第40話 ローザ要塞の会議室で

 エバーに呼ばれて要塞内に入ったまでは良かったものの、会議室がある場所の詳細を全く聞いてないものだから、要塞内の人に聞きまくるはめになっちまった。許可証をエバーからもらってたんで、不審者として扱われることは無かったから良かったんだけどね。


エバー「よ、来たか」


 要塞内に居た親切な人に案内されてやってきた会議室には、一足先にエバーラングが到着していた。


ダーク「来たか、じゃねーよ!会議室の場所くらいメッセに書いといてくれよ・・・。」


エバー「あれ?書いてなかった?悪い悪いw」


 こいつ全く悪いとか思って無いんだろうなあ。いやまあ、俺も別に本気で怒ってるわけじゃないんだけどね。一応のお約束って奴だ。


ダーク「で、用って何?」


エバー「あー、もうちょい待ってくれる?」


ダーク「ん?」


エバー「いや、正確に言うとさ、お前に用があるのって俺じゃないんだよ」


 へ?俺、ブラックアウト内に知り合いとか居ないのに、一体誰が俺に用があるんだ?と、エバーに聞こうとしたその時、会議室のドアがガチャリと開いた。


「いや、済まない、遅くなった。ラブさんとの話が長くなってしまってな」


 そう言いながら会議室に入ってきたのは黒乃水言くろのみことさんだ。ブラックアウトの剣士で、サーバーでも3人しか居ないレベル100プレイヤーのうちの一人だ。


ダーク「え?もしかして俺に用があるのって、黒乃さんですか?」


黒乃「ああ、悪かったな、急に呼び出したりして」


 そして、部屋の真ん中にいる俺とエバーの前まで歩いてきた。レベル100プレイヤーの人が一体俺に何の用があるって言うんだ?全く想像が付かないんだが・・。


黒乃「しかし、あのお兄ちゃん大好き!ギルドのマスターのラブさん、相当熱心な勉強家だよ。今日は時間が無いと言ったら、後日おうかがいしてもいいですか?って言われたよ」


エバー「へえ、さすが短期間でカルニスクをホーム要塞にしてきただけはありますね」


黒乃「だな」


 なんか新しいライバルの出現に、黒乃さんもエバーも嬉しそうだ。しかし黒乃さんの口から「お兄ちゃん大好き!」なんて言葉が出てくると、違和感が半端ないな。


黒乃「おっとすまないダーク君。今日はお疲れだったな。どうだった、ローザの要塞戦は」


ダーク「そりゃもう、コボルト要塞とは迫力が全く違いましたよ!」


 だって、防衛に参加している人数の数からして文字通り桁違けたちがいだったからな。それプラス、攻め側の人数が加算されるわけで、そりゃもう、本当の要塞戦ってのはこういうのを言うんだろうってのを、身を持って教えられた気分だった。すげえ興奮したよ。


黒乃「そうかそうか、思い切り楽しんでくれたようで何よりだ」


 そう言うと、しばらく考える素振そぶりを見せた後、黒乃さんは再び俺に話しかけてきた。


黒乃「他に何か気付いた事はないか?例えば、我々の防衛スタイルについてだとか・・・」


ダーク「防衛スタイル・・・つまり陣形とかですか?」


黒乃「そんな所だ」


 いや、急にそんな事聞かれても、要塞戦のプロみたいな人達に言えるような事なんて何も無いんだけど・・。


ダーク「えっと、特に気付いた点とかは・・・」


黒乃「なんでもいいぞ。自分だったらこうするとかな」


 俺だったらこうする・・・か。うーん、実は一つだけブラックアウトの陣形見て思ったことはあるにはあるんだけど、言ってどうするもんでもないしなあ。


エバー「ダーク、水言みことさんはお前の意見が聞きたいだけなんだから、そんな考えこまなくていいぜw」


 「エバーの言うとおりだ」と黒乃さんはうなずく。まあ、最初から、俺の意見で陣形がどうなるもんでも無いってのはわかってるんだけど、素人のアイデアを披露ひろうするのが恥ずかしいってのがあるんだよ。


ダーク「えーっと、素人考えなのでお役に立てるかどうかはわかりませんが・・・」


黒乃「構わんよ。ぜひ聞かせてくれ」


ダーク「防衛するときって、剣士を4人横に並べて、それを門からウォールに向かって10列くらい作りますよね?」


黒乃「うむ」


ダーク「それを、3列くらいに抑えられないかって思ったんですよ」


黒乃「ほお・・・」


 俺が言った案はこういうものだった。通常、4人×10列ほど剣士を門に並べてるんだけど、それを4人×3列くらいに減らす。そして、門に向かってカタカナのコの字型に残りの剣士を並べ、そのさらに外側にアーチャーをコの字に並べるという提案だった。つまり門に対して「くぼみ」を作る形だ。


黒乃「ほう、コの字型のくぼみか。その理由は?」


 俺がこの陣形を考えた理由は、この方法だと、仮にシャイニングナイトのようにアーチャーが門内に侵入してきたとしても、くぼみの右側や左側から、門に侵入したアーチャーの側面にむかって攻撃が出来る利点がある。


 側面攻撃は正面に比べて被ダメージ率が上がる。なので、戦いを有利に運ぶことが出来ると思うんだ。しかもアーチャーは被ダメージ率が剣士より高い。なので、正面からの攻撃より相手を撃破しやすいと思ったんだ。


黒乃「ふむ。側面からの攻撃ダメージが高いことを利用した陣形か」


ダーク「はい。さらに、左右のヒーラーを攻撃する相手には、背後から狙えるメリットも増えるんじゃないかと」


黒乃「なるほどな」


 黒乃さんは何やら満足気に頷く。えっと、今の意見で良かったんだろうか?正直俺が思いつく作戦なんか、とっくに実行してるだろうとしか思えねーよ。


黒乃「エバー、お前の言うとおりだったな」


エバー「でしょ?こいつなら絶対何か考えてると思ったんですよ」


 え、どういうこと?なんか二人の会話を聞いてると、俺が何らかの提案を考えているのをわかってた上で、俺にそんな質問をしてきた風に聞こえるんだけど・・・。


ダーク「えっと?」


黒乃「いや、すまないな。実はエバーから、コボルト要塞での話を聞いていてな」


 頭の中が?マークだらけの俺に、黒乃さんは、今日俺をここに呼んだ理由を説明してくれた。


黒乃「エバーから聞いたんだが、コボルト要塞戦で、ウォール付近での戦い方を提案したのは君らしいじゃないか」


 黒乃さんが言っているのは、この前途中でブラックアウトに乱入されて、コボルト要塞戦らしからぬバトルになった時の事だろう。ブラックアウトが来る前に俺達がやってた作戦だった。


 確かに、まずはヒーラーを倒して、それから剣士、最後にアーチャーをってのは、俺が考えた作戦だった。だって千隼ちはやさんが、せっかくバトルに参加するんだからダーク君が考えたら?とか言って、作戦立案を丸投げしてくるんだもん。俺としては経験者の千隼さんメインで考えたかった所ではあったんだけど。


ダーク「はあ、ですが、あの戦闘を仕切ってたのはほとんど千隼さんですし、ぼくは本当にウォール周辺のちょっとの時間だけですよ」


エバー「あの千隼って人は特別だよ。ブラックアウトでもあそこまで出来る奴はそういねーぞ?」


 え?そんなにか?どんだけ凄いの千隼さん・・・。


エバー「まあ、彼女の事は今日は置いとくとして」


黒乃「今日は君の話をしているんだよダーク君。大体、コボルト要塞の時君は、まだ要塞戦を1回しか経験してなかったそうだな」


ダーク「はあ、確かにあれが2回目の要塞戦でした」


 エバーの奴、俺が話したことをほとんど黒乃さんに言ってるんじゃねーのかこれ。


黒乃「実はな、さっき君が提案してくれた陣形だが、実は2回目のシャイニングナイトとの戦いで実践に使ってるんだ」


 ほらなあああああ!絶対そうだと思ったんだよ。俺なんかが思いつく戦術なんか、バトルギルドの人達が思い付かないわけがないもん!


黒乃「しかしだ。我々が君のその案に最終的にたどり着くまでに1ヶ月かかった」


ダーク「・・・・え?」


黒乃「君がさっきの戦闘を見ただけで思い付いた戦術に、我々は1ヶ月かかってるんだ。この意味、わかるだろ?」


 ええ!?俺がついさっき思い付いたあの戦術にたどり着くまでに、1ヶ月かかったって・・・。しかも、あのブラックアウトが・・・。


黒乃「あまり回りくどい言い方は好きでは無いので、端的に言おうと思う」


 黒乃さんはそう言うと、俺の前まで歩いてやってくる。


黒乃「ダークマスター、君をブラックアウトギルドに迎え入れたい」

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