第15話 なんでこうなっちゃうの・・・

 静まり返る「自由同盟」のギルドチャットを前に、俺は何をしなけりゃいけないかをすげえ考えてる。


 たぶん、今一番やらなきゃいけないのは、姉貴の発言が「センジンさんに向けた発言では無い」と言うことを、センジンさんとギルドメンバー全員に理解してもらうことだろう。


 とりあえず、一旦いったん街に戻ってから説明したほうが良いと思った俺は、グラマンへは「ちょっと戻る」とだけ言って、すぐに近場の街へとテレポートした。


アッキー「ダーク君、どうしたの?何かあったの?」


 明海あけみさんが、その場(ギルドチャット)の雰囲気に耐えかねたのか、今のエリナの発言に関する説明を遠回しに求めてきた。


 通常こういうトラブルが合った場合は、明海さんの旦那であるギルドマスターの団長が上手い具合に場をまとめちゃうんだけど、あいにく今日はログアウト(お出かけ)してしまった後だ。


 なので明海さんが説明を求めてきた事は大変助かる。俺から言い出すと、なんか言い訳っぽく聞こえるからな。


 しかし、ここでの説明は大変重要だ。さっきも言ったけど、センジンさんだけでなくギルドメンバーも納得できる言い訳を言う必要がある。


 普通なら、「緋色ひいろが悪いんです」で済ますところだが、さっきのは、燈色としては姉貴に助け舟を出したつもりだったからなあ。あいつに責任をなすり付けるのはなんか違う気がする。


 それに、燈色には少し俺の方で思う所もあるんだ。なので、ここで燈色の評判を落とすような発言はしたく無かった。


 そこで俺は


ダーク「あー、実はグラマンが狩場にきてまして・・・・。それでエリナ師匠が誤爆チャットやらかしました。」


 とだけ言った。


「ああ!グラマンかあ・・・・」


 と、ほぼ全員が納得の自由同盟のギルドチャット。

 すまんグラマン。お前は悪くないが、いやちょっとは悪いが利用させてもらったぜ!


 グラマンは俺達だけでなく、自由同盟ギルドのメンバーとも面識がある。なので、あいつの鬱陶うっとおしい立ち振る舞いはみんな経験済みなのだ。


センジン「あ、でも、僕が狩りに一緒に行きたかったって言ったら、好き好んで行きたくない!って言われたけど・・」


 文面から、センジンさんが今にも泣きそうな感じで訪ねてくる。そりゃ、ギルドチャットだけを見れば、自分が言われたようにしか見えないよなあ。


ダーク「それに関しては、直前にグラマンも同じ発言してまして・・・。それに対してブチ切れて誤爆しちゃったと言いますか・・」


 本当は燈色にブチ切れたんだけどな。許せグラマン。


ダーク「で、エリナ師匠、ちょっとパニクっちゃたみたいで・・・」


千隼「それでログアウトしちゃったんだ?可哀想かわいそうなエリナちゃん・・・」


センジン「じゃあ、僕が原因では無いってことでいいの?」


ダーク「センジンさんは悪く無いですよ。むしろ被害者ひがいしゃでしょ」


センジン「そっかあ、良かったよ~。なんか怒らせちゃったかと焦っちゃった」


 よっしゃ!どうやら、ギルドメンバーへの言い訳は成功したみたいだ。一気に和やかムードが戻ってきたぜ。


ダーク「エリナ師匠には俺から連絡しとくんで、任せといて下さい」


アッキー「おお、さすがダーク君。いとしのエリナちゃんの為ならなんでもする覚悟だね!」


 何でもはしないけどな!あと、「愛しの」とか言われるとまじ気持ち悪いからやめて欲しい。


センジン「え?ダーク君、エリナちゃんの連絡先知ってるの?」


アッキー「この前のオフ会で、チョー仲良くなったんだもんねー」


ダーク「え?あー、えっと、まあそうですね」


 うええ、明海さんまた余計なことを・・。実はエリナは姉貴で、連絡先なんか元々知ってて、オフ会では軽くめてました!とも言えず、俺は適当に同意しとくしか無かった。


センジン「そうなんだ・・・」


 あれ?なんか心なしか、センジンさんのテンションが下がったような・・・。うむむ?


 あー、それはともかく!

 今度は里奈の奴をフォローしないとな。あいつの事だから絶対へこんでるだろう。


 コンコン


 俺は姉貴の部屋をノックして、返事も聞かずにドアを開けて部屋に入った。案の定姉貴のやつ、ベッドに顔をせて泣いてやがる。


 「うを~い、大丈夫かあ」


 俺は姉貴の頭をポンポン叩きながら話しかけた。バシッと手が払われる。


 うん、思ったより元気そうだな。


 まあ、完全にパニクってた上に、あんな「暴言」をギルドチャットでかまして、しかもあの「暴言」をセンジンさんに言ったように見えてたからなあ。へこむのも無理は無いだろう。


 その上燈色のこともあるし、思ってたよりいっぱいいっぱいだったのかもな。


「姉貴、ギルドチャットで誤爆した件については、完全に誤解は溶けてるから安心しろ。」


 そう告げると、姉貴はゆっくりと顔をあげてこちらに振り向いた。あーあー、顔ぐちゃぐちゃだぜ・・。


「あの子が・・・」


「ん?」


「燈色が、あんなこと、私たちを脅したりしなければこんな事にはならなかったのに!」


 里奈の奴、階下にいる親に聞こえるんじゃないかというくらいの大声で怒鳴りやがった。まあ、それだけ色々なストレスが貯まってたって事だろう。


 これに関しちゃ俺も悪いと思ってる。燈色に対して色々思う所もあったが、しばらくは様子を見ようと思ってたんだよな。それが姉貴のストレスを増大させる可能性があった事にまでは、頭が回らなかった。


「私はただ、楽しく遊んで、そしてもっと回復役のスキル磨きたいだけなのに、なんでこうなっちゃうの!」


 そういうと里奈は、手近にあったクッションを手に取る。おい!俺をクッションで殴りつけるの止めろ!地味に痛いんだよそれ・・。


「とにかく今日はもう寝とけ。明日も大学だろ?」


 俺は里奈に就寝をうながした。あいつも疲れてたんだろう。珍しく俺の言うことに素直に従うつもりのようだ。


「もう、しばらくはゲームしない・・。あの子と一緒に狩りしたくない・・・。」


 それに対しては「そっか」としか俺は言えなかったよ。


 俺は、部屋の電気を消してから自分の部屋へと戻った。今日は色々と混乱しているだろうし、ゆっくり話すのは明日以降でもいいだろう。



 俺は部屋に戻ると、PC上に起動してあるスカイポのメイン画面を見た。


 古名燈色ふるなひいろ:オフライン


 と表示されている。


 問題はこいつだよ。今日の感じだとあいつは恐らく、もうゲームにはログインしてこない気がする。


 俺たちを脅すような奴が、今日みたいな出来事があっただけでログインして来ないとかあり得るのか?って思うやつもいるだろうけど、それについては、前も言ったが俺はある仮説を立てている。


 で、俺の仮説が正しいかどうか見るために時間をかけてしまったのが逆にいけなかった。とっとと燈色本人に確かめりゃよかったよ。


 そうすりゃハッピーエンド・・かどうかは分からないが、少なくとも今よりはマシな展開になったとは思うね。


 なんか、こんな形であいつとの接点がなくなってしまうのはちょっと残念だ。少なくとも、あいつの「本心」を聞いてみたかったんだけどな。

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