第3話 なんかもう帰りたい・・・
さて、俺の名前バレで良い感じに場が温まったオフ会は、
俺と姉貴を除いてね!
オフ会では、真ん中のちょっと大きめのテーブルを囲むようにソファーが並んでいて、十数名が参加したオフ会でも、それなりに余裕を持って座ることができていた。
団長の一通りの
以前言ったとおりこのオフ会では、自己紹介で初めて、誰がゲームキャラの中の人なのかを明らかにすることになっている。なので、例えば俺だったら「えー、ダークマスターでプレイしている黒部真司です。よろしくおねがいします」と自己紹介して、「えー、ダーク君、まだ高校生なんだー♪」とかお姉さまから言われて、キャッキャウフフと楽しく過ごせる予定だ。
すでに俺のキャラ名がばれてる以上、俺には当てはまらない予定だけどな。くそー
まあでも・・・。俺はちらっと、斜め前に座る姉貴の姿を確認した。里奈、つまり姉貴の奴が参加している以上、あんまふざけた挨拶はどっちにしても出来なかっただろう。
さっき俺が盛大にせきこんでた時、里奈の奴もしばらくは
「大丈夫ですか?」
などと、
つまりだ。あいつはこのオフ会で、あくまでも他人として俺と接するつもりらしい。
いや、俺だって姉弟で同じネットゲームを知らずにやってたとかちょと恥ずかしくはあるけど、他人のふりまでするか普通?正直ちょっとショックだったね。そこまで仲が悪かったとは思ってなかったし。それに今日、家で会話した時もそれほどじゃなかったはず。
てか、里奈の奴がこのゲームをやってたとはなあ。しかも同じギルドかよ。普通あり得ない展開だよな。これさ、18歳未満お断りのゲームとかだったらさ、オフ会の後、俺の部屋であんなことやこんなことが行われるフラグが立ちまくってるとこだよ。
うえぇ、気持ち悪い場面想像しちゃったぜ・・・。
「どもー、
茅原さんが自己紹介をすると、ああっ!と納得の声があちこちで
オフ会とかするとさ、やっぱゲーム内キャラと実際の人物とは性格が違う時も結構あるみたいなんだよね。そこへ行くとこの人は、最初からゲーム内のキャラクターまんまだった。俺の中での好感度が急上昇しちゃうね!
そういえば俺も、初心者の頃、よくこの人とエリナ師匠に強引に狩りに連れて行かれたなあ。しかも千隼さんヒーラーなんだけど、回復魔法のタイミングバッチリなの。これは師匠以上かもと俺は個人的には思ってる。たぶん、味方の動きをしっかり観察してるんだろう。
そして、次に紹介を始めたのはさっきの美少女の子だった。さっき、俺からぷいっとそっぽを向いた無愛想な子ね!
「
それだけ言ってその場にすちゃっと座る古名燈色。
まさかそれだけで挨拶が終わるとは思ってなかったんで、オフ会参加メンバーのほぼ全員が「え?今ので終わり?」みたいな空気になっている。そういえばこいつ、俺が来てから限定だけど、だれとも話さず、ずっとスマホばっかりいじってたんだよな。
「燈色ちゃん、高校生?」
部屋の中がちょっと微妙な空気になりかけた頃だった。団長が、周りの動揺を制するように古名燈色に質問する。
「うん。今年入学したばかり。」
「そっか、じゃあしばらくは心置きなくゲーム出来るね」
「うん」
なんかほっこりした気分になってきた。さすが団長。まあ、年下だし、さっきの無礼(俺からそっぽ向きやがった事ね)は多めに見てやろう。
いや本当に根になんか持ってないよ?
そういえば、ヒイロとは一緒に狩りにでかけた事がない。大体ソロでプレイしていることが多く、誰かと遊んでるのも見たことが無いな。ギルドチャットでもほとんど話さないし、あんまり大勢でつるむのは得意じゃないってのは見てわかる。
あれ?じゃあなんで今日のオフ会に参加してるんだろ?なんか、見るからに人と絡むの苦手そうなのに。よくわからん奴だな。
まあ、そんな感じで自己紹介が進んでいき、いよいよ俺の番が来た。
いやちょっと待てよ?さっきみんなに名前バレしたんだし改めて自己紹介する無いんじゃないかこれ。そう団長に言ってみると、
「いやいや、みんな君の本名知らないし、さっき後から来て、君を介抱してくれたお姉さんはたぶんキャラ名も知らないと思うよ?」
後から来て、俺を介抱してくれたそこの女は俺の姉です。
と、思わず口にしかけたが、里奈の奴がさっき俺を他人扱いしていたのを思い出したのでそれは言わないことに。
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
大事なこと忘れてた。里奈が俺と同じギルドってことはさ?ギルドチャットで、もしかしたら話したことあったりするかもしれないってことだぜこれ。
それだけならともかく、俺とエリナさんのいちゃいちゃらぶらぶトークなんかも聞かれてた可能性がある!うわぁ、考えたくねえ・・・・。だってさ、結構な
ダーク「エリナ師匠!今日はまた一段とお美しい!」
エリナ「きゃー。だってだって、今日はダークの為に一生懸命おしゃれしてきたんだもん♪」
ダーク「師匠・・・(〃∇〃)」
とか、
エリナ「今日のダーク、めっちゃカッコ良かった!私が敵モンスターに攻撃されないよう、一生懸命立ちまわってくれて・・・・」
ダーク「俺は師匠の為ならどんな困難にも立ち向かえるぜ!」
エリナ「ダーク!(*ノェノ)」
幾つか思い出しただけで
いやいや、でもまだ里奈の奴がどのキャラ使ってるかわかんないから、俺にもワンちゃんあるでしょ!例えば、里奈がすっげえ自分ルール押し付けてくる奴な可能性もある。!
