第7話 要塞戦当日

「はあ、いよいよ今日はデビュー戦なのよねえ」


 朝、里奈と一緒に朝食をとっていると、いきなりそんな事を言い出した。


「デビュー戦?誰かなんかスポーツの試合にでも出るの?」


 それに反応したのはうちのお袋だ。お袋は、インターネットの世界の話になると、雑誌やTVのネガティブな報道を鵜呑うのみにするタイプなので、俺と姉貴がオンラインゲームをやっている事は内緒なんだ。なので当然、今日が同盟での要塞戦のデビュー戦であることは言っているわけがない。


「あ、うん、友達がね、サークルの試合でデビューするって」


 すぐにテンパってしまう里奈の対応としては上々だろう。


「じゃあ応援に行かなきゃじゃない」


「あ、えっと、それは、あの・・・」


 お袋の当然すぎる質問に、里奈の奴完全に慌てふためいていた。いや、その質問は当然来るに決まってるだろう。


「あー、なんか、恥ずかしいから来るなって言われたって言ってなかったっけ?」


 仕方ないので助け舟を出すことにする。ここで変な事を言われると、俺までとばっちりが来そうだからな。


「そ、そう!そうなのよ、あの子ったら恥ずかしがり屋で・・・」


「あら、じゃあ仕方ないわね」


 お袋もそれ以上追及する事は無かった。まあ正直、あんまり興味は無かったんだろう。


「それにしても、真司がお姉ちゃんのサークルの事知ってるなんて、本当に最近あんた達仲が良いわねえ。一時期あんまり喋らなくて心配してたんだけど、一体どうしたのよ」


 おうふ、違う角度から追及来た・・・。


 まあずっと以前は、里奈の奴が俺にべったりだった時期もあったんで、俺が原因で疎遠そえんになったのが目立ってたってのはあると思う。お袋からすれば、急に仲良くなったのが不思議なんだろう。


「何言ってんだよ。昔の姉貴は、もっと俺にべったりだっただろ?」


 お袋の追及を遮るため、以前の俺と里奈の事を引き合いに出してみた。ホントあの頃の里奈は弟大好きな奴で、隙あらば風呂に一緒に入ろうとしたり、いつの間にか俺のベッドにもぐりこんで来たりと、姉もののエロゲー好きな奴にはたまらないシチュエーション満載だった気がする。


 うえ、気持ち悪い事考えちゃった・・・。ま、まあとにかく、これでお袋の追及も途切れるはずだ。


「べ、別にべったりなんかしてないわよ!な、何いってるのよ!」


 そう思ってたら、俺の言葉にお袋ではなく、里奈の奴が速攻で反応しやがった。しかもすげえ焦った感じで。


「お姉ちゃんなんでそんなに慌ててるのよ」


 それは俺も同感だ。なんでこんな時にテンパってるんだこいつは。今それを言われて恥ずかしいってのはわかるけどな。


「まあ昔から、姉貴は変なとこでパニくったりしてたからな」


「それもそうね」


 よかった。なんとか追及は逃れたようだ。俺をにらんでいる姉貴の視線は気づいていない事にしよう。というより、全部里奈のフォローなのに、なんで俺は当の本人からにらまれなきゃいかんのだ。解せぬ。



 そして、要塞戦1時間前。俺たちは、以前BMAとの模擬戦の時に集まった光の森へ集まっていた。以前、カルニスク要塞の場所は記憶スクロールに記録させたので、この場所から一気にカルニスクにジャンプする予定だ。なので今は、グラマンのギルドへの加入作業を行っている最中だ。


 なんで要塞周辺で作業を行わないかと言うと、今日、カルニスク要塞へ攻める計画が、カルニスク要塞を所持している「お兄ちゃん大好き!」ギルドの人達にバレないようにする為だ。ガチガチに警戒されるよりも、不意打ちに近い形で攻め込まないと、ただでさえ少ない勝率がますます下がってしまう。


 なので、要塞戦スタートの時間と共に、一気にカルニスク要塞へジャンプ。まさかスタートと共に攻め込んでくるとは思っていないカルニスク要塞の防衛の人達の隙をついて攻め込む。これは、千隼さんと俺とグラマンこと実明みはるさんの3人で決めた。


 本当は、防衛開始からしばらくたって、相手の気が緩みだした頃に攻めようかと言う案もあったんだけど、BMAのお披露目ひろめと、みんなの要塞戦への慣れも兼ねているので、出来るだけ要塞戦の経験を積ませたいとの考えから却下された。


 実際、千隼さんとグラマン以外のメンバーの要塞戦の経験と言えば、自由同盟の数人のメンバーが、コボルト要塞で2戦程戦ったった程度だ。はっきりいって経験不足だ。


里奈『ねえ、相手の『お兄ちゃんLOVE』だっけ?結構強いのよね』


真司『それはギルドマスターの名前。ギルド名は『お兄ちゃん大好き!』な。ここ最近、コボルト要塞と同じくネタ要塞だったカルニスクを、結構長期に渡って所持してるっぽい。かなり強いと思う』


里奈『ああ、大好きの方か。それにしても凄い名前よね』


真司『名前の由来はもっと凄かったけどな』


 何しろ、実の兄を食べちゃいたいくらい大好きだから「お兄ちゃん大好き!」って名前にしたらしいからなあ。俺はてっきり、萌えゲーか何かから取って来た名前かと思ったもん。


 実は俺も、自室に置いてあるPSBox-Uで、タイムワープとかアイドルシスターシリーズとか遊びまくった記憶がある。しかし実際に実の姉の里奈をそういう対象で見れるかっつーと、そりゃ無理だろうなあ。そう考えると、お兄ちゃんLOVEさんマジすげえわ。


スターナイト「ダーク先輩!今日はよろしくお願いします!」


 そんな事を考えていると、スターナイトさんから挨拶された。あれ?ダーク先輩ってなんだ?


ダーク「あ、こんにちはー。あの、先輩ってなんですか?」


 確かにこの前、剣士の事を色々教えてくれとは言われたけど、先輩とか呼ばせた覚えは一切ないぞ?


スターナイト「あれ?ダーク先輩の師匠のエリナさんが、「教えてもらいたいなら、先輩って呼ばなきゃ」って言ってたので」


 なるほど!


真司『里奈お前ふざけんな!』


里奈『なんでよ~w本当は「黒を征する先輩」って呼ぶように言っといたのにwww』


真司『尚悪いわ!』


 あーもう、俺の黒歴史の部分に遠慮なく踏み込んでくるんだよねスターナイトさん。しかも悪気が一切ないもんだから、余計にやりにくい・・・。


アッキー「じゃあ私もダーク先輩で」


千隼「えー、じゃあ私も―」


グラマン「では私もそう呼ばせて頂きましょう!」


燈色「私は『黒を征する先輩」で・・・」


エリナ「じゃあ私も黒を征する先輩でwww」


団長「じゃあ僕は「黒を征する男」にしようかな」


ダーク「俺はファミレスのメニューか何かなの!?」


スターナイト「あ、あの、ご迷惑だったでしょうか?」


ダーク「あ、スターナイトさんは良いんですよ!俺が言ってるのは他の奴らの事ですから!」


スターナイト「あー良かった!じゃあよろしくお願いしますね先輩!」


ダーク「あ、うん!こちらこそ!」


 スターナイトさんの俺の呼び方が「先輩」に決まってしまった。だって、あんな風に言われたらダメって言えないじゃん・・・。でも他の奴らは許さんけどな!


グラマン「さて、場も良い感じに温まって来たので、要塞戦前に一言だけ!」


 場を温めるのに俺を使うんじゃねーと文句の一つも言いたかったが、まあそこは我慢する事にしよう。


グラマン「皆のおかげでようやく自由同盟とBMAのデビューに漕ぎつける事が出来た!」


 まあ、思ったより時間はかかってないし正直戦力不足は否めないが、この短期間でよくここまで準備できたなーとは思う。


グラマン「今日の我々の最大の目標は、勝つことでも経験を積む事でもない!思い切り楽しみ事だ!今日は精一杯楽しもう!」


おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!


 グラマンこと実明さんの号令で俺たちのテンションはMAXに達した。思い切り楽しむ事か。うん、今日は思い切り楽しもう!

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