第9話 グラマンからお兄ちゃんLOVEさんへの質問

 要塞戦が終わって、その場で談笑だんしょうしていた俺たちの前に『お兄ちゃん大好き!』ギルドのマスター『お兄ちゃんLOVE』さんが現れた。


お兄ちゃんLOVE「あのう、今日はみなさんお疲れさまでした」


 はっ、要塞戦後のどよんとした空気をどうしようかという事ばかりに気を取られて、相手ギルドへの挨拶をすっかり忘れてた!


団長「いやー、こちらこそありがとうございました。同盟を組んでからの要塞戦は初めてなもので、そちらへの挨拶とかすっかり頭から飛んでましたw」


お兄ちゃんLOVE「あら、そうだったんですね。初めての戦いにうちを選んで頂いてありがとうございます」


 団長の咄嗟とっさの大人トークで、お兄ちゃんLOVEさんも笑いながら応対してくれたようだ。以前ブラックアウトとの戦闘を見学してた時も思ったんだけど、この人、凄く人当たり良かったんだよなあ。


お兄ちゃんLOVE「それにしても『BMA』ですか?どんな意味なんです?」


千隼「あー、今裏門にいるBMAのマスターが付けたんだけど・・・」


 千隼さんは、以前グラマンから聞いたBMAの名前の由来をお兄ちゃんLOVEさんに説明した。


お兄ちゃんLOVE「わー、凄くカッコいい名前の由来ですね!うちとは大違いw」


ダーク「確か、お兄さんが好きすぎて付けた名前なんですよね?」


 これ言って良いものかどうか迷ったが、以前大勢の前で自分から話してたから、特に問題ないだろう。本当は『食べちゃいたいくらいお兄ちゃんが好き」だったと思うが・・・。


お兄ちゃんLOVE「えー!よく知ってましたね?なんで?」


ダーク「あー、以前、ローザ要塞に攻めた事がありましたよね?あの時僕もそこに居て、LOVEさんが話してたのを聞いてました」


 聞いてたっつーか、聞えちゃったんだけどね。


お兄ちゃんLOVE「あー!そういえば、ダークマスターさんの名前どっかで見た事あると思ったら、あの時あの場所に居たんですね!」


ダーク「ちらっと見かけただけなのに、よく覚えてましたね?」


 実際、俺とLOVEさんは直接話したことは無く、LOVEさんが黒乃さんに、アドバイスを求めてた所を俺が見てただけだったと思うんだけど。


お兄ちゃんLOVE「あの、名前が凄くカッコ良かったんで、それで覚えてましたw」


ダーク「あ、ありがとうございます」


 正直名前には触れないで欲しいのだが、スターナイトさんの時と同様、嫌な感じはしなかったなあ。たぶん、本心からそう言ってくれてるからだろうなあ。


アッキー「ダーク君、名前カッコいいって!良かったね、さすが黒を征する者!」


お兄ちゃんLOVE「黒を征する者ってなんです?」


 ちょっとお!明海さんが余計な事いうから、名前のルーツを説明しなきゃいけない流れになっちゃうじゃん!いつもこうだよ!


ダーク「いやホント、たいした話じゃないんですよ^^;」


お兄ちゃんLOVE「えー、気になるじゃないですかー」


 そんなやり取りをしていると、里奈と燈色ひいろからスカイポに呼び出された。あいつら今日の要塞戦ではスカイポしないって言ってたのに、いつの間にログインしたんだ?と言うか、このタイミングでスカイポって事は、どうせ俺の名前をネタに話すんだろうな。


真司「スカイポしながらゲームやると、里奈のPCに負荷が掛かり過ぎるから、今日はスカイポしないとか言ってなかったっけ?」


里奈「そんな事はどうでもいいのよ」


真司「どうでも良いって・・・」


燈色「そうです。それよりも先輩、ずいぶん楽しそうに話してたね」


真司「は?」


里奈「鼻の下伸ばしちゃってねー」


真司「いやいや、お前ら何言ってんの?」


 俺の名前をネタに、てっきりからかってくるもんだと思ったら、なんか二人ともすげえ機嫌悪そうなんですけど・・・。


燈色「ちょっと名前を褒められたからって調子に乗り過ぎ。先輩はチンパンジーか何かですか?」


真司「なんでそこまで言われなきゃいけないんだよ!あと、調子にも乗ってねーし!」


里奈「今度は逆切れ?ありえないわね!」


 逆切れじゃなくて正当にキレてんだよ!とか心の中で叫んでいたら、ゲーム内ではグラマンが正門に到着したようだ。


真司「グラマンも来たみたいだし、スカイポの回線切るぞー」


 そう言って一方的にログアウトした。後でなんか言われそうだが、針のむしろ状態から一刻も早く抜け出したかったので、それは考えない事にした。


グラマン「いや、申し訳ない。遅くなりました」


団長「LOVEさん、BMAのギルドマスターのグラマンです。グラマン、こちらお兄ちゃん大好きギルドのマスターさんだよ」


グラマン「おお!今回は胸をお貸し頂き、誠にありがとうございます!」


お兄ちゃんLOVE「いえいえ、こちらこそ楽しかったです!あと、素敵なギルド名ですね!」


グラマン「おお!ありがとうございます!ギルド名は、熟考を重ねた力作なので、そう言って頂けると感無量ですな!」


 BMAとお兄ちゃん大好きのトップ会談は、非常に和やかな雰囲気の元進んでいた。グラマンの中の人、実明みはるさんも、ギルド名を褒められて、すげえ嬉しいんだろうなあ。


 とか思ってたんだけど、グラマンがそこから急に喋らなくなってしまった。


ダーク「えっと、グラマン?」


 グラマンが急に黙り込んだので、俺は思わず声を掛けていた。突然黙り込むような会話の流れではなかったよな?


グラマン「あ、申し訳ない!ちょっと考え事をしてしまっていた」


千隼「ちょっとグラン、人と話している時に失礼でしょ」


グラマン「いや、誠に申し訳ない!」


 実明さん、千隼さんに怒られてちょっとシュンとなってる。それにしても話の最中にまで考えてしまう事ってなんだ?もしかして悩みとかあるのか?


グラマン「いや、実はその、お兄ちゃんLOVEさんにお聞きしたい事があるのですが・・・」


 グラマンが突然そんな事を言い出す。と言う事は、さっきの考え事ってのは、LOVEさんに聞きたい事を考えてたって事か?


お兄ちゃんLOVE「私ですか?私に答えられる事ならなんでもお答えしますよ」


 そう言ってにこっと笑うLOVEさん。しかし実明さんがLOVEさんに聞きたい事ってなんだ?あ!もしかして、実明さんも実の兄を慕っていて、どうすれば今より仲良くなれるのか聞きたいとか!?いやいや、それは無いな。


グラマン「聞きたい事と言うのはですな、お兄ちゃんLOVE殿は、大変可愛らしいアバターでいらっしゃるではありませんか」


 グラマンから発せられた言葉を聞いて、その場にいた全員が「は?」って感じになったのは言うまでも無いだろう。


エリナ「ちょっとグラマン!あんた何いやらしい目で女の子を見てるのよ!」


グラマン「い、いやらしいとはなんですか!」


エリナ「だってそうじゃない!お兄ちゃんLOVEさんがいくら可愛いからって、急にそんな事言い出すなんて!」


燈色「せっかく、グラマン株上がってたのに急降下ですね」


グラマン「ち、違いますぞ!」


ダーク「あー、グラマンの質問には続きがあるんじゃないの?」


 グラマンを男だと思っている里奈と燈色の容赦ない責めから話をそらす為、俺はグラマンに話の続きを促した。まあ確かに、黒のゴスロリみたいな服に、黒と赤のニーソックス、そして黒い傘。好きな人にはたまらない様な格好ではあると思う。


お兄ちゃんLOVE「ふふっ、この服を褒めてくれてるんですね?ありがとうございます!実はこれ、お兄ちゃんの趣味なんです」


 ゲームなんで、誰も何も発言してないが、実生活だったらどよめきが起こってもおかしくない瞬間だったな。いや、人の趣味をあれこれ言う気は全くないし、俺もこの服は嫌いではない。だけどお兄さん、あなた、自分の知らないオンラインゲームの中で、確実に株価急降下してますよ。妹さんの手によって!


グラマン「そ、そうなんですか。でもお兄さんも心配でしょう?そんなに可愛いと、言い寄って来るプレイヤーも多いのではないですか?」


お兄ちゃんLOVE「大丈夫です!私のお兄ちゃんへの愛は、そんな事では揺るぎません!」


 隣の部屋から里奈がせきこむ声が聞えた。わかるわかる、俺も椅子から落ちそうになったもん。以前も聞いたけど、やはり破壊力が半端では無いな。


お兄ちゃんLOVE「あーでも、確かに声を掛けてくる人は多いですね」


グラマン「中にはしつこい人もいるのでは無いですか?」


お兄ちゃん「ストーカーみたいな人はたまにいますね」


 そこでまたグラマンは黙ってしまった。今度はみんなもグラマンが質問についての考え事をしているのだとわかっているので、声を掛けることは無かった。


 それにしても、実明さんは一体何を聞こうとしているんだろうか?

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