第29話 千隼とグラマンと・・・

 色々文句を言いながら俺をスリッパで叩いている姉貴と、それをおろおろしながら見ている燈色ひいろ


 それなりに賑やかな俺の部屋とは対照的に、シャイニングナイトとの話し合いが行われた会議室では、後味の悪い感覚だけが残っているように思えた。


 今さっき、あの刹那せつなって奴も部屋を出て行ったところだ。何も言わずに無言で部屋を出て行ったけど、まあ仕方ないと思う。何しろ、除名を宣言されて言い訳する暇も与えられなかったからなあ。


 こっちとしては、ただ単に謝罪と訂正の言葉が欲しかっただけなんだけど。


「申し訳ない」


 そんな沈黙ちんもくを破ったのは、グランドマスターことグラマンだった。同じシャイニングナイトの看板を背負うものとして、ギルドマスターのあの態度は申し訳無いと思ったんだろう。


千隼ちはや「グランが謝る事じゃないわよ。いつも通りのだったし」


 なんか千隼さんの言葉の語尾から、ため息が見えるようだぜ。


 あ!そういえば、千隼さんが元シャイニングナイト所属だったって話もあったんだ。うーん、今このタイミングで聞いてよい物かどうか悩むな・・・。とか思ってたら、


千隼「あ、そういえば、私が元シャイニングナイトだって話、してなかったね」


 俺が色々と悩んでいると、千隼さんのほうから切り出してくれたので、正直助かった。


真司『おい里奈、千隼さんがシャイニングナイト時代の事話してくれるみたいだぞ』


 俺を叩くのにも飽きて、燈色と「あいつムカつくよねー」などと話していた里奈にそう教えると、ダッシュで俺のPCのとこまで来た。


真司『おい、顔近い!顔近いから!』


里奈『仕方ないでしょ!こうしないとPCモニターが見えないもん』


 そう言って、里奈は顔をぐっと近づけてくる。


真司『おい燈色、お前もひっつき過ぎだから!』


燈色『今なら完全合意の元、現役JKにくっつき放題でラッキーですね』


 そんな事を言いながら、こちらもぐっとモニターに顔を寄せてくる。こいつ何言ってんの!?てかこいつら、俺の事全く男扱いしてやがらねえ。くそー今に見てr・・・いや無理だな、うん。


 そんな馬鹿なやり取りをしていると千隼さんが過去の事について話し出した。


千隼「あのね?私がシャイニングナイトに入ったきっかけは、ブラックアウトって言うギルドの要塞防衛戦を見学しに行ったのがきっかけなの」


 今から3~4年前、ギルドあちこちとふらふら渡り歩いていた千隼さんは、自分とは全く無縁だった「要塞戦」をやってる場に偶然出くわして、興味本位で見学ゾーンに入ったらしい。


千隼「で、そこで偶然同じように見学していたのが「グラマン」と「ワールド」だったの。3人共、名前にマスターが付いててね、そりゃもうすぐに仲良くなったの」


ダーク「えっと、3人のマスターって、グラマンとワールドとあと誰です?」


 里奈と燈色も同じように感じていたらしく、燈色に「ナイス質問です先輩」とか言われた。いや、そんなんで褒められるとか、お前の中でどんだけ俺の評価は低いんだ・・・。


千隼「あ、えっとね?私その頃は「シャイニングマスター」ってキャラだったんだ」


 ああ、なるほど・・・って!ええ!?千隼さんもマスターが付いてたのか。なんか急に親近感が倍増したぞ俺の中でw


燈色『先輩が居れば完璧だったね』


 燈色のその言葉に肩を震わせながら里奈のやつが笑ってやがる。笑う所と違うだろうが・・・。


グラマン「それで、3人共ギルドには入って無かったので、一緒にギルドを作ろうという事になったんでしたな」


千隼「そうそう、懐かしいね!」


ダーク「え?もしかしてシャイニングナイトを作ったのって、千隼さんとグラマンとワールドの3人なの?」


グラマン「うむ」


 おいおい、千隼さんが昔シャイニングナイトだったって話を聞こうとしたら、とんでも無い話を聞いちゃったよ。サーバーでも1,2位を誇るバトルクランの創設者が、目の前にいるふたりって、予想もつかねーよ。


千隼「ほら真司君、グランのシャイニングナイトの紋章見てよ」


ダーク「紋章ですか?」


 俺はすでに不本意ながら何回も目にすることとなった、シャイニングナイトの紋章をチェックした。まぶしい光を背景に、3人のナイト達が剣を掲げているカッコいい紋章だ。


千隼「ふふ、これね?グラマンが作った紋章なのよ」


 「「「ええええええええええええ!」」」


 俺と姉貴と燈色の絶叫が、俺の部屋の中に響き渡る。あんなカッコいい紋章を、この面白ロールプレイ野郎が作っただと・・・・・?


