第4話 え?それは錯覚だからね?

さて、オフ会inカラオケ屋で行われた自己紹介後半の結論から言おう。


 現在、あこがれの師匠であるエリナさんが俺の横に座っており、周りから冷やかしの声が飛びまくりである。

 

 中には「ユー、付き合っちゃいなよ!」等という声まで飛んできており、俺がオフ会で一番楽しみにしていた「エリナ師匠と会う」って事を考えると、目的は200%くらい達成されたかのような錯覚さっかくに陥ってしまう。


 え?その言い回しだと達成してないかのように聞こえるって?それはこれから話す自己紹介後半の事を聞いてもらえれば納得して頂けると思う。


 里奈のこぼしたジュースで「テーブルがビタビタ大事件」も終了し、自己紹介は後半戦に突入していた。さっき最後の男性ギルドメンバーの挨拶が済んだとこだ。残すは女性陣のみという状態になっている。


 そういうわけでついに姉貴の番が回ってきた。さっきのジュースをこぼしたことが尾を引いてるのか、あんまり顔色はすぐれないように見える。


「じゃあ次の人行っちゃおかー」


 団長から、姉貴に向かって自己紹介の挨拶をうながす言葉が姉貴にかけられる。

 

 あー、すっげー緊張してるな里奈のやつ。さっきの事でかなりてんぱってると見た。あんなんでちゃんと挨拶できんのか・・・。


「えっと、あの、く、黒部里奈と言います。よろしくお願いします!」


 早口でそう一気言った後、姉貴は何事も無かったかのように自分の席に着席した。


 参加した全員の頭の上に「?」マークが浮かび上がるオフ会会場inカラオケ屋。正直、さっきのヒイロの挨拶よりひどいと思う。

 

 だって、キャラ名言わずに自分の名前だけで自己紹介終えるとか、それじゃ合コンと変わらないんじゃねーか?行ったこと無いけどな合コン。


「いやいやいや里奈さん、キャラ名も言わないと「ちょっと緊張しちゃってる人」の単なる合コンの自己紹介だよこれw」


 デスヨネー。姉貴の奴マジで何あんなに緊張してんだ。


「あ、あの、やっぱりキャラクター名も言わなきゃダメ?」


 こいつは何を言ってるんだ?キャラクター名を言わないで、どうやってオンラインゲームのオフ会を成立させると言うんだ。


「ね?恥ずかしいかもしれないけど、勇気を持って告白しようよ!」


 告白という言葉に再びドッと笑いが起こるカラオケハウス。団長の言葉に里奈の奴顔真っ赤にしてやがる。


 それにしても、あいつがここまでキャラクター名を言いたくない素振そぶりを見せるって事はだよ?よほど弟の俺に知られたくないキャラクターである可能性が高まってきたな。


 何しろ俺は、エリナ師匠との、キャッキャウフフなチャットをあいつに見られてる可能性が高い。だとしたら、最悪でも奴の弱みも握らねば!


 なんか、悪いことして、なんとか誤魔化ごまかそうとしてる奴みたいな感じになってきたな俺・・・。

  

 とりあえず今俺が出来ることは、あいつが超痛いキャラを使ってる可能性にかけることだけだろう。ていうか、ギルドチャットで痛い発言とかしてるキャラであって欲しい!


 で、肝心の姉貴だが、さすがにキャラクター名を言わないのは無理だと観念したのか、再び立ち上がって自己紹介を始めた。


「えっと、使っているキャラは、え、え、え・・・」


 うちのギルドには「えええ」さんなんていねえよ。なんだよその、ロープレで適当に名前付けましたみたいなやつは。あるよな、適当に名前つけて後で後悔するの。てか、死ぬわけじゃないんだから、さっさと自己紹介しろっつーの。


「え、え、え、エリナです!」


 ぶうううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!


 俺は飲んでたジュースを盛大に吹き出してしまった。咄嗟とっさに誰もいない方向に吹き出したことはめてもらいたい。


「がはっごほっごほっ」

「ちょっと、大丈夫?」


 またしても千隼さんこと、茅原桐菜ちはらきりなお姉さんがハンカチを持って出動してくれた。まさかこんな場所で姉弟揃ってお世話になるとは思わなかった。大変申し訳無い。


 「自己紹介で死ぬわけねー」とか言ったけど、マジで死ぬかと思ったわ!


 いやいやいやそれよりも、あいつ今エリナつったか?聞き間違いじゃなくて?えーまじで?


 え?ってことはあれか?俺、姉貴とイチャイチャしてたってこと?で、それをギルドメンバーに見られてたってこと?ひ、ひどいよ神様。何この仕打・・・・ウワアアン(ノД`)


 でも、それで数々の姉貴の謎行動の理由にも納得いった。

 

 姉貴のやつ、俺がダークマスターだってわかってからこっち、やけに虚ろな目でぼーっとしたり、てんぱったりしてると思ったら、そりゃ自分のキャラ名も言いたくないわけだわ。俺もそんな事知りたく無かった!


「ダーク君~、あこがれのエリナさんがこんな美人なお姉さんだったからって、ジュース吹いちゃうのはどうなのよw」


 団長がここぞとばかりに話しかけてきた。うわぁ、すっげーニヤニヤしてる。どうせさっきのジュース吹いたのも、あまりにも美人だったんで、驚きのあまり吹き出しちゃったとか思ってるんだろうなあ。


 まあ、緊張っつーか、自分がネトゲで好意を寄せていた人が、実は「姉」でした!っていう心境を、他人にどう説明したらいいかわからん。知らなかったとはいえ一つ間違えたら変態姉弟だよ!

 

「え?あーいや、えっとそのですね・・」


 俺が答えに困っているのを照れていると勘違いしたのか、団長が突然「シャッフルターイム!」と叫んだ。


 そして今、俺はエリナ師匠だと判明した姉貴と仲良く並んで席についています。


 な?錯覚だっただろ?(泣)

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