「な、なに？」

柄にもなく動揺してしまった。まだ、彼も私のことを”つぐ”と呼んでくれた。

「俺にとって、お前はトクベツだって言っただろう？」

「ええ、あゆちゃんみたいって言ってくれたわね。」

拓真の言葉で妙に冷静になった。軽い棘をさすことくらいはできた。

「…こないだの話は忘れてくれていいわよ。終わるときに言おうって最初から決めてたから。今日はごめんなさいね。私ともども後輩が迷惑をかけた。」

拓真の目を見たらまた引き込まれてしまう。それくらいにはまだ好きな自覚はあった。目を合わさないように立ち上がろうとする私の肩を抑える。強い力ではないけれど、私から立つ力を奪うには十分だった。

「行かないで、つぐ。」

数秒前の決意が壊されて、私は拓真を見る。拓真は、今までで見たことのない不安で揺れた表情をしていた。

「俺はね…。お前のことを恋愛感情で好きなんて言えない。」

流れるように振られたことに気づいて愕然とする。私はなけなしの意地で平静を装って、

「知ってた。」

知ってた。いや、本当に。これは強がりじゃない。それもすべて分かったうえで。そんなマイナスも理解したうえで愛してしまったのだから。

拓真の押さえつける手をどけようとするけれど、悔しいことに力の差は歴然としていた。女にしては力のある私でも、びくともしない。

「話は最後まで聞け。つぐ。」

「いやよ。」

抵抗はするが、慣れてしまっている拓真にはもう通用しない。

「じゃあ、勝手に話す。確かにお前のことを好きとは言えない。でも、お前が俺以外の誰かの前で本気で怒って本気で泣いて苦しんでるのもゴメンなんだ。意地っ張りで素直じゃない、つぐはいつも本気で、出逢ってからそんな長い時間じゃないのに、あゆと同じくらいの距離感の相手なんだ。」

「そんなこと言われたって…。」

喜ぶべきか怒るべきか泣くべきかよくわからない。拓真が恐ろしく真剣なことはわかるけれど、その真剣さに向き合える言葉を私はもっていない。

「そりゃ、当たり前だ。俺もそう思う。…だからお互い、離れたいと思うか、本物の恋人になりたいと思うか…。もう少し、契約続けませんか？」

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