「その立ち回り方で、よくこのダンジョンに来ようと思いましたね(^_^;)」
とか
「お前もうちょっと上手くなってから来いよ。迷惑なんだよ!」とか。
あー、今の全部オレが初心者の頃、今はもうギルドを抜けていった奴に言われたセリフだ。ちょっとへこんできた・・・。
「ダーク君、ダーク君。戻っておいで~w」
そんな
ううっ、恥ずかしい。
ふと団長の隣を見ると、さっき俺からそっぽを向きやがった古名燈色が「何この人?」みたいな、不思議な生き物を見るような目で見てやがる・・・。言っとくがな!お前だってあんま俺と変わらんのだぞ!?いやむしろ、皆を笑わせてやってるんだから、立場としては俺の方が上だ。
と、はっきり言ってやった。心の中でな!
それよりも、今一番大事なのは姉貴の反応だ。俺はそーっと姉貴の方を見た。うわぁ、なんかゴミでも見るような冷めた目で俺を見てる~。なんかもう帰りたい・・・。
「あー、オホン」
俺はわざとらしい
「えー、さっき明海さんにネタバレ食らったんでみんな知ってるかもですが、本名は黒部真司、使用キャラはダークマスターです」
俺は出来る限り簡素に自己紹介した。これ以上、姉貴に
「そして黒を征する男だ!」
「そう!俺は黒を征する・・・って!団長何言ってんの!?」
せっかく俺が簡単に自己紹介したってのに、思い切り余計な一言を横からぶっこみやがった!いやね?普段ならネタということで、俺も甘んじて受け入れますよ?でも今向こうにお姉ちゃんいるの!マジやめて!
爆笑の渦に部屋が巻き込まれる中、俺は今日何度目かのお姉さまチェックを行った。たぶん俺のことをこれ以上無いくらいの生暖かい目で見ていることだろう。
ちらっ。
ところが俺の予想に反し、里奈は口を半開きにして「ぽか~ん」という感じで俺の方を見ていた。紙コップに注ぎかけのジュースをドバドバとテーブルにこぼしながら。
「ちょ!ジュース!ジュースこぼれてるよ!」
俺が慌てて指摘すると姉貴のやつもそれに気付いたようで、慌ててペットボトルをテーブルに置き、バッグからハンカチを取り出そうとして、今度はジュースがなみなみと注がれた紙コップを倒してしまう。
「大丈夫大丈夫、落ち着いて。ね?」
隣にいた茅原桐菜さんこと千隼さんにフォローされながら、姉貴は慌ててテーブルの上を拭いていた。うわあ、顔真っ赤だぜ・・・。さすがにこれは見てない振りをするしか無いな。
それにしても、何をあんなに慌ててたんだ里奈のやつ。
あいつが実は、クールぶった慌てん坊だという事を俺は知っている。なんかあると、今みたいにすぐてんぱるんだよ。あと、すぐキレる。ちょっと前も俺相手にめっちゃキレて・・・・。
あれ?なんであの時姉貴のやつキレてたんだっけか?まあ今思い出す話でも無いし別にいいか。
「いやあ、イベントに付き物のアクシデントまで飛び出てきて、今日のオフ会はフルコースで楽しいね!」
テーブルの上を一通り拭いた後、団長がフォローを入れる。
「そもそも、ダーク君の名前バレという、一大アクシデントからいきなり始まったしね」
そして、桐菜さんがパチンと俺にウィンクしながら団長の後に続く。 いやあ、さり気なくフォロー出来るこの二人さすがだわ。それに比べて、今日の黒部姉弟の何と
「いや、そもそも黒を征する者ってところからすでにアクシデントのような・・・」
そして明海さんからの止めの一撃である。そもそもあんたがネタバレしたのが原因なんじゃないか・・・。そして古名燈色が、今度は口を抑えて後ろ向きで笑いをこらえてる。背中がぷるぷる震えてるからすぐ判るんだよ!
いや、別にもうなんでもいいんだけどね・・・。
そしてすっかり打ち解けた雰囲気の中、オフ会の自己紹介は後半へと続いていく。
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