盟のギルド員達のやる気が下がってる事や、それについての解決策を話し合っていた事などを、実明さんに説明していた。そして、一通り話を聞いた実明さんは、BMAの事について話し始めた。
「実はBMAも同じような症状が出てまして・・・」
「え?そうなの?」
実明さんによれば、BMAは自由同盟と違い、そもそも要塞戦を戦う事を目的に集まった新人が多い為、中々勝てない状況に、ちらほら離脱者が出だしていると言う。
一応、いつものグラマンのノリで、ギルドを盛り上げようとはしてるみたいなんだけどね。
「それは・・・よろしくない状況だなあ・・・」
「そうなんです。でもどうして良いかわからなくて・・・」
自由同盟のメンバーも反応は様々だ。
まず、千隼さんは要塞戦とはこんなものだとわかってるので問題なし。俺と団長と明海さんは、割と色々楽しみたい派なので、要塞戦で上手くいかなかったからといって、特に落ち込んだりはしない。利久の奴はよくわかっていないので無問題。
問題なのは里奈と燈色だろう。この二人は、やると決めたらとことんやってしまうので、上手くいってないように感じると、そりゃもうストレスMAXになるようだ。
実際、ゲームの目的の8割は、要塞戦になってるんじゃないかなあと思う時がある。燈色なんか、最近一緒に飯をくうのは、要塞戦の後くらいになっちゃうほど、要塞戦にのめり込んでるように見える。
「シャイニングナイトの初期には、こういう事って無かったの?」
俺は、ベテランの桐菜さんに聞いてみることにした。未経験の事は先輩方に聞いてみるのが一番早いだろう。
「ごめん、うちは初期から要塞所持しちゃったから、今みたいな状況なかったのよね」
まあ、桐菜さんがわかってたら解決策とっくにだしてるだろうしね・・・。
「よし!今度お兄ちゃんLOVEとかに聞いてみる。あの人らも最近名を上げて来た人たちだから、似たような経験してるかもしれんし」
利香のギルドの勢いが出て来たのは、つい最近の事だって言うからな。それなら、下積みのような期間も長かった可能性がある。
ブラックアウトにも聞こうかと思ったけど、あそこはシャイニングナイトよりもさらに以前から要塞所持してるからなあ。と言うか、俺の交友範囲せまっ!
と、ここまで話していて、実明さんが本来は桐菜さんにスカイポのコールをしていた事に気が付いた。
「そういえば実明さん、桐菜さんに用事あったんじゃないの?」
「あ、いえ、大した用じゃなかったので・・・」
「あら、なんなら今からでも話聞くけど?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
最後に、俺のスカイポIDを登録しても良いかを確認して、実明さんはログアウトしていった。
「最近あの子、様子が変なのよね」
実明さんが退出したのを待っていたかのように桐菜さんが話し出す。実はそれ俺も思ってた。
「この前、各ギルドとの親睦会を開いたじゃない?あれから特に様子が変なのよ」
何か気付いたことない?と、桐菜さんから質問されたが、とくに実明さんの様子に変わった点は見受けられなかったと思うんだけど・・・。
あの親睦会では、利久が利香に執拗なナンパを仕掛けていたくらいしか目立った事は無かったと思う。。それを見た、グラマン含むみんながドン引きしてたのは、記憶に新しい所だ。
「特に変わったところは無かったと思うけど・・・」
「そう。まあ、何か思い当たる事があったら教えてね」
そう言われて、その日の会議は終了した。
***************
会議後、俺は桐菜さん達との通信を終えると同時に、利香のスカイポへと繋いでいた。
「どしたの?」
「悪いな急に。今大丈夫か?」
「大丈夫だよ。さっき狩りから帰って来たから」
タイミング的にも良かったみたいなので、俺は早速利香に、現在のギルドの状況を説明し、何か良い解決策が無いか相談してみた。
「ようするに行き
「ああ、言葉にするとそれが一番しっくりくるかも!」
俺達の現状は、何をやってもうまく行かないように思えてしまっている。で、それでモンモンとしてるんだよな。
「だったら、気分転換とかしてみたらどうですか?」
「気分転換?」
「そう、気分転換」
利香が言うには、自分たちも経験があるそうだが、いつも毎回同じことで上手くいかないと、段々と気分が滅入って来る。なので、いつもとは違う事をやってみるのはどうかと言う事だった。
「例えばどんな事をやればいいと思う?」
「そうね。いつも私達とばかり要塞戦をやってる事が原因なら、違う場所を攻めてみたりとか?」
「違う場所か・・・」
しかしこれは相当難しい話だぞ。と言うのが、今現在、サーバーに存在する要塞は全部で6。で、コボルト要塞以外は、すでに大手のギルドが所持している。
その中でも「お兄ちゃん大好き!」は中堅に入ると思うが、それでも俺たちは一度も勝ったことが無い。それはつまり、他の要塞はもっと難易度が高いと言う事だ。
別に必ず勝たなければいけないと言う事は無いんだけど、今回に限っては、出来れば「勝利」を、最低でも良い戦いを実感したい。
「コボルト要塞で良いじゃないですか」
「う、うーん」
「実際、以前はコボルトでも苦戦してたんでしょ?」
そうなんだよな。本格的に始める前に、コボルト要塞戦に参加してたんだけど、かなり苦戦させられた上に、勝ったことは一度も無い。なら、コボルト要塞で、俺たちの実力が以前と比べて一体どうなってるのかを確認するのも悪くないか・・・。
「わかった。一度提案してみる。ありがとな利香」
「自由同盟には、もっと強くなってもらわないと困りますからね」
「ははっ、頑張るよ」
利香からのありがたい助言を受け、俺は自由同盟のリーダーである「団長」に話をしてみることにした。
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