第一章 黒部真司と黒部里奈

第1話 ギルド「自由同盟」オフ会の朝

 その日の俺は、朝から浮かれまくっていた。


 何故かと言うと、今日の夕方から、俺がいつも遊んでいるオンラインRPG「ザ・ブラックアース」の同じギルドの仲間とのオフ会が予定されていたからだ。


 日曜の朝だというのに早起きまでして、朝イチでネットにつないでゲームをやっている。


ダーク「やあみんな、さわやかな朝だね!」


団長「お、ダーク君朝からご機嫌だね」


 団長と言うのは、俺が所属しているギルドのリーダーだ。キャラクター名は団長。ゲームをはじめた時からギルドマスターになる気満々だったらしい。


あ、ダークってのは俺ね。本名が「黒部真司くろべしんじ」で、黒が付いてるからだからダーク。


 それともう一つ、このゲームが「ザ・ブラックアース」って名前だった事もあって、ゲームNo1プレイヤーになってやる=ブラックアースを征する=黒を征する=ダークマスターの流れもある。


 それはもうカッコいい名前が出来たと喜んでた時期が僕にもありました。


ダーク「そりゃ今日は楽しみにしてたオフ会だからねー。朝7時に目が覚めちゃったよ」


団長「遠足前の子供かっ!」


 (x_x) ☆\( ̄ ̄*)バシッと言う、顔文字とともに俺にツッコミを入れる。


 てかこの人、妻帯者さいたいしゃなんで明らかに俺より歳上なんだけど、高校生の俺のタメ口とかも「ゲーム内だから全然OK」とか言って、気にもしないんだよなあ。


 まあ、そんなこんなで、ギルド専用チャットで他愛たあいも無い会話をしていると


 (エリナさんがログインしました)


ダーク「師匠きたあああああああああああああああああああああああああっ!」


エリナ「ダークうううううううううううううううう、会いたかった><」


団長「いやいや、とりあえず俺も居るよ?w」


 このゲーム、ギルドメンバーがログインすると上のようなログが表示されて、誰がログインしてきたのかが、ギルドメンバーにわかるようになっている。


そしてログインすると、ギルド専用チャットに自動的に接続されて、メンバーだけで会話が可能になる。


 エリナ師匠は、俺が初心者の頃から手取り足取り教えてくれた本当に師匠のような存在だ。高LVゲーマーの中には、低レベルの人と一緒にプレイするのを嫌がる人もたまにいる。


 だって、初心者を相手にしている間は、自分の経験値やお金を稼げる狩場に行けないってことだからね。なので、嫌がるのは仕方ないことだとも言える。


 だがエリナ師匠は「初心者を育成するってことは、高いレベルの狩場で一緒にゲーム出来る未来の仲間を増やしてるのと一緒なの。だから絶対マイナスにはならないよ?」ときたもんだ。カッコいいです師匠!


 ダーク「師匠!師匠も今日のオフ会参加するんだよね?」


 エリナ「もちろん!めっちゃ楽しみにしてたもん♪」


 うっひょおおお、これはもう今日のオフ会、マジで楽しみになってきたぜ!


 団長「ああ、そういえばダーク君には言ってなかったけど」


 ダーク「なんです?」


 団長「あのね?普通にオフ会してもつまらないから、俺以外のメンバーは、それぞれ参加しようという事になったんだ。」


 つまりオフ会では、誰がどのキャラの中の人なのかを団長以外は全く知らないままスタートし、自己紹介の時にキャラ名と名前を言って、そこで初めて「えー、君がダーク君なんだ~♪」となる予定らしい。


 ダーク「いいねそれ!自己紹介の時まで、誰が誰か全くわからないのが凄くいいね!」


 団長「だろ?まあ、全く知らない奴に紛れ込まれてもあれなんで、俺だけはキャラ名とか把握しとくけどね」


 エリナ「誰が誰なのかを予想するの楽しいかも」


 団長「いやあ、俺も「黒を征する者」を皆に紹介できるかと思うと楽しみで仕方ないよ~」


 ダーク「団長!その「黒を征する者」やめたげて!黒歴史だから!」


 団長「ダークマスターだけに黒歴史とは・・・・やるなダーク君」


 エリナ「ダーク、今のはちょっと・・・・」


 ダーク「違うから!上手いこと言おうとした訳じゃないから!止めないと俺泣いちゃうよ?」


  むう、出来ることなら名前を付ける瞬間までタイムスリップして、昔の自分に「その名前だけはやめとけ!」って忠告したいくらいだぜ。


 まあ、そんなくだらないやり取りをした後、俺は出かける準備の為に、ゲームからログアウトした。


「あれ?あんたどっか行くの?」


 出かけようとして階段を降りてると里奈、つまり姉貴に出くわした。小脇にノートパソコンを抱えている。


「あ、うん。ちょっと駅前まで。」


「あ、そ。」


 すっげ素っ気ない返事が帰ってきた。が、顔はニコニコしてるので機嫌はめちゃくちゃいいっぽい。


「あー、私も今日、後からでかけるんだけど、部屋に勝手に入らないでよ」


「へーへーわかってます。つーか、俺も帰るの夕方過ぎだし。晩飯には間に合わないかもってお袋には伝えてある」


 もちろんオフ会とは言わずに、友達と遊ぶって言ってるけどな。オフ会とか言ったら絶対心配するもん。よくあるTVとかでの、ネットの暗い部分の報道が全てだと思い込んじゃうタイプだからなお袋は。


「あれ?私も今日遅くなりそうなんだよねー。じゃあ、お母さんとお父さんの二人だけでご飯かー。」


「たまには良いんじゃね?」


 それもそうねーと言いながら、姉貴は自分の部屋に戻っていった。それから、お袋に出かけてくると一言告げて玄関を出ようとした。


「あら?どこ行くの?」


「いや、今日は友達とカラオケつったじゃん。聞いてなかったのかよ」


 散々遊びに行く話をしてやったのに、すっかり忘れてやがるぜお袋め。


「あれ?それお姉ちゃんの話じゃなかったっけ?」


「は?」


 お袋が言うには、姉貴も今日、友達とカラオケの予定なのだとか。しかも俺と時間被ってるし。同じカラオケ屋とかだったら嫌だなあ。最近、大学でのストレスからか機嫌が悪いことが多いし、オフ会とかばれたらチクられそうで怖い。


 今年から大学生になった里奈(姉貴の事ね)は、地理学を専攻して、そこの教授のことは凄く尊敬してるって話を飯の時にしてた。。ただ、講師と反りがあわないとかで毎日そのことで夕飯時に愚痴っている。まあでも、嫌がらせとか受けてるわけじゃなく、考え方が根本的に合わないのだとか。


 弟の俺が言うのもあれだけど、里奈は割りと美人な方だとは思う。身長も165くらいあるみたいだしスタイルも良い。ちょっと切れ長の目と軽く茶色に染めたセミロングの髪が綺麗なお姉さんとは、俺の友達から見た姉貴評だ。


 世間ではさ、美人の姉ちゃんがいるとかうらやましい!と、よく言われるが、弟にとってそんなことは全く何のメリットでもないからね?たぶん妹がいる全国の兄貴諸君も立場は変わらん気がする。


 そんな姉貴とは、これまではまあまあ仲良くやってきた。だけど、ここ半年くらいはちょっと疎遠って言うか、姉貴からの反応が冷たい気がする。さっきの大学でのストレスとかとは別でね。


 以前はさ、結構頻繁に一緒に買物行ったり飯食いにいったりしてたんだけどね。


 なんて言うか、以前の姉貴は、そりゃもう弟べったりの姉だったと思う。あいつ高校生にもなって、中坊の俺と風呂はいろうとしてたからな。一瞬、それどんなエロゲ?って思ったもん。さすがにそれは恥ずかしいからと俺が断ると、すげえしょんぼりしてたのを思い出す。


 そんな事を考えながら歩いていると、いつの間にか駅前まで来ていた。


 オフ会は未成年もいるからということで、カラオケ屋で行うことになった。団長の知り合いのカラオケハウスの大部屋を予約したらしく、食べ物と飲み物の持ち込みOKらしい。


 自分が未成年なので申し訳ないな~ってギルドチャットで言ったら、「大丈夫大丈夫!大人は大人で今度飲み屋オフするしw」と二カっと笑った(ように見えた)団長まじカッケー。


 とりあえず用事をちゃちゃっと済ませてから、カラオケ屋に行くことにするか。


 思えばあの時、俺は初めてのオフ会ということで、かなり浮き足立っていたと思う。なので、姉貴と俺が同じ日の同じ時間、しかも、場所もカラオケ屋で同じであるという偶然に何の疑問も持たなかったのは仕方のない事だと思うんだよ。


 そしてそれがあんな悲劇につながるとか、予想なんかできるかっつーの・・・。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る