第81話

「つぐなサン、俺はあゆや兄貴ほど、うまい立ち回りは出来ません。」

「それでいいんだ。ありがとう、コタ君。」

コタ君からの連絡を受けて、私は店先ギリギリに立った。寒いわけではなかったけれど、体の芯から冷えているような、そんな気がした。

コタ君は、拓真を一度無理にでも外に出す、と言っていた。

「…つぐ。」

「こんにちは。拓真。」

「…風邪ひくぞ。」

「まだそんな季節じゃないわ。」

驚いた様子の拓真からは心配の言葉。

「私は、あんたが逃げてると思ってたの。…でも、亜哉に言われた。逃げてるのは私だって。何も知らない、あのあほな亜哉に。だから来た。私は、あんたから逃げたくない。」

幼稚でしょうもないというならば言えば良い。それでも。

拓真は無言で、店の扉を開く。

「あゆ!コタ!ちょっとつぐと話してくる!」

「了解。」

今は表に弟妹が出ているらしい。あゆちゃんは、私の存在を聞いて、声に微かに驚きを滲ませたが、店に入ればいいなどという野暮なことは言わなかった。

「…行こうか、つぐ。」

「どこに?」

「どこに行こうか。巧さんのところも遠いし。」

「…だったら、私の行きたいところに連れて行ってくれる?」

拓真は不思議そうな顔をしながらも、

「俺の連れていけるところならば。」

「大丈夫。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る