第16話 学校の中心で何かを叫んだ結果

 どんなに忙しくても、毎日ゲームにログインしていた姉貴が顔を見せないので、ギルドのみんなもかなり心配していた。


千隼ちはや「ねえ、エリナちゃん今日もログインしてこなかったね。」


アッキー「エリナちゃんいないと、お姉さんさびしい!」


 お姉さんポジションがギルド内で確立しつつある千隼さんと「自称」お姉さんポジションのアッキーさんは、毎日「エリナちゃん今日も来ないねー」とつぶやいている。


 一応、「エリナ師匠は大学が忙しいみたいです」とは皆に伝えている。これは本当なので嘘はついてない。でもまあ、主な原因は古名燈色ふるなひいろとのトラブルなんだけどね・・・。


 姉貴のやつ、自分の宣言通り、しばらくはゲームしないつもりらしい。


 普段、スマホゲーなんか目もくれなかったあいつが、「暇だから面白いアプリを教えて」と俺に聞いてきた時は、そりゃあびびったぜ。


 まあでも、今一番問題なのは、誰も古名燈色について言及しない事だろうな。


 里奈のやつは、まあ、みんなが心配してくれてるし、それを伝えりゃそのうち復帰するとは思う。


 でも、ヒイロに関しちゃ千隼さんが時々ログインして来ない事に言及するくらいで、ほとんど話題に上ることがない。


 まあ、元から誰かとつるむような奴じゃ無かったし、俺と里奈と3人で狩りに来てるつったら、みんなびっくりしてたからなあ。


 千隼さんなんか「私も一緒に行く!」って言い張ってたんだけど、それだと回復3人に剣士一人というわけのわからん構成になるので、丁重ていちょうにお断りしたんだ。めっちゃがっかりしてたけど。


 まあ、それよりも緋色だ。 


 本当ならこの前のオフ会の件で、燈色の連絡先を知ってるであろう団長に聞くのが一番いいんだろうけど、ギルド員の個人情報ともなるとそれなりの正当な理由がいるだろう。燈色とのトラブルの件はその正当な理由の中に入るかもしれない。


 けどさ、それは、俺らと燈色との間に発生した問題を団長に話さなければいけない事を意味するわけで、そうすると、燈色が俺たちを脅していた問題も自動的に話さなければいけなくなる。



「真司!真司!」


 俺がそんな事をぼんやり考えてると、友人の「火雷利公からいりく」が俺を呼んでいた。


「お前、飯食いながら何ぼーっとしてんだよ?」


「あー悪い悪い。考え事してたわ」


 今は高校の昼休み中で、俺はいつものように友人と一緒に昼飯を食っている。


 利公は中学からの友達で、実は「自由同盟」ギルドのメンバーでもある。ただ、最初方だけ遊んでからは、全くログインしなくなった幽霊部員なんだけどな。


「どうせお前の事だから、中庭で誰か可愛い子でも探してたんだろ?」


 そう言いながら、大勢の女子生徒が昼食をとっている校舎の中庭を指差した。


「お前と一緒にすんじゃねーよ」


 そう言いながらも、俺も中庭を眺める。


 うちの高校は商業系なんだが、全生徒中の7割近くを女子が占める。なので、自然と中庭も女子生徒で埋め尽くされるわけだ。利公の奴は、昼飯を食べながら中庭に可愛い子がいないかをチェックするのが日課となっている。


「お、あの子めっちゃ可愛いぞ!1年生かな?」


「おい、指差すんじゃねーよ。恥ずかしい奴だな」


 俺はそう言いながらも、利公が指差す方に視線を移してみる。


 おお、確かに可愛い!ショートカットの小柄な女の子で、学校指定の制服を違反にならない程度にアレンジしてる所なんか、ファッションセンスも良いんだろう。


 なんか、古名燈色みたいな髪型してるな。あと、背丈も同じくらいかも。顔も瓜二つじゃねーか。


 って!あれ燈色だろ!


 一見、大勢の女子生徒達の中に混ざって飯食ってるように見えるが、燈色の右側の集団と左側の集団のちょうど真ん中を位置取って、どちらのグループにも所属しているように見えるよう、見事にカモフラージュしている!


 どちらのグループからも「隣のグループの子」だと思われるから、両方から話しかけられることもなく、それでもって、多人数で食事を摂っているように見える。


 物凄いテクニックだ。いや、全然うらやましくないけど!


「悪い利公、ちょっと用事!」


「へ?」


 呆気あっけにとられる友人を他所よそに、俺は燈色のいる中庭に走っていた。この機会を逃すと・・・、いや、学校同じだから機会はいくらでもありそうなんだけど、とにかく一刻いっこくも早く話をしたほうが良いと思ったんだ。




「緋色!」


 俺は中庭に着くや否や、燈色に向かって叫んだ。


 そして、中庭で昼食をとっていた少女は俺の方へと振り向いた。





 そう、中庭で昼食を取っていた女子全員が!



 ぎゃあああああああああああああああ!


 しまった!ゆっくり近づいて、あいつにだけ話しかけりゃ良かったのに、焦ったばかりに思い切り注目を集めてしまった。これじゃ緋色とろくに話もできないじゃないか俺のばかあああああああ><


 いきなり現れて、女子の名前を叫んだ俺は、その場にいる女性と全員の視線を集めていた。「何あれ?」みたいな声が、そこら辺から聞こえてくる。


 俺は恐る恐る燈色の方へと顔を向けてみる。


 うわあ、いつもクールなあいつが、めっちゃこっち見て固まってやがる・・・。


 俺は、中庭に居る全女子生徒の注目が集まる中、古名燈色の前まで歩いてきた。女子の皆さんは、これから何が始まるのか興味津々きょうみしんしんな顔つきで俺達の方を見てる。


 めちゃくちゃ話しにくい事この上ないが、声をかけた以上このままスルーするのは不自然極まりないので、俺は思い切って燈色に話しかけることにした。


「よ、よう、元気だったか?」


 物凄く間抜まぬけな挨拶あいさつが、中庭全体にひびき渡った。

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