第四章 本当にやりたい事?

第31話 大反省会

 俺の現在の状況を説明したいと思う。


 俺の部屋で、俺の右手を両腕でがっちりホールドして密着状態にあるのが、俺の高校の後輩であり、オンラインゲーム「ザ・ブラックアース」のギルド「自由同盟」の同僚である「古名燈色ふるなひいろ」だ。


 そして俺の左側で、これまたぴったりと密着状態でひっついているのが俺の姉「黒部里奈くろべりな」だ。ゲーム内では、仮の恋人同士である。あくまでも(仮)な。


 そして、そんな俺達を真正面から、羨望せんぼうの眼差しでにらみつけているのが、俺の中学からの友人「火雷利公からいりく」だ。歯ぎしりが聞こえてくるんじゃないかってくらいの感じで、俺達を涙目で見ている。


「ずるいぞ真司!なんでおまえだけそんな良い目にあってるんだよ!」


「まあ落ち着け。これは不可抗力だ」


 なんでこんな状況になったんだっけ?


 事の発端ほったんは、先日行われた「コボルト要塞」での要塞バトルで、ボロボロの状態で、無残にも敗退してしまったことだ。


 詳細は後で述べようと思うが、そりゃもう練習用要塞の名にふさわしく、スタートから5を超えるギルドがスタンバっており、ハッキリ言って1時間何をやってたか思い出せないくらい混乱した状況が続いていた。


 で、気がつけばバトルの制限時間の1時間が終了して、その時点で要塞を所持していたギルドが勝利者となっていた。もちろん俺達では無いことはわかってもらえると思う。それで、姉貴の提案で週末を利用して、「反省会」をしようじゃないか、という事になったんだ。


 俺と姉貴だけじゃ当事者視点でしか語れないので、見学していた緋色に俯瞰的ふかんてきと言うか、客観的な視点からの意見も聞きたいとのことで、姉貴の友達が遊びに来たという体で、反省会に参加してもらっていた。


「で、俺としてはとにかく突っ込むことしか出来なかったんだけど、ああいう場合、どういう行動が正解だと思う?」


「あれは、突っ込む以外の選択肢があったら教えてほしいくらいね。それよりも、問題は私のヒールの精度が問題ね・・・」


 「はあ」と溜息をつく里奈が、珍しく弱音を吐いている。


「あの混雑の中で正確にヒールをするのはちょっと無理なんじゃないかと・・。千隼さんも「あんなの無理」とか言ってましたし。」


 俺も燈色の意見に賛成だぜ。と言うか、タゲ合わせの名手の千隼さんでも無理ですか・・。


 要塞バトルは、防衛側と攻め側に分かれてまずはスタートする。攻め側は、要塞内にあるウォールと呼ばれる防護壁ぼうごへきを破壊して、その中にある「クリスタル」を取ることで、要塞をゲット出来るんだ。


 で、クリスタルをゲットしたら瞬間から、今度は攻め側が防衛側になって、時間までウォール、又はクリスタルを防衛できれば勝利となる。逆に、最初防衛側だったギルドが、1時間ずっとウォールを守りきれば、防衛側の防衛成功となる。守り切れなければ攻撃と防衛が逆になり、また繰り返しとなる。


 説明だけ聞くと簡単に聞こえるが、コボルト要塞の場合練習用要塞と言われるだけあって、大小の様々なギルドがバトルに参加する。このまえのバトルでは、最終的に10以上のギルドがコボルト要塞のバトルに参加していた。


 なので、ウォール周辺では、様々なギルドが入り混じって戦闘を繰り広げており、ただでさえ狭いコボルト要塞内で俺に確実にマウスのカーソルを合わせてヒールを掛けるのは至難の業だったと思う。


「うーん、やっぱり確実なのは、バトル終了間際に攻め込んで、クリスタルをゲットするのが効率良いんじゃないの?」


「いや、それだとさ、バトルに参加する意義とかなくね?」


「う、うーん、そう言われるとそうなのよねえ・・・。」


「せめて、もう少し人数が居ればなんとかなりそうな気はするんですが」


 そして3人で「う~ん」と悩みだすのである。さっきからこれの繰り返しだった。


「はい、おやつ持ってきたわよ~」


 突然お袋が来襲らいしゅうしてきた。いや、絶対来ると思ってたけどな。


 普通、子供の友達が家に遊びに来て、親がおやつを持ってきたりするのは特別珍しい事ではないと思う。だがお袋は、以前この家に緋色がやって来たのを見た時、つまりワールドとの話し合いの時に、里奈の友人と聞いていたのに、俺とも親しげに話しているのを見逃さなかった。


(え?お姉ちゃんの友達って言ってたけど、年齢も若いみたいだし、もしかしたらお姉ちゃんの友達ってのはフェイクで、実は真司とラブなの?)


みたいな、興味津々な目で俺達を見ていたのを俺は覚えている。なので、おれはこの機会にわざとらしくない感じで緋色を紹介する。


「おふくろ、この前も紹介したけどさ、古名緋色さん。姉貴の友達なんだけど、実は俺の高校の1学年後輩になるんだよ。このまえ偶然中庭でみかけてびっくりしたんだけどね」


ペコリ、と頭を下げる緋色。どうだ!完璧だろう。これで変な勘ぐりとかされないで済むはずだ。


「あらあらあら、じゃあ学校ではいつも一緒なのね」


「なんでだよ!」


 あ、ついムキなって反論しちまった!どんだけお袋の脳内はピンク色のお花畑なんだよ・・・。だから家に女の子の友達とか連れてくるの嫌なんだ。


「やだ照れちゃって。じゃあごゆっくり~」


 すっげえニヤニヤしながら部屋を出て行きやがった。まあでも、おふくろも去っていったし、持ってきてくれた菓子とジュースでも飲みながら、反省会の続きをしますかね。


 っつーか、緋色の奴なんで顔真っ赤にしてんだよ・・・。そして里奈の奴は、なんで俺をめっちゃ睨んでるの・・・・?


「ピンポーン」


 と、そこで家のチャイムが鳴った。一瞬だが、燈色と里奈もそっちに気を取られれている。これは話題をそらすチャンスだ。


「あ、あーそういえば、燈色は今日里奈の部屋に泊まるんだったっけ?」


「うん、そう。直にヒーラーの操作方法とかみせてもらうの。あと、ゲーミングキーボードとマウスも見せてもらおうと思って」


 そういえば、里奈のやつ、この前から奇術師をやるんだったらゲーミングキーボードがオススメとか燈色に言ってたな。俺もよく知らんけど、よく使うコマンドをキーに設定する機能があるらしく、複数のコマンドを1個のキーに設定しとけば、イチイチコマンド入力しなくても良いらしい。便利なもんがあるよな。


「まあ、絶対必須というわけではないけど、パーティープレイの時には役に立つわよ」


 剣士の俺でもかなり便利らしいんだけど、今のところ間に合ってるので俺はいいかな。


「じゃあ、ちょっと見てみる?」


 そう里奈が燈色に話しかけた時だった。


ドタドタドタドタ、バタン!


 いきなり廊下と階段を走ってくる音が聞こえたかと思うと、物凄い勢いでドアが開いた。そこに居たのは俺の中学からの友人「火雷利公からいりく」だった。こいつは部屋のドアを勢い良く開けると、俺達を見て驚愕きょうがくの表情を見せながらこう言った。


「おい真司!お前彼女が出来たって本当だったのかよ!」


「はあ!?ちょっと真司!そんな話聞いてないわよ!」


 それを聞いた里奈が利公と一緒に俺に詰め寄ってくる。


「俺だって初耳だよ!」


 いつどこで俺に彼女ができたんだ!?てか、利公の奴何いってんの?


「現に今、お前の腕にしっかり、う、う、腕をからませてるじゃないかああああああ!」


 利公は俺を指差しながら叫んだ。はあ?こいつ何言って・・・


「ちょ!ちょちょちょちょ!燈色さん燈色さん何してらっしゃるんですか?」


 気が付くと、燈色が俺の腕に「ひしっ」としがみついていた。よく見ると、「何この人!?」と言った感じの表情で利公の事を見ている。


 燈色の奴、いきなり凄い剣幕で部屋に入ってきた利公にビビったようだ。さっきから「なんですか、この人怖い」と小声で俺に訴えている。


「あー、利公。この女の子は、お前も知ってるだろう?時々屋上で俺と一緒に飯を食ってるだな・・・」


 ふにょ


 俺が利公に説明していると、今度は左側に何やら柔らかい感触。


「おい里奈、お前何してんの?」


気付くと今度は里奈が、俺の左側にぴったりとひっつくように陣取っている。


「ずるいぞ真司!なんでおまえだけそんな良い目にあってるんだよ!」


「まあ落ち着け。これは不可抗力だ」


 そして今に至るわけだ。


 興奮気味に俺に問い詰めてくる利公をなだめつつ、燈色は彼女ではなく、「ザ・ブラックアース」のギルド「自由同盟」のギルド員で、今日はバトルの反省会に来ているのだと言うことを説明してやった。


 あと、利公がえらい剣幕で部屋に入ってるから、燈色はびっくりして俺の後ろに隠れたんだよとも説明する。じゃないと後で色々面倒だからな。と言うか、今でも利久から距離を取ってるけどな。


 あ、忘れてるかもしれないけど、火雷利公、こいつも「自由同盟」ギルドのメンバーなんだ。幽霊だけどね。


「なんだ、そう言う事は早く言えよ~。俺勘違いしちゃったじゃねーかあ」


 さっきまでとは打って変わってご機嫌で話しだす利公。以前からお友達になりたかった燈色とお近づきになれた・・・かどうかはともかく、一緒の部屋でだべることが出来て嬉しそうだ。現金なやつだぜ。


「だってさ?さっきお前の母ちゃんが、「今真司の彼女がきてるのよ~」とか言うからさ~」


 あんのババア!余計な事言いやがって!絶対勘違いしてると思ったけど、やっぱそうだったか!おかげでなんか知らんけど、里奈の機嫌まで悪くなるし、後できちんと言い聞かせておかないとな!


 燈色の方は相変わらず俺の斜め後ろ後方で、利公とは若干距離を置いてるのは気にしないでおこう。こいつはまだ利公のことが怖いらしく、俺のシャツの裾をずっと握ってるんだよ。まあ、ただでさえ人見知りなのに、あんなガンガン来る奴は苦手に決まってるよな。


「で、今日はお泊りパーティーするってわけか」


「お前は何を言ってるんだ。パーティーなんかしねーよ」


 利公の言葉に、つい突っ込んじまった。今日の燈色の目的は、里奈のプレイを直接見て勉強することだ。ゲーミングキーボードも触ってみたいらしいしね。なので、お前が考えてるような楽しく女子会みたいな雰囲気ではないぞ。


「よし!じゃあ俺もお前の部屋に泊まる!」


「・・・へ?」


 この部屋にいた、利公以外の全員が「こいつ何言ってんの?」みたいな顔になっていた。

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