第41話 本当にやりたい事

「ちょっとダーク!何ぼけっとしてんのよ!」


「わ、悪い!」


 今日何度目になるかわからない里奈の怒った声がスカイポから聞えてくる。いや別に俺だってわざとぼけーっとしてるわけじゃない。でもつい考えちゃうんだよ。このまえ、ローザ要塞で黒乃さんに言われた言葉を。


「君をブラックアウトに迎え入れたい」


 黒乃さんにそう言われたのは2日前の事だった。


 ローザ要塞でのバトルを見学した後、会議室に呼ばれた俺は、黒乃さんから、ブラックアウトへの移籍を正式に打診されたんだ。


黒乃「もちろん、今すぐにここで決めてくれとは言わないよ。そんな事は出来ないだろうからね」


ダーク「いやでも俺、装備とかも貧弱だしレベルも低いし、お役に立つとは思えないんですけど・・・」


黒乃「我々と一緒に狩りに行くようになれば、装備もレベルもすぐに上がっていくさ。そんなものだよ」


 あー、それは分かる気がする。自分じゃなく燈色ひいろなんだけど、これまでどうやってたんだってくらい貧弱な装備だったが、俺達と一緒に遊ぶようになってからはみるみる充実した装備になっていっている。


 たぶん、ブラックアウトのようなギルドで、高額なレアがでるような狩場へ一緒に行くようになれば、そりゃあ俺の装備もグンとグレードが上がると思う。しかも、今日見た以上の大規模なバトルも体験することが出来る。


 そして何より、ブラックアウトギルドの一員となれるのは、大勢のバトルユーザーからすれば、何より手に入れたい物かもしれない。


ダーク「すみません、ちょっと考えさせて下さい」


 黒乃さんの言うとおり即答は出来なかった。だってさ?ブラックアウトに行くってことは、自由同盟を辞めるって事だ。そんな事考えたこともねーよ・・・。


「ちょっとダーク!聞いてるの!?」


 里奈の怒鳴どなり声で自分の世界から強引に引き戻された。


里奈「今日はここまでにする?ってさっきから聞いてるのに!」


真司「悪い悪い。考え事してた」


桐菜きりな「真司君今日具合悪かったりするんじゃないの?」


 千隼ちはやさんの中の人である桐菜さんが心配をしてくれる。


燈色「そういえば、今日のお昼休みもぼーっとしてた」


里奈「え?そうなの?大丈夫なの?」


真司「いやいや、具合悪かったりとか全然ないから!ごめんごめん、ちょっと考え事してただけだ」


 いかんいかん、みんなに心配かけてしまう所だった。


 ところで見てもらえるとわかると思うが、この前から千隼さん(桐菜さん)もスカイポに繋げて会話するようになった。


 で、思い出したんだが、俺と里奈が姉弟だってのを隠すためにスカイポを始めたのに、それに千隼さんを加えてしまったもんだから、当初は里奈の奴が俺の事を「真司」と呼びそうになったり、俺が里奈を「姉貴」って呼びそうになったりと、そりゃあ大変だった。


 まあ、その分、楽しさも倍増したから結果オーライだけどね。ちなみに利公りくの奴にはこの件はまだ話していない。最初は速攻で話して悔しがらせようと思ったんだが、女性陣ばかりのスカイポに自分も加わりたいとか暴走しそうだったので、しばらく黙ってることにしようと思う。


 さて、狩りもお開きになって、スカイポも皆が切断したのを確認した俺は、ある人にスカイポのコールを送っていた。もちろん、ブラックアウトに誘われた件を相談するためだ。


桐菜「もしもーし、真司君どうしたの?」


 俺が相談の相手に選んだのは千隼さんだった。なんで団長や姉貴、もしくは燈色じゃ無かったのかというと、団長は絶対俺の背中を押してくれると思ったんだ。俺が大規模なバトルをやりたいと知ったら、恐らく快く送り出してくれるだろう。


 里奈や燈色もそうだ。里奈の奴は散々文句をたれると思うんだが、最終的には俺の背中を押してくれる。燈色も同じだろう。


 姉である里奈、リアルでも親しい燈色、そして俺を自由同盟、さらにはブラックアースに誘ってくれた団長、まあ、俺のわがままを聞いてくれちゃいそうな気がするんだよ。


 でも俺が欲しいのは客観的な意見なんだ。なので、俺が親しくさせてもらってる人達の中で、唯一ずばっと言ってくれそうなのが千隼さんに連絡したんだ。


真司「実はですね・・・」


 俺は前置きもあまりせずに、ブラックアウトから勧誘を受けていることを話した。


桐菜「なるほどねえ。ブラックアウトからお誘い受けるなんて凄いじゃない!」


真司「いやあ、どうですかねえ」


桐菜「で、真司君はどうするつもりなの?」


真司「正直悩んでます」


 さっきも言ったけど、ブラックアウトに入るって事は、自由同盟を抜けなきゃいけないわけで、そりゃあ即決できないよ。


桐菜「そっかあ。まあ、難しいよね、決断するのは」


 それから桐菜さんは「私の体験で悪いんだけど」と、前置きしてから、話を始めた。


桐菜「私ね、シャイニングナイトやめたじゃない?」


真司「はい。ワールドと考え方が違ってきたって言ってましたね」


桐菜「そそ。でもね?私の一番の目標が「要塞バトルでNo1になる」って事だったら、たぶん、シャイニングナイトを辞めることは無かったと思うの」


真司「え?」


桐菜「だって、バトルで一番になるんだったら、ワールドのやり方は効率がいいもの」


 ああ、それは確かに・・・そう言えるかもな。確かにあいつのやり方は気に喰わないけど、その方法でシャイニングナイトはサーバーでも1,2を争うバトルギルドになったんだ。


桐菜「けど、私の一番やりたかったのはそれじゃないの。真司くん、私がやりたかった事、あの時なんて言ってたか覚えてる?」


真司「確か・・・」


 確か千隼さんは、「やるならなんでも一番に楽しみたいって」これが、千隼さんが言ってたことだったと思う。つまり最大限に楽しく遊ぶって事だ。


桐菜「ピンポン大正解♪ちゃんと覚えててくれてお姉さん嬉しい!」


真司「ははっ」


桐菜「だからね?「自分が一番やりたいことを優先したかった」から、だからシャイニングナイトを辞めたの」


 俺は今までずっと、千隼さんがシャイニングナイトを辞めたのは、ワールドのやり方に賛同できなかったからだと思ってた。もちろんそれもあるだろうけど、本当の理由は、自分が一番やりたいことをやれる環境が欲しかったんだ。


 だからシャイニングナイトを辞めて、団長と一緒に、自分がやりたいことを叶える事のできる自由同盟を作った。そういう事だったんだ・・。


桐菜「真司君も一緒だと思うよ」


真司「え?」


桐菜「ブラックアウトに行くことが、自分が本当にやりたいことを叶える上で、一番の方法だと思ったらそうすれば良いと思うの」


 たぶんそれが一番後悔しない方法だと思う、と千隼さんは最後に付け加えた。


 俺がやりたい事・・・・。そう聞いて思い浮かんだのは、団長にブラックアースに誘われた時の事だった。


 ネカフェで団長のプレイを見ていたら「興味あるの?」って聞かれたのがきっかけだった。それから自由同盟に入って、当時は姉とは知らずにエリナにゲームの事色々と教えてもらって、その事を利公に教えたら俺もやる!って言い出してすぐに投げ出して(笑)


 そしてオフ会でエリナが姉貴だって判明して一悶着ひともんちゃくあって、今度は燈色とトラブったけど、今じゃ姉貴とお泊り会するくらい仲良くなって、そしてグラマンや千隼さん達の過去も知ることが出来て、そして最近では、コボルト要塞でだけど、バトルにも参加するようになった。


 今考えると、すげえ楽しい時間を過ごしてきたことがわかる。そりゃ、嫌なこともたくさんあったけど、それを補ってなお余りある経験だったと思う。


真司「はははっ」


桐菜「お、どうしたのかな?」


真司「いえ、すんません。なんか、ゲーム始めた頃のこと思い出しちゃって」


桐菜「そっか」


真司「あの桐菜さん、色々アドバイスもらっといてあれなんですけど」


桐菜「ん?」


真司「なんかもう、俺、答え出ちゃってたみたいです」


桐菜「そっか」


 千隼さんはそれだけ言うと、結論については聞いて来なかった。なぜなら、それは俺だけがわかっていれば良い事だって知ってるからだろう。


桐菜「じゃあ少年、健闘を祈ってるよ!」


真司「なんですかそれ」


 最後はお互いに笑い合ってスカイポを終了した。あ、もちろんちゃんとお礼はいったよ。すげえ参考になったからな。


「さて、明日は黒乃さんに返事しなきゃな。」

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