第一章 自由同盟本格参戦へ!

第1話 グラマンと愉快な仲間たち

「来たか!黒を征する者よ!」


「うるせえ!その名前で呼ぶなって言ってるだろ!」


 俺は何回言っても俺の言う事を聞いてくれないその剣士に、思わず怒鳴り声を上げていた。声つってもチャットなんで文字なんだけど、そこは雰囲気で。


 こいつはグラマン。またの名をグランドマスター。あ、逆だった。正式名がグランドマスターね。グラマンとは、俺のゲーム内での名前「ダークマスター」とマスター繋がりって事で、何かと絡んでいる。


 今日ここに来た理由は、俺が所属しているギルド「自由同盟」宛に、グラマンから「ザ・ブラックアース」内の酒場兼宿屋である「屈強くっきょうな冒険者のつどい亭」に来てくれと連絡があったからだ。そしてどうも俺が一番乗りだったらしい。なんか張り切って来たみたいで恥ずかしいな。


 俺が集い亭に到着するとグラマンの奴、誰も居ない部屋で剣を床に刺し、腕組みをした状態で待っていた。いつも思うんだが、誰もいなくてもこんな事やってるんだけど、意味あるのか?


 グラマンに言わせれば、こういった立ち振る舞いは「ロールプレイ」、つまり役割を演じているのだとか。まあ、正しい遊び方の一つではあるよな。


 うっとおしいけど。


「やっほー、千隼ちはやお姉さんだよ~♪」


 俺がそんな事を考えていると、ギルドのヒーラーである「千隼」さんがやってきた。別名シャインちゃんである。自由同盟の女性キャラの中でも、俺の中の好感度1,2位を争う尊敬して止まないお姉さんだ。色々と相談に乗ってもらう事も多い気がする。


 グラマンとは以前、同じギルドに所属していたらしい。なので付き合いは俺より長い。くそ、うらやましいぜグラマン。


「やあ、みんな来てるかい・・ってあれ?ダーク君とシャインちゃんだけなの?」


 そう言いながら入ってきたのは、ギルド「自由同盟」のギルドマスター「団長」だ。そして、俺をゲームに誘った張本人でもある。この人も、千隼さんやグラマンとの付き合いは俺より全然長い。


「師匠と燈色ひいろは用事があって来れないそうです」


 俺が言っている「師匠」とは、俺の姉貴であるゲーム内キャラ「エリナ」こと「里奈」

の事だ。俺とエリナは姉弟であることを皆には隠しているので、ゲーム内では「師匠」と呼んでいる。


「じゃあ、今日集まれるのはこれだけか~」


 そんな団長の言葉に、俺はエリナと燈色が断りの理由として語った言葉を思い出していた。


「え?グラマン?行かないわよ。だって面倒だもん」とはエリナ。


「あの変態ナル男と話したくありません」とは燈色の弁である。


 こいつらサイテー・・・。


 まあそういうわけで、集い亭に集まったのは自由同盟から3人だけと言うお寒い状態に。別にグラマンの事をみんなが嫌ってるわけじゃあ無いと思うんだけど、つい先日行った、あの長ったらしい演説が皆の心には残ってるんだろう。


 とある事情から、自由同盟に一時的にグラマンが入団したんだけど、そこで約1時間にも及ぶ大演説をぶちかましやがったんだ。途中で千隼さんに止められなきゃ2時間は絶対話してたね。


「私からの一大発表があるというのに、集まったのはたったこれだけですか!?」


 グラマンは集まりの悪さにたいそう不満があるようだが、ある意味自業自得なので、あえて放置しておこう。


「あーもういいから、お前の用ってなんだよ?」


「あーもういいとはなんだ!」


「帰るぞ?」


「今日お呼びしたのは他でもありません」


 俺が帰る宣言をすると、慌てて今日のお題を話し始めた。大体、ギルドのマスターである団長と、共同創設者である千隼さんの二人が居るんだから問題ないだろ。


「えー、実は私ことグランドマスターは、要塞バトルに参戦する為のギルドを設立致しました!」


 ・・・。


「「「えええええええええええええええ!」」」


 素で驚く俺と千隼さんと団長。いや、確かにさ?団長が、フリーになったグラマンを自由同盟に誘ったとき、「私にもちょっと考えがあるのです」って言ってたから、もしかしたらギルド作ったりするのかな~とは考えてはいたんだけど、まさか本当に作ってくるとは思わなかった。しかもバトルギルドだよ。


「凄いじゃないグラン!で、なんて名前なの?」


 千隼さん嬉しそうだな。やっぱり、昔からの仲間が頑張ってるのを見るのは嬉しいんだろう。


「ギルド名は『B・M・A』と名付けました」


「BMA?ドイツかどっかの車メーカーか?」


「黒を征する者よ、それはBMWだ」


 グラマンから突っ込まれちまった。


「で、それどういう意味なんだい?」


 団長からの質問に、よくぞ聞いてくれました!と言わんばかりにはりきってグラマンは説明を始める。


「BMAは頭文字なのです」


「へえ、どんな文字からとったの?」


 千隼さんの質問に、ますます胸を張るグラマン。そのうち後ろにひっくり返るんじゃないか?


