第59話

あゆちゃんは少しためらってから

「つぐちゃんは…郁ちゃんに会ったんだよね。」

「ええ、綺麗…というよりかは、可愛らしい人だったね。あの人ハーフ?」

あゆちゃんは驚いたように

「惜しい、クオーター。みんなわからないのによくわかったね。イギリスの血が入ってるよ。コタなんて”郁って染めてんじゃねーのかよ”って最近まで言ってたのに。」

「あの人の茶髪はあまりに綺麗で、染めたようには思えなかった。あと、あの屈託の無さが同じ日本人だとは思いたくなかった。」

少しだけげんなりすると、あゆちゃんは笑って

「今もイギリスの親戚のとこに身を寄せているそうですよ。」

私は息を抜いて

「とても可愛い人だった…。拓真が惚れるのもわかるわ。女の私でも可愛いと思ったもの。」

掛け値なしの本心だった。あの人の天衣無縫っぷりは作られたものではない、天然培養だ。

「ええ。郁ちゃんは可愛いです。でも、見た目ほど甘い人でもないですよ。」

あゆちゃんは悪戯っぽく、ちょっとだけ拗ねたように言った。

「どういうこと?」

「だって、つぐちゃんにもわかったんでしょ?兄ちゃんがあの人のことを数少ない憎からず想ってる人だって。」

あゆちゃんに私と拓真の関係は、少なくとも私の口からは言っていない。それでも血のつながった兄弟で、一番敏い娘だ。勘づくものがあったのだろう。

「…ええ。」

「その男の家に、ボーイフレンドをなんの屈託もなく連れてくるんですから。」

「ああ、そういえば…。なんかあっちにはいい殿方がいて、何人か友人と来た、って言ってたわね。」

その時はいっぱいいっぱいでなんとも思わなかったが、言われてみれば引っかかる言葉だったかもしれない。

「お兄ちゃん、つぐちゃんと別れた後、どんな気持ちで郁ちゃんと、そのボーイフレンドと友人と店まで来たのかしらね。いいザマ。」

ふん、と鼻を鳴らすあゆちゃんに苦笑を返す。

「そういわないであげなよ。拓真の数少ない大切な人なんだから。」

その言葉に、あゆちゃんの目がきらりと輝いた気がした。

「そうよね。ここまではつぐちゃんもわかってたはず。本題はここから。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る