堂々巡り

 「身だしなみ大丈夫?」

 見送りに出てきた姉に唐突に問われ、蒼子は瞠目した。一縷の不安を覚え、玄関扉に掛けてある鏡に全身を映したが、何処から見ても清楚な新卒学生の模範的な姿だった。昨日買って今日の朝に開封したスーツは、皺一つ付いていないし、スカート丈も規定通り。今日の最終面接で何としても内定を取る為に用意した一張羅に一分の隙もない。

「うん、大丈夫だよ! お姉ちゃん楽しみにしててね。絶対に就職決めてくるからね」

 自信満々に意気込みを語る妹を前に、姉はため息を吐いた。

「蒼子、なんでも疑う姿勢を身に付けなよ。ちょっと見ただけで大丈夫って言うけど、具体的に何に気を付けたら良くて、何が良いのか、解ってる? 安易に大丈夫って言っていると、細かい視点を無くしてしまうんだよ」

「新しいスーツ買って着てるし、スカート丈も規定通りだから大丈夫だよ! いってきます!」

 蒼子は姉の忠告を安直な自信を以て受け流し、扉を潜ってしまった。黒い背広に白い仕付け糸がやたらと映えていたが、扉の開閉音に遮断された姉の声は届かない。

「大丈夫って言ってるから、大丈夫じゃないんだよ、そういう所が……」

 姉は肩を落とし、二度目のため息を吐いた。

蒼子が庭を出る前に呼び止め「仕付け糸!」と教えてやると、蒼子は慌てて戻ってくる。

 大丈夫とは注意力を削いでいく諸刃の剣なのかもしれない。



(お題:だいじょうぶ)

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