「Blackearth・Masters・Association、ここからBとMとAを取り、ギルド名にしました」


「ながっ!あとわかりにくっ!」


「ブラックアースマスターズアソシエーション、って読みでいいの?」


「はい」


 ブラックアースは、まあこのゲームの名前だよな。マスターズアソシエーションってなんだ?俺がそんな事を考えていると、それを察してくれたかどうかはわからないが、名前の意味について説明を始めてくれた。


「BMAとは、『ブラックアースを極めるくらいに思い切り楽しんでいる者たちの集まり』という意味だ」


 つまり、マスターズは「極めるくらい楽しんでいる者達」というニュアンスで使い、アソシエーションはそのまんま「集まり」って意味で使ってるのか。


「へー、カッコいい名前のギルドじゃない♪」


「そうでしょう!」


 グラマンもご機嫌のようだ。里奈と燈色もくりゃあ良かったのにな。こんな嬉しそうなグラマンを見れるのは結構「レア」だぜ?


 しかし、「グラマンと愉快な仲間達」とかじゃないのか。空気が読めない奴だな。


「そんな名前に誰がするかあああ!」


「あれ?俺に口に出してた?」


うんうんと頷く千隼さんと団長。


「まあ、それでですな」


 グラマンは何か言いたいことはありそうだったが、一旦それは他所に置いて、本筋を話し出す。


「良ければ自由同盟とは、ギルドハントやイベント、そしてたまには、要塞バトルを一緒にやるような、友好ギルドとしてお付き合い出来ればと思っているのですが・・・」


 と、ちょっと不安そうに提案してきた。


「うん、グラマンのギルドならもちろん大歓迎だよ。よろしくねグラマン」


「いやあ、断られたらどうしようかと内心不安だったものですから、やっと安心できました」


 こいつでも不安になる事あるんだな~等と、変なところで感心してしまった。普段の言動があれだから仕方ない所もあるけど、まあ、不安になるのも当たり前か。


「それでは詳細は後日詰めていくという事でよろしいか?」


「わかったよ。一応、ギルドのみんなにも言っとかなきゃだからね」


 団長のその言葉で、発表会は終了となった。その後、みんなで色々世間話などをしてから解散した。


 そしてその日の夜、俺が風呂からあがって部屋へ戻ると、スマートホンに1件の着信履歴が残っていた。電話を掛けてきた相手を見ると


「桐原礼二」


とあった。つまり団長からの電話だ。一体何だろう?そう思いながら俺は団長に電話をしてみる。


「もしもし、黒部ですけど・・・」


「真司くーん!会いたかったああああ!」


 耳がきーんとなるくらいの女の声が、大音量でスマホから聞こえてくる。


「ちょ、明海さん酔ってるでしょ!?」


「桐原明海、絶好調に酔っぱらってるぜ!」


 うぜえ。この人は桐原明海さん。団長の奥さんで、ゲーム内キャラは「アッキー」。普段から天然炸裂で、毎回俺を事故に巻き込んでくれる人だ。以前行われた自由同盟のオフ会でも、散々俺を巻き込んでくれた。


「あーごめんごめん、明海ちゃん完全に酔っ払いなんだよ」


「ホント頼みますよ~」


 まあ、アッキーさんは基本良い人なんで、別に本気で迷惑なわけでは無い。と言うかむしろ、こんな人と結婚してる団長がうらやましい。


「あ、それで用件なんだけどね」


「はい」


「実はさ、割と家が近いもの同士集まって、飯でも一緒にどうかな~って思ってさ」


 電話の用件は、団長からの飯のお誘いだった。俺と団長の家は駅一つ分しか離れていない。利久はこの街だし、燈色も団長とは逆側に駅一つ離れているだけだ。で、千隼さんは、団長の駅からさらに逆側に一つ分と、この沿線沿いに自由同盟ギルドのメンバーの家が結構固まってる。


 なので、ご近所さんで集まってご飯を食べようということらしい。


「いいですね!すげえ楽しみです!」


「うんうん、そう言ってくれると僕も嬉しいよ。あ、エリナちゃんと燈色ちゃんと利久君には、ダーク君から伝えてもらってもいいかな?」


「あ、了解です」


 燈色と利久には学校で言えばいいし、里奈は俺の姉だから当然一緒の家にいるしな。


「あ、それと言い忘れてたんだけど・・・」


「はい?」


「この集まりにね、グラマンも参加するから」


「・・・は?」


 俺は団長が何を言っているのか、一瞬本気でわからなかった。

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