第19話 未来の幹部候補(自称)

「まったくおまえのせいで酷い目にあったぜ」


 昼休みに俺にぼやいているのは、俺の友人である火雷利久からいりくだ。ぼやきの内容は、昨日の親睦会での件。


「せっかく俺が素晴らしいスピーチを考えてたのに、お前のせいで全部おじゃんだよ」


「あほかお前!全部自分の事しか言って無かったじゃねーか!」


 後でこいつのスピーチのノートを見せてもらったんだが、そりゃもう自画自賛しまくりの内容で、途中で「もういい」って読むのやめた程だ。どうやったらあれだけ「自分上げ」出来るのか、こいつの脳の中を一度見てみたいわ。


「だってあれ、俺のキャラクターの各ギルドへのお披露目会じゃん?だったら自己アピールするだろ」


「は?」


「?」


「なんでお前のお披露目しなきゃならんわけ?」


「え?だって未来の幹部候補って事であの場に呼ばれたんじゃないの?」


 あー!そういえば、「これって、俺が将来の幹部候補ってことじゃね!?」とか、親睦会前に息巻いてたな。というか、あれが本気発言だとは全く思ってなかったわ!


「それだったら、桐菜さんとか俺の姉貴が呼ばれるはずだろうが」


「そこは将来を見据えて団長が呼んだんだろ」


「あ、もういいです」


 こいつのポジティブすぎる話を聞いていると頭が痛くなってきたので、俺は弁当を取り出し食べてしまう事にした。最近は要塞戦の後に、反省会も含めて燈色とは飯を食ってるので、今日は教室飯だ。


「おい、真司!お客さん!」


 俺が弁当袋を開けようとしていた所だった。クラスメイトの一人から、急に名前を呼ばれたんで、そいつの方を振り向くと、利久の妹「火雷利香からいりか」が立っていた。


「おい誰だよあの美人!」

「なんで真司が呼ばれてんの?」

「え?いつも一緒に飯食ってる子じゃなくて?」

「なんであいつだけ、ぐぬぬぬぬ!」


 等と、教室のいたるところから勝手な声が聞こえてくる。と言うか、俺に何の用なのか、俺自身が知りたいくらいなんだけど?しかし一番動揺していたのは俺じゃ無かった。


「なんで妹がお前に用事あんの!?」


 利久は立ち上がり、俺の胸ぐらを掴みながら俺に迫って来る。


「し、知らねーよ!」


「お前妹に手え出してたのか!?」


「ちょ!ちがっ、そんなわk・・ぐええええっ」


「お兄ちゃんには関係ないでしょ!?」


 凛とした声が教室内に響き渡る。気が付くと利香が俺と利久のすぐ側まで来ており、利久の頭を引っ叩いていた。それにしても最近胸ぐらを掴まれることが多い気がする。


「な、何するんだよ!」


「私は真司先輩に用があって来たの。お兄ちゃんは関係ありません!」


 利久にそう言うと、今度は俺の方に話しかけて来た。


「先輩申し訳ないんですけど、昼休み、お時間もらえますか?」


「あ、うん。いいよ」


 俺の返事を聞くと、俺の弁当を手に持ち俺の腕を引っ張って屋上へとやってきた。


「昨日はごめん!」


 屋上に着くなり謝って来る利香。俺はわけがわからず、えなんで?とか聞いてたんだが。


「だって、昨日親睦会だってのに、お兄ちゃん自分勝手な事ばかりやって周りに気を使わせてばっかりだったし・・・。私も、ついカッとなってあの場所を出ちゃったし・・・、姉弟で迷惑かけちゃったなあって・・・」


「お前の場合は仕方ないだろ。むしろあそこまでよく我慢したわ。こっちこそ悪かったな」


「おかげでお兄ちゃんがどんな人かを、現実的な目で見ることが出来たので結果オーライです」


「そ、そっか」


 お兄ちゃんと仲良くなりたいって思ってた矢先で、兄のあんな場面見ちゃったらなあ。そりゃあ、1万年と2千年のお兄ちゃんへの憧れも冷めるだろう。


「でもさ、あいつ勘違いしてたみたいだから、自分勝手を意識してやったわけじゃないみたいだぞ」


「どういう事?」


「なんかね、俺もさっき知ったんだけど、あいつ、自分のお披露目会と思ってたらしい」


「・・・は?」


 さっきの俺と全く同じリアクションを取る利香。


「えっと、親睦会って伝えてなかったの?」


「ちゃんと伝えてたよ。でもね、


親睦会やる


幹部ばかりなのに何故か俺呼ばれた


はっ!もしかして未来の幹部候補の俺を紹介?


これたぶん俺のお披露目会!


って感じになったんじゃねーかな」


 それを聞いた利香は、顔を真っ赤にして両手で隠してこう言った。


「お兄ちゃん、馬鹿だ・・・」


 それに対し、俺は返事をすることは出来なかったので、そのまま飯を食う事にした。まあ利香とは要塞戦の話とかで、それなりに盛り上がったよ。


***********


「ふーん、まあ、あいつがやりそうな事ではあるわねえ」


 その夜、俺は里奈の部屋で、昨日の件についてのご報告を姉貴へ行っていた。昨日こいつは、どうしても外せない用事とかで、ゲームにログイン出来なかったんだ。


「いきなり利久が、自分絶賛演説を始めた時は、部屋の中が静かになったからなあ」


「まあでも、あの妹も、兄貴への執着とか無くなったんなら、良かったじゃない」


「だな」


 何故か俺まで被害を受けてたしな!もちろんあれ以来、利香からの嫌がらせは無い。久々に平穏な学校生活を送れている。


 とにかく、何が何でもお兄ちゃんと一緒にブラックアースで遊びたい!と決意した少女の夢は儚く消えてしまったわけだが、まあ結果オーライだろ。


ピロリン


 姉貴の携帯からラインのメッセージ音が鳴る。


「あ、一条さんからだ」


「え?一条さんて、パソコンショップツクネの一条さん?」


「そそ」


 一条美琴さん、姉貴がゲーミングパソコンを購入したショップ「ツクネ」の店員さんだ。てか、こいついつのまにライン交換とかしてたんだ?


「あのお姉さんと連絡とりあってたの?」


「そそ、わからない事があったら連絡してねって言われてね」


「へえ」


 一条さんと言えば、俺と里奈のブラックアースでのキャラクター名を知った時、すげえ動揺してたんだよなあ。たぶんあれ、俺たちの事知ってるんだと思うんだけど、あの時は聞けなかったんだよ。


「なあ、一条さん、ブラックアースやってるって言ってたじゃん?」


「うん」


「お前、ラインでキャラクター名とか聞いてねーの?」


「それがさあ、秘密ですって言って、教えてくれないのよね」


 教えてくれないって事は、知られちゃまずいって事か?俺の知り合いで、ばれちゃまずい人って居たっけか?お兄ちゃんLOVEなら、名前が恥ずかしいとか、理由がありそうだが、中の人=利香って判明してるしなあ。


「何難しい顔してんのよ」


「いや、なんで知られたく無いんだろうなって思ってさ」


「恥ずかしいんじゃないの?」


「いや、自分からカシオペアサーバーでプレイしてるって言っといて、恥ずかしいって意味わからんぞ」


「うーん、そんな事言われてもわかんないわよ!なんでそんなに執着するの・・・あ!もしかして一条さんの事狙ってるわけ?いやらしい!」


「ちょ!違うわ!勘違いすんな!」


 なんでそんな結論になるのか全く意味がわからん。しかもなんか不機嫌になってるし・・・。ここは大人しく部屋に戻ってゲームでもするか。




黒乃水言くろのみこと:ダーク君、ちょっといいかな?


 俺がゲームにログインして、市場で良い装備が無いか物色していると、黒乃さんからショートメッセージが届いた。


ダークマスター:大丈夫ですよ。何かありましたか?


黒乃水言:いや、ちょっとだけ時間をもらえないかと思ってな。最近、あまり話も出来て無いし


ダークマスター:ああ、そういえばそうですね。


 そういうわけで、ちょっと話したい事があるという黒乃さんの誘いを受け、ローザ要塞の会議室に俺は来ている。さすがに何度も来ただけあって、迷子になる事は無かったよ。


 しかし黒乃さん、最近なんか避けられてた気がしたから、それについて何か聞かせてもらえるんだろうか?それとも俺の気のせい?


黒乃「久しぶりだなダーク君」


ダーク「ご無沙汰してます」


 まあ掛けたまえという黒乃さんの言葉に甘え、会議室の手近な椅子に腰かける。


黒乃「要塞戦のほうはどうだ?少しは慣れて来たか?」


ダーク「慣れて来たというか、前よりはマシになったという感じですかね。戦えば戦う程、相手の本当の強さみたいなのも見えてきて、以前よりも実力の差を感じたりしてます」


黒乃「最初はそんなもんだよ。そしてある日突然、全体としてのまとまりや強さが覚醒したりするんだ」


ダーク「へえ・・・」


 確かに、時々「え?」と思えるような連携は見せたりするけど、あれが定期的に出せる日も来るもんなんかねえ。


黒乃「あ-、ところでだなダーク君。君はエリナさんとは恋仲とか言ってたか?」


ダーク「え?あ、はい、まあそうですね」


黒乃「そうか・・・」


 え?何この質問。今までそこら辺を聞いてくる人があんまりいなかったんで、あんま突っ込まれると答えに困ったりするんだけど。


ダーク「えっと、どうしたんですか急に?」


黒乃「い、いや、こう、二人の出会いとかどうだったのかな~とか思ってな」


 出会いも何も、オフ会に行って自己紹介したら、俺の憧れていたゲーム内の師匠が、実は姉貴でした☆って泣きたくなるような話なんだけど。そう馬鹿正直に言う訳にもいかないしな。


ダーク「出会いは、最初はゲーム内での師匠だったんですよ、エリナは」


黒乃「師匠?」


ダーク「はい。まだ初心者の頃から色んな所へ連れてってもらいまして、狩りの仕方を教えてもらいました」


 まあ、正直姉貴には初心者の頃、かなりお世話になっている。その時は姉だとは知らなかったけどな。


ダーク「まあそれで、自由同盟のオフ会で意気投合しまして、ゲーム内で付き合おうかって話に・・・」


黒乃「なるほどな。実生活でも恋人なのか?」


ダーク「ち、違いますよ!あくまでもゲーム内だけです!」


 何が悲しゅうて、実の姉と付き合わねばならんのだ。憧れてた師匠が、実は姉でした☆彡って知った時の、俺のあの落胆具合を知ってもらいたいぜ全く。


黒乃「ふむ、そうか。実はな・・・」


 と、そこで黒乃さんが何か言いかけた時に、ブラックアウトの緊急会議の連絡が届いた。


黒乃「ああ、すまんダーク君。会議が入ったようだ。せっかく呼び出したのに申し訳ない」


ダーク「いえいえ、また今度話しましょう」


 そう言って、俺はローザ要塞を後にした。と言うか、結局黒乃さんの用事ってなんだったんだ?

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