グラマン「誰が面白ロールプレイ野郎だ!」


ダーク「あれ?なんで考えてる事わかったの?」


団長「ダーク君、もう完全にわざとだよねそれw」


 団長が笑いながら俺に突っ込む。あー良かった。やっと団長喋ってくれたよ。さっきからずっと黙ってたから気になって仕方なかったんだよ。


千隼「でね、真ん中の剣士、これモデルは私なの」


 ああ、言われて見れば、なんか女性のフォルムだわこれ。


千隼「でね、右がグランで左がワールド」


ダーク「ああ!つまり、3人の創設者を紋章にしたって事ですか?」


千隼「いえーす♪」


 なるほどねえ。しかしグラマンにしちゃあよく考えられた紋章だわ。あ、今度は口に出さなかったからね。


あれ?ちょっと待てよ?ギルド名がシャイニングナイトって事は・・・。


ダーク「ギルド名って、千隼さんの名前から取られたんですか?」


千隼「お前が言い出しっぺだから自分の名前から取れって、ワールドに言われてねw」


 なるほどねえ。確かに、ワールドナイトやグランドナイトより、シャイニングナイトの方がカッコいいし、しっくり来てるかも。


千隼「まあでも・・・」


 千隼さんは一呼吸置いてから、話し始めた。


千隼「結構すぐに、ギルドはバラバラになっちゃったんだけどね」


グラマン「ですな」


 最初の頃は、ギルドメンバーの勧誘やら、バトルの作戦立てやらで、忙しいながらも充実した日々を送っていたらしい。


 だけど、それぞれの考え方が決定的に違う3人がバラバラになってしまうのは結構簡単だったようだ。


 千隼「グラマンはギルドの人間関係をとても大切にする人だし、私は、やるならなんでも一番に楽しみたいって人だしね」


 そう、グラマンは「楽しむ為に」人間関係を重視し、千隼さんはなんでも一生懸命やることで「楽しもう」としていた。


 なのでこの二人は、ギルド内でも割と仲の良い良好な関係を築いていたみたいだ。所がワールドは、当時最強と言われていた「ブラックアウト」打倒に闘志を燃やし、強くなる為だったら、多少の事にも目をつむる、そんなスタンスを取るようになっていたのだという。


 まあ、さっきのワールドを見てたらそれは理解できる。なんか、弱い奴には用はねえって感じだったもんな。自由同盟の事も完全に見下してたし。


千隼「ワールドとの亀裂きれつが決定的になったのが、彼が私のレベルを追い越した時だったかな」


 千隼さんが、ギルドの新規加入メンバーにギルドに馴染んでもらうために、数人のギルドメンバーと、ギルドイベントの企画について話し合っていた時に、ワールドが放った一言。


「そんな下らない事が、ギルドを強くするのに何の役に立つんだ?」


千隼「あの一言で、もうシャイニングナイトを辞めようって思ったの」


グラマン「私もあの場にいたんですが、その場が凍り付いたようでしたな」


千隼「で、すぐにシャイニングナイトを脱退したの。団長と一緒にね」


 なるほどねえ。確かに、千隼さんのプレイスタイルは、レベル上げも手を抜かないけど、それよりも皆と一緒に遊びたいって気持ちの方が前面にでている感じだもんな。そりゃあ、ワールドとは合わないはずだ。


 あれちょっと待て?今なんか大事なことをさらっと言わなかったかこの人・・・・?


ダーク「え?ちょっと待って!団長と一緒に脱退って、え?えええええ!?」


団長「ふふん、何を隠そう、僕も元シャイニングナイトなんだよ」


 そう、胸を張って(張ってるように見えたんだよ)答える団長を見ながら、今日は何回驚かされれば済むんだよ等と、PCモニターを見ながら考えていた。


 里奈と燈色もぽかーんとした顔をしている。そりゃそうだよなあ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る