第8話 カルニスク要塞戦

 グラマンこと実明みはるさんの号令が終わるとほぼ同時に、本日の要塞戦の時間を告げるファンファーレが、サーバー全体に鳴り響いた。


千隼ちはや「みんな!カルニスク要塞へ飛んで!」


 今日の要塞戦の指揮を担当する千隼さんの声で、その場に居た全員がカルニスク要塞へとジャンプする。要塞戦開始と同時に相手要塞へ一気になだれこめば、それなりに相手の動揺を誘う事が出来ると思うとは千隼さんの言葉だ。そういえば、ブラックアウトの黒乃水言くろのみことさんも同じようなこと以前言ってたな。


 そんな事を考えながら、俺はカルニスク要塞へとジャンプしていた。要塞に着いたら、一気に門へ突入して相手の意表を突き、主導権をBMA同盟が握りたい。


「って、あれ!?なんで人数これだけしか居ないの!?」


 俺は思わず叫んでしまった。だって、予定の半分くらいしかジャンプしてきてないよ?はっきりってスカスカの隊列しか出来ていない。里奈と燈色ひいろは、所定の位置にスタンバってるようだが、回復や補助の支援グループも全員はそろっていない。と言うか、BMAギルドの連中が誰もいないんじゃないか?


千隼「グラマン、今どこにいるの?」


 俺と同じように、BMAの連中が居ない事に気づいた千隼さんがグラマンに連絡を入れる。


グラマン「そちらこそ、一体どこにいかれたのですか?もうすでに門へと攻撃を開始しておりますぞ!」


 グラマンからわけのわからん返事が返って来た。実明さん達が門へと攻撃を開始しているなら、俺たちが今攻撃をしているのは門じゃないの?


千隼「あー!グラマン、今攻撃してる門って、大きさどれくらい?」


グラマン「大きさですか?人が二人並んで通れるかどうかというところですな」


千隼「ごめん!私、間違えてた!」


「「ええー!」」


 俺と実明さんの声が、BMAのギルドチャットでかぶってしまった。


ダーク「えっと、千隼さんどういう事?」


千隼「実はね・・・」


 千隼さんの説明によるとカルニスク要塞は、元々グラマン達が攻撃している狭い門が一つだけの、結構強固な要塞だったらしい。所が強固ゆえに、中々要塞戦が活発にならなかったため、ブラックアースの運営チームが、もうひとつ広い門をアップデートで設置したらしいんだ。


 もちろん要塞戦は活発になったけど、防衛にかかるコストに見合う収入が見込めない為、コボルト要塞のような練習orネタ要塞と化してしまったらしい。なので、最近の要塞戦に参加していなかったグラマンは、新しい門の事を知らなかったのだ。


千隼「ごめん!すっかり失念してた!」


グラマン「気にしないでください。そういう事を経験するのも今日の仕事の内ですから」


 さすが実明さん。さりげないフォローが完璧だぜ。


エリナ「でも、実際問題として、これからどうするの?」


 里奈が千隼さんにそう聞いていた。確かに、このまま二つの門をばらばらに攻撃するのか、それとも一回退却して仕切りなおすのか、判断が難しい所だ。


千隼「グラマン、そっち厳しい?」


グラマン「いや、門が小さいからでしょうか、それほど人数は居ないようですな」


千隼「なんとかなりそう?」


グラマン「門を抜けるか?という話なら無理ですが、攻めの形が出来ているかという事なら、なんとか」


千隼「じゃあ悪いけど、このまま両方の門を同時に攻めると言う事でOKかな?厳しくなって来たら、こちらへ合流ということで」


グラマン「ふむ。了解しました。出来る限りやってみましょう!」


千隼「ごめんねー」


 千隼さんとグラマンの間で、話が成立したようだ。グラマンギルドの人達は、ほとんどが初心者なので、心配と言えば心配だが、正直自分たちも百戦錬磨という訳では無く、グラマン達にちょっと毛が生えた程度だ。しかも、相手の本体は俺たちが攻めている門を防衛しているわけで、危険度から言えばこっちの門の方が高いと言える。


 その証拠に、俺はいま一回死んでしまった・・・。


「先輩!」


「ダーク!」


 支援組の里奈と燈色が、悲鳴のような叫びをあげる。回復や支援を担当する人達は、門へ攻め入っている仲間が死ぬと、そりゃあへこむらしい。だって、自分たちの回復魔法や支援魔法が間に合わなかったって事だからね。


 けど、大勢の相手から一斉に攻撃されたら、そりゃあ回復魔法も間に合わないときはあるわけで。そんな時は無理せず、帰還アイテムを速攻で使うんだ。そして帰還のタイミングの判断を間違うと死んでしまう。今まさに、俺はタイミングを間違えてしまい、間に合わずに死んでしまったというわけだ。


 ちなみに死ぬと、普通に近隣の町で何事も無かったかのように復活する。レベルに合わせた経験値を失って・・・Orz


 ただ、言い訳させてもらうと、通常の攻撃に加え、高レベル魔導士からの魔法攻撃も食らってしまったんだ。魔法防御の装備をほとんど持って無い俺は、高レベル魔法をもろにくらってしまった。


 こりゃあれだ。こっちが思ってたよりも、かなり強いぞお兄ちゃん大好き!ギルドは。相手をなめてたつもりは全くないが、ブラックアウトに負けた戦いしか見てなかったから、かなり計算違いをしてたかもしれん。


 見れば、燈色はかなりの頻度でMP回復のための休憩を取っているし、INTヒーラーの里奈でさえ、休憩を入れなければMP回復が間にあって無いようだ。


 団長もさっきから門へ突っ込んでは、HPが少なくなって帰還を繰り返している。そして相手のギルドは、俺が見た限りではほとんど帰還していないんじゃないだろうか。


 そしてそんな事を何度も繰り返しながら、1時間が経過した。ファンファーレが鳴り響き、要塞戦の終了をサーバー全体へと知らせる。


 時間の最後の方では、お兄ちゃん大好き!ギルドの人達は、門防衛を解いて、門前の広場で俺たちを迎撃していた。予想以上の大敗だった。


千隼「グラマン、そっちはどう?大丈夫だった?」


グラマン「大丈夫です。とりあえず何名か死んでしまいましたが、要塞戦ですからそれは仕方ありません」


千隼「そっか、お疲れさま」


グラマン「千隼殿こそお疲れ様です」


 千隼さんとグラマンが互いの労をねぎらっている。そっか、BMAの人達も何人か死んでしまったらしい。こちらほどじゃないと言え、初心者の集まりだからなあ。


燈色「先輩、大丈夫ですか?経験値復旧狩り付き合いますよ」


エリナ「私も付き合うわよ」


 回復と支援担当の二人が、そろって俺の手伝いを申し出て来た。たぶん、なんかこう責任みたいなもんを感じてるんだろうなあ。気にすることないのに。


ダーク「大丈夫だよ、ありがとな。それよりもグラマン、スターナイトさん達は大丈夫だったの?」


 里奈と燈色に気にするなと伝えつつ、俺はBMAギルドの人達の事をグラマンに訪ねた。俺もかなりの初心者だけど、スターナイトさん達は、完全な初心者だからね。


グラマン「スターは、2回程ENDしてしまいましたな」


ダーク「ああ、そっかあ。スターさんお疲れさま」


スターナイト「いえ、何度もENDする覚悟は出来てたので大丈夫です!」


ダーク「そっか」


千隼「ごめんねみんな。私が最初にちゃんと確認しておけばこんな事にはならなかったのに・・・」


 千隼さんが珍しく落ち込んでいる。たぶん、要塞戦の間もずっと気にしていたんじゃないかなあ。団長やアッキーさんも、珍しく俺を気遣うように声を掛けてきてくれる。むー、いかん!これはいかんぞ。せっかく初の要塞戦で、みんなあんなに盛り上がってたのに。でも、何をどうすればいいのか全くわかんねー!とか思ってたら、


スターナイト「いやー、初めての要塞戦、めちゃくちゃ面白かったですね!」


 いきなりスターさんが、ギルドチャットで、その場の空気をぶち壊すような発言をしてきた。これは乗るしかない!


ダーク「ですよね!俺も一回死んじゃったけど、めちゃくちゃ楽しかったです!今日の要塞戦は絶対忘れられないと思う!」


スターナイト「僕、今日の事はブログに書こうと思ってるんですよ」


ダーク「え?スターさんブログやってるの?URL教えてくださいよ」


スターナイト「いいですよ。後でメール送りますね!」


 そんな俺たちの会話がきっかけで、BMAギルドのチャット内で、今日の要塞戦の感想やら、反省やらが一気にチャットらんに流れ出した。なんだ、みんな言い難かっただけで、やっぱり楽しかったんじゃんw


「ダーク君」


 俺が、BMAギルドの人達と、今日の要塞戦について色々語っていると、千隼さんが話しかけて来た。


千隼「ありがとね、フォローしてくれて」


ダーク「何言ってるんですか。千隼さんいなけりゃ、すげえ悲惨な事になってましたよ間違いなく!こちらこそありがとうございます!」


エリナ「そうそう、ダークが暴走して、門に無謀な突撃したりとかね」


ダーク「なんだよそれ、いくら俺でもそんな事しないっつーの」


燈色「いえ、先輩は、時々信じられないような事をやらかしてしまいますから」


ダーク「お前らーーー!」


千隼「さすがダーク君ね♪」


 俺たちのそんなやり取りを聞いて、やっと千隼さんもいつもの調子を取り戻したようだ。実際、要塞戦の色んなルールやら仕様を教えてくれたの千隼さんだからなあ。負担も大きかったと思う。


お兄ちゃんLOVE「あのう、今日はみなさんお疲れ様でした」


 そんな時だった。お兄ちゃん大好き!ギルドのギルドマスター「お兄ちゃんLOVE」さんが話しかけて来たのは